第8話強襲の遠吠え
祐介の実家の実家を出た高山とジョンは、近くの喫茶店でランチを食べていた。
「でも結局、祐介の遺品からは何もわからなかったなあ・・・。もう、キラーリストに近づく方法は無いのか・・・?」
「確かに奴らが祐介を殺したことを示す証拠は無かった、けど奴らが祐介に近づいていたという証拠はあった。」
「どういうこと・・・?」
疑問を浮かべる高山にジョンは、持ってきたカバンから一つのファイルを取り出し、その中の一枚を高山に見せた。載っていた顔写真を見て高山は唖然とした。
「これって、美央さん・・・・。」
「それは偽名、本名は李カルラ。中国人と日本人のハーフで、彼女は男女を問わずターゲットに近づくのが上手い人なんだ。だから祐介に近づいたのも、暗殺者にターゲットの詳しい情報を伝えて、確実に仕留めるための計画を立てるためなんだ。」
「そんな、じゃあ祐介は・・・。」
奴らの手の中にずっといたという事を考えると、高山は鳥肌が立った。
「でもやはり、それだけじゃ奴らが祐介を殺したという証拠にはならない。」
ジョンも高山も、頭のなかでこれからどうするかについて頭を抱えていた。
高山とジョンの座っている席から離れた所の席にいる、美人の女性が二人を見つめた後、スマートフォンを掛けた。この女性こそ美央こと李カルラである。
「ボス、ターゲットを見つけた。」
「了解、それでジョンは何をしていた?」
「あたしの事をハスキーの飼い主にばらしやがった、これじゃあ面が割れてしまって計画が潰れてしまったわ。」
「ふーむ、そいつは面倒なことになった・・・。仕方ない、ミス・ユリカをお前の代わりという事にしよう。」
「あの子ね・・・、まだ入ったばかりで日も浅いというのに・・・。」
「お前だって、せっかくのベイビーを自ら殺したばかりじゃないか。そんな体で、完璧に仕事ができるわけないだろう。」
李カルラは祐介との間に出来た子供を、妊娠の内におろした。もちろん仕事のためなのだが、おろした時の手術の影響で疲れを感じていた。
「そうね、これから一週間休ませてもらおうかしら。」
「そうするがいい、とにかく今日のミッションは終了だ。」
「OK、ボス。」
李カルラはボスとの通信を切ると、平然を装って会計を済ませて喫茶店を後にした。
李カルラが喫茶店を出て五分後、高山とジョンも喫茶店を出た。高山は家に置いてきたハスキーが心配のあまり、落ち着かない様子で早歩きをしていた。高山とジョンが家に帰ってくると、ハスキーはいつも通り高山に飛びついた。
「よしよし、遅くなって悪かったな。」
するとハスキーは玄関の方へ向かい、ドアを開けようと体をドアにぶつけた。
「こらこら、ダメじゃないか!」
実は今日からハスキーの散歩の頻度を控えることにしたのだ、なのでハスキーはエネルギーが有り余っていているのだろう。
「やれやれ・・・、外へ連れて行きたいけどなあ・・・。」
「パラドックス・ウルフ、辛抱してくれ。」
高山とジョンは、ハスキーを撫でながら言った。
翌日、高山が書店で店番をしていると一人の少女がやってきた。
「あの、すみません。」
「どうしましたか?」
少女は何故かもじもじしながら本を出した。
「購入ですか?」
少女が頷いたので、高山は会計をした。
「また、来てもいいですか?」
「ええ、もちろん。」
その日少女は帰ったが、翌日少女はまた書店に来た。
「あの、もしよければこれを貰っていただけませんか?」
そう言って少女が出したのは、ドッグフードだった。
「え・・・・。」
高山は絶句した。
「あの、犬は飼っていないんですか?」
「いや違う、突然渡されたからびっくりしたよ。でもよく僕が、犬を飼っていることがよくわかったね。」
高山がそう言うと、少女はそのまま走り去ってしまった。「何だったのか?」と思った高山だったが、ハスキーのご飯をくれてありがとうと感じた。そして帰宅後、高山は貰ったドッグフードをハスキーに食べさせようとした。
「あれっ?いつもと違うドッグフードですね、どうしたんですか?」
ジョンが声をかけた、高山も普段あげているのとは違うと気づいていた。
「ああ、店に来たお客様からもらったんだ。」
するとジョンは血相を変え、ドッグフードが盛った皿を持って台所へ向かうと、ごみ箱にドッグフードを全て捨てた。
「あっ!何するんだよ、いきなり!」
「高山さん、これは奴らの罠かもしれません。」
高山は言われてハッとした。ドッグフードをくれたあの少女は、教えてもいないのに自分が犬を飼っているという事を知っていた。
「確かに・・・、気前が良かったから気がつかなかったよ。」
「でも高山さん、これはチャンスです。明日高山さんが働いている書店へ行って、ドッグフードをあげた奴を捕らえましょう。」
「そうだな、その日はハスキーも散歩させてあげよう。その姿を見たら、奴らびっくりするぞ!」
翌日、書店にジョンとハスキーが来た。ジョンは高山に合図を送り、高山は頷いた。ジョンは目立ちにくい服装をしているため、はたから見れば立ち読みしている少年にしか見えなかった。ハスキーも、今日は書店の中で大人しくしている。
「こんにちわ。」
書店のベルの音と同時に、彼女の挨拶が聞こえた。
『来たぞ、ジョン!』
高山は合図を送り、ジョンは頷く。
「あの、昨日のプレゼントはどうでしたか?」
「ああ、すごく良かったよ。同じのをまた買おうと思ったよ、どうもありがとう。おーい、こっちだ。」
高山に呼ばれ、ジョンとハスキーがやってきた。
「この人がドッグフードをくれた人なんだ。」
「ありがとうございます。」
ジョンは頭を下げ、ハスキーも「ワン!」と一声鳴いた。
「え・・・・。ど、どういたしまして・・・。」
お礼の声に、明らかな動揺を感じた。そして少女が本棚へ向かおうとした時、ジョンは少女の手を掴んだ。
「離して!」
「君が連中の仲間だという事はわかっている、話を聞かせてもらおうか。」
すると少女は強引にジョンを振り切ると、猛ダッシュで走り出した。ジョンとハスキー、そして高山が後に続く。
「待てーっ!」
高山が叫ぶが少女は無視して走る、しかも陸上をしていたのか凄く走るのが早く、ジョンもハスキーもなかなか追いつけなかった。高山が息を切らしてへばっていると、一枚の紙切れが目に付いた。
「何だろう、これ?」
高山が拾い上げ首を傾げていると、銃声が聞こえた。
「ジョンかハスキーが打たれた・・・・!」
高山が血相を変えて慌ててジョンとハスキーを捜すと、ものの五分で見つかった。
「ジョン、パラドックス・ウルフ!大丈夫か!?」
「うん、でも少女は黒いバンに乗っていった。あと少しの所で、あいつの銃にけん制された。」
高山はほっとした顔で、ハスキーとジョンの頭を撫でた。
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