逆狼男

読天文之

第1話訳ありの犬

 私は高山卓、下町の書店で店長をしていて、どこにでもいるしがない男だ。そんな私はペットOKのマンションで、「パラドックス・ウルフ」というハスキーど一緒に暮らしている。このパラドックス・ウルフは一見どこにでもいるハスキーにしか見えないが、実はヤバイ訳ありのとんでもない能力を持っていた。幸い私は懐かれているので問題はないが、決して他人に預けることは出来ない。これから私とパラドックス・ウルフの話をしよう・・・。



 今から三年前、その時高山は今住んでいるペットOKのマンションに引っ越そうとしていた時だった。私は「ペットOKなら、犬を飼いたいな。」と強く思っていて、顔の広さをいいことに、知り合いに「犬の貰い手を探している人はいませんか?」とスマホで募集をしていた。しかしこれといった連絡がなく諦めかけていたころ、祐介から連絡が来た。祐介は小学三年から仲良しの親友で、保健所で働いている。

「高山か?犬が飼いたいんだよな・・・?」

「ああ、もしかして見つかったのか!」

「なら丁度いい、実は行き場のないハスキー犬がいるんだ。もしいいなら、引き取ってくれないか・・・?」

「おお、ハスキーか!俺、大型犬買ってみたかったんだ。」 

「そうか・・・、じゃあ一度紹介したいから来てくれないか。待ち合わせ場所は近所の柳公園だ。」

「わかった、明日でいいか?」

「ああ。」

 ここで祐介からの電話は切れた、高山はハスキーを飼うことに胸を膨らませ一日千秋の思いだった。

 そして翌日の午前、高山が柳公園のベンチに座っていると、祐介がリード付きのハスキーを連れてきた。ハスキーは毛並みがよく、一見すると狼に見間違う程立派に見えた。

「おお、これがハスキーか!かっこいいな、気に入ったよ。」

 高山はすぐに気に入った、しかし祐介はそんな高山に神妙な顔で言った。

「高山、本気でこのハスキーを飼うのか?」

「当たり前だろ。」

 高山がけろっと言うと、祐介は話し出した。

「君に伝えなければならないことがある、このハスキーにはヤバイ能力が秘められている。」

「何、それは冗談なの?」

「本気だ!」

 祐介は怒鳴った。

「悪かったよ・・・。もしかして、空を飛べるとか?」

「そんなメルヘンチックなものじゃない、狼男って知ってるか?」

「知ってるよ、ある男が満月を見ると体じゅうに毛が生えて、牙もついて爪が鋭くなって、最終的に狼になってしまうあれだろ?」

「そうだ、このハスキーも満月を見ると変身する。ただし、狼ではなく大男に。」

「大男に?」

「正確には、満月の夜に大男に変身するんだ。」

「それは本当か?」

「ああ、しかもその大男に理性があるならまだいいが・・・・、そいつには理性は欠片もない。とにかく生きていても加工されていても、肉のニオイがすれば捕食する。見た目は大男で中身が凶暴な狼、といった感じだ。」

 高山はその大男を頭の中で想像した、狂人のような「身近にいたら怖い」という印象を感じた。でもハスキーを見ていると、やはり高山は個人的に信じられない。

「うーん、どうも僕は信じられない。人肉を食べた飼い犬が凶暴になるのは聞いたことあるけど・・。」

「そうか、ならこのハスキーがいかに恐ろしいかが分かる場所がある、見たくはないか?」

 高山は頷いた。

「なら行こう、僕の車に乗ってくれ。」

「わかった。」

 祐介はハスキーと高山を連れて駐車場に向かい、停めておいたワゴン車にハスキーをケージに入れて乗せ、高山を助手席に乗せた。祐介の運転するワゴン車は、柳公園から五十分かかる場所に到着した。そこは白塗りのある建物だが、市役所のような堅苦しさを感じる。だが窓ガラスがいくつか割れていて、立ち入り禁止の黄色いテープが出入り口に貼られていた。しかも黄色いテープの内側には、割れたガラスが散乱している。状況を見た高山が言った。

「酷いな・・・、荒っぽい強盗に入られたのか?」

「ここは僕の働いていた保健所だ、強盗が目を付けそうな物は無い。」

 祐介が言った。

「じゃあ本当に・・・、このハスキーが・・・・。」

 高山は恐怖で震えていた。

「このハスキーが暴れだした時、僕は家に居たから助かった。でも保健所にいた犬猫は、ハスキーが変身した大男によって全て食べつくされた。更に夜間勤務の職員一人と、二人の警備員が襲われた。二人の警備員は無事だったが重傷で、職員一人が亡くなった。」

「そうか・・・、それでこのハスキーはどうしてこの保健所に来たんだ?」

「元はSという男がここに引き取ってくれとこのハスキーを連れてきたんだ、なんでもこのハスキーはSの親戚のペットだったそうだが、その親戚が庭でバーベキューをしていた満月の夜にハスキーが変身した。ハスキーはSの親戚を食い殺した、その場にいたSは親戚の妻と息子を車にのせ自宅に避難した。翌朝、Sが様子を見に行ったらハスキーは元に戻っていて、Sの親戚は無残な姿になっていたという。」

 高山は思い悩んだ。もしこのハスキーを飼うことを決めてしまったら、満月の夜に自宅が祐介の働いていた保健所のようになってしまう。するとハスキーが高山に近づいてきた、そして高山の左足に顔をこすりつけた。

「驚いた・・・、どうやらこのハスキーに気に入られたようだ。」

 高山はかがんで、ハスキーの顔を見た。狼のような顔には合わないつぶらな瞳、高山は心に、金槌で叩かれたような衝撃を感じた。

「それで最後に聞くけど、君は何が何でもこのハスキーを飼うんだね?」

 祐介が真剣な顔で尋ねた。高山としては自ら懐いてきたハスキーを諦められないうえ、もし断ったら次のチャンスはいつになるか分からない。

「わかった!覚悟を決めて飼うよ。」

「そうか・・、じゃあもし何かあったら僕に必ず連絡してね。」

「ありがとう、祐介。」

 その後高山はハスキーと一緒に祐介のワゴン車に乗り、高山のマンションまで送ってもらった。その後高山はハスキーのためのエサと犬小屋を飼いにホームセンターに行った、ホームセンターから帰った後はハスキーにエサをあげた。

「そういえば、名前を決めていなかったな・・・。犬から人へ・・・、狼から人へ・・・、狼男の逆・・・、そうだ!パラドックス・ウルフだ。」

 こうしてハスキーの名前は決まった。それから高山はハスキーの変身に備え、次の満月がいつなのかインターネットで調べた。

「やばっ、明後日じゃないか!」

 高山はそうそうに、対策に追われることになった。

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