第64話 コマンドスペル
★ ★ ★ ★ ★
流斗が去ったことで、道場の前には火口と紫苑が残された。
「へぇ、そうかぁ~。お前……半人半魔か?」
紫苑の背中から生えた黒い翼と真っ赤に染まった瞳を見て、火口は嗤う。
「ええ、私は悪魔と人間のハーフ。そして、流斗様は私の契約者。よって主の命により、あなたにはここで消えてもらいます」
火口の嘲りに、紫苑は冷淡な声で答える。
「そう言わずにさぁ、ちょっとはお喋りしない? 天枷紫苑ちゃん、女は常に余裕を持ってなくちゃ、すぐに男に逃げられちゃうよぉ」
「気安く話しかけないでください、人殺しが」
「何を言ってんだ? お前だって、人を殺したことぐらいあるだろぉ? お前の主にだってあるはずだ。人殺しの経験がぁ」
「それは……」
「神崎流斗――あいつの目は、明らかに人を殺したことのある目だ。しかも複数人。罪は重いぞぉ。所詮、お前らはオレたち魔術犯罪者と同類なんだよ」
「違う! 流斗様は、この国を良くするために――」
「――詭弁だなぁ。日本軍の管轄に入れば、暴力行為が許されるとでも?」
「なら、教えて下さい。あなたたち《暁の光》は、何人の国民を犠牲にして、その犠牲の上に、一体何を為そうというのですか?」
「国家転覆」
「なっ!? それじゃあただのテロリストじゃないですか!」
火口の迷いのない一言に、紫苑は戸惑いをあらわにする。
「お前ら如きに――《暁の光》の理念を理解されようとは思っていないさぁ」
逆立てた赤い髪を撫でつける火口。
「お前たちには欠片ほどの利用価値すらない。だからここで殺す。容赦なくなぁ!」
「半人半魔の契約ルールを知っていますか?」
「……は? さぁてね。オレは頭が悪いから分かんねぇわ」
「本契約を交わした半人半魔は、主の命令を実行するときにのみ、通常時の数倍の力を発揮することができる。流斗様の命令はあなたの『殺害』。これ以上、流斗様に人殺しはさせません。あなたは、私が殺します。彼には会わせません」
紫苑の赤く染まった瞳がより一層輝きを増した。
「ははは! いいだろう。ならば、バトルスタートだぁ!」
その言葉を皮切りに、火口は腰に下げた大剣を抜く。
「バスターソード。俺の剣だ。刀身の先端から三分の一までが両刃になっている。柄の長さが従来の剣よりも拳一つ分長い。片手半剣って別名があるんだぜ」
「長さは120センチほど。重さは2,5キロといったところですか」
「一瞬で得物の質を理解したか。お前も剣士だなぁ。なら分かるだろう? この柄の長さは応用が効き、片手で斬りつけることも、両手で構えて突き刺したりすることも可能だと」
「関係ありません。私はただ命令を遂行するのみ。此処があなたの死地です」
言うと、紫苑は左右の腰から二本の小太刀を抜く。
――小太刀。長さ60センチ。重さ600グラム。
それが二刀、紫苑の両手に収まっている。
「命令を聞くだけのお人形が、どこまでできるか見物だなぁ!」
火口が流斗への忠義を鼻で嗤った瞬間、紫苑は火口の懐に飛び込んだ。
「対象を……速やかに、処断します」
左右から振り下ろされる二本小太刀。
難なく火口はバスターソードで受けきる。
両者は連続で斬り結ぶ。ガキンガキンと二本の小太刀とバスターソードがぶつかり合う音が響く。迸る魔力と流れ落ちる一筋の汗。火花を散らす剣戟の閃きの数々。
そのすべてが規格外だ。
それでも、流斗の命令は火口鉄平の『殺害』。
(ならば――我が主の敵を殲滅せよ!)
気合一閃。
「はぁあああああ!」
紫苑が振るう小太刀が、火口のバスターソードを押し込む。
◇ ◇ ◇
あとがき
今年の更新はこれで終わりです。
ご愛読ありがとうございます。
来年もよろしくお願いいたします。
次回――『巨大な剣』
2021年1月下旬更新予定。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます