優しくて可愛い最強のヤンデレ義姉に拾われた俺は、彼女にすべてを捧げる

第54話 姉と従者と学校に

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　……ピピピピピ、ピピピピピ、ピピピピピ――

　目覚まし時計のアラーム音で目が覚める。

「……クソ、もう朝か……」

　枕元にある電波時計を見ると、時刻は午前七時を示していた。

「そろそろ起きてください、遅刻してしまいますよ」

　薄く透けている黒いストッキングに包まれた、むっちりとした柔らかそうな太股に、黒いガーターベルトと純白の靴下が視界に入る。ガーターベルトとは、俗に言う靴下止めのことで、主に足の太腿までの長さのストッキングがずり落ちないような機能を持つ。

「……紫苑か、おはよう」

　ベッドの横に、メイド服を着込んだ、天枷紫苑が無言で立っていた。

　一度短くした後ろ髪は、一年間で背中の辺りまで伸びている。

　シャギーの入った肩にかかるくらいの横髪の隙間から、形の良い小さな耳が見えた。

　首回りには、布製の白いフリルが付いた黒いチョーカーをしており、それがまた良く似合っている。

「わざわざ起こしに来てくれたのか？」

　紫苑の黒いガーターベルトから目をそらすフリをして、横目でしっかりと視界に捉え、努めて冷静な声で問いかける。

「それが私の仕事ですから」

「相変わらず冷たいな。もっとこう、心温まるセリフを返せないのか？」

「とても気持ち良さそうな寝顔でしたよ♪」

　とびきりの作り笑顔で告げられた。

「……お前なぁ。いつも言ってるが、人の寝顔を勝手に見るな」

　遥といい紫苑といい、どうしてこう、他人の寝顔を黙って見ているのか。すぐに起こしてくれればいいのに。いくら心を許しているとはいえ、二人とも気配を断つのが上手すぎる。自分の暗殺者としての感覚も、この一年半で随分鈍ってきているのかもしれない。

（そうはいっても、紫苑の位置は『契約』で大体把握しているんだけど）

　しかし、それも自分が眠っている間は効果を発揮しない。

「昨日の夜も任務で疲れているでしょう。ですが、急がなくては始業してしまいます。遅刻したら椿姫さんに怒られますよ」

「それもそうだな。俺も姉さんと一緒に登校したいし」

　紫苑と椿姫の間に友好関係はないが、互いに気になる存在ではあるようだ。

　流斗は、遥、紫苑、士道、香織、と神崎家五人全員で朝食を取った後、御園高校へと向かった。

　右隣りに遥が並び、流斗の斜め後ろの左側に紫苑が付き従う。

　紫苑には堂々と隣を歩けと言っているのだが、紫苑は「従者たるもの、三歩下がって主の影を踏まないものです」と言い、頑なにそれを拒んでいる。

　どうやら香織に教えられた、従者らしい立ち振る舞いの一つらしい。

　彼女がそうしたいのであれば、隣に並ぶことを強要するほうが無礼というものだ。

　それはともかく、昨日行った身体検査の結果、流斗の身長は１６９センチになっており、遥の１６８センチをほんの僅かだが抜いた形となる。ちなみに、紫苑は１６５センチだった。彼女も神崎家に入ってからちゃんとした食事を取るようになり、体付きは女性らしく変化していた。主に胸がかなり成長している。今では遥と同じくらいの大きさだ。

（あんなに痩せ細っていた紫苑が……。すくすくと成長してくれておじさんは嬉しいよ）

　なんて、くだらないことを考えながら歩く。

　他の生徒たちに好奇の目で見られながらの登校。

　なにせ遥は三年生。いつもの黒い制服に、胸元を緑色のリボンが飾っている。

　しかも彼女の左手の薬指には、銀色の指輪が嵌っていた。

　流斗が入学式の終わりに、遥へ今までの感謝を込めて贈った指輪（もの）だ。

　――エンゲージリング。

　二年生の紫苑は、紺色のブレザーを着た大きな胸の上を赤いリボンで結んでいる。

　入学したばかりの流斗は、遥に似せた黒いブレザーに、紺色の刺繍を施されたズボンを穿いていた。胸元には青いネクタイを結んでいる。

　学年の違う生徒が一緒に登校するのは、そんなに珍しいことでもない。

　おそらく、遥と紫苑が周りの目を惹く外見をしているからだろう。

　そんなことを思いながら、朝の日差しを浴びて鈍くなった足取りを速めた。

　視界の端に、くすんだ金髪をツンツンに逆立て、首元には銀色に輝く鎖状のアクセサリーを付け、黒い学ランの下に紫色の花柄アロハシャツを着た、口元から顎のかけて深い傷のある背の高い男子生徒が、自分より三十センチ以上背の低い、薄い茶髪の少女と歩いているのが目に入る。どこか見覚えのある少年。

（今の生徒……かなり、灰原弾に似ていたな……。気のせいか？　それにしても、相変わらず自由な校風だ）

　すぐに興味の失せた流斗は、彼等の後ろ姿を見送った。