第1話 ギフト
タクマは目を覚まして辺りを見回した。
そこはただ白い椅子が二脚向かい合わせで置いてあり、ドアも窓もない謎の空間。
「ここは天国でも地獄でもない」そんなのは見れば分かる。
ただ、外へ出ようにも、さっき言った通りドアもなければ窓すらない。
白い椅子を使って壁を壊そうにも、椅子は床に固定されていて動かせない上に、そう易々と壊せるようなほど薄い壁と言う訳でもない。
「……座ればいいのか?」
タクマは、スマホで遊んでいたゲームで良くある「座ったら何かイベントが発生するアレ」なのだろうと思いながら椅子に座ってみた。
すると案の定、入り口は無いはずなのにどこからかタクマと同年代ぐらいの金髪少年が入ってきた。
「人間の死は、大きく分けて二つある。」
その少年が椅子に腰掛けると、ブツブツと死について話し出した。
命が尽き、肉体から魂が離れ、抜け殻が骸となる「死」
家族や親戚、友人など親しかった者達全員がその人を忘れて存在しなかった事になってしまう「死」
そして、その死んだ人達の行き先はそれぞれ違う。
良い行いをして死んだ者は天国、若しくは新たな生命として転生する。
悪い行いをして死んだ者や自ら人生を終わらせた者は地獄、若しくは虫や毒草、醜い魔物として転生する。
それから、何者かに殺されたり若くして死んでしまった者は姿形そのままで異世界へ転生する事ができる。
その話を聞いた後、タクマは思い出した。
「俺はもう死んでたんだ」と。
だが、その少年の話を聞くにタクマは若くして死んだ上に死因は他殺。
つまりこの話が本当ならば、異世界転生をする条件に当てはまっている。
だが、信用できない。
タクマの通う東高の不良の一人に金髪が居てもおかしくない、とどのつまりただのドッキリなどのイタズラである可能性もある。
しかし、タクマが階段から突き落とされて気絶している間に連れて行く事が可能だったとしても、こんなに綺麗で汚れが一切ない白い部屋を作るのは完全に不可能である。
そもそも、自分へのドッキリの為にこんな部屋を作る暇人など居るはずがない。
そのようにタクマが必死に、少年の裏の裏の更に裏を考えている所に、少年はタクマの考えている事を読み取ったのか、「怪しまなくていいよ」と言った。
「僕は転生を司る神、名前は名乗る程の物でもないから言わない」
「言わないって……」
「確かに髪は金だし、見た目もチャラいから、君の高校に居る不良のグルだと思われても仕方ないだろう。」
「でも、これでもれっきとした神の一人だよ」
神と名乗る少年は、優しく丁寧な言葉でタクマに言った。
だが、タクマは「神」とか言い出した時点で、目を細め、更に疑った。
「分かったよ、分かった分かった。それじゃあ、これで信じてくれるかな?」
少年が指をパチンと鳴らすと、目の前に三枚のカードが一瞬で現れた。
1枚目のカードには、キラキラ光る杖のイラスト。
2枚目のカードには、男のようなシルエットが大きな矢印の前で立ってるイラスト。
3枚目のカードには、禍々しい玉座に鎮座する威圧感のある人のイラストが描かれていた。
「単刀直入に言うと、君はあの世界で死んで、新たな世界へ転生する事になった。そこで、君にはこの三つのギフトのうち一つを手にする権利を
少年は続けてカードの説明をした。
杖のカードは、転生者だけが使える特別な魔法を取得する物。
矢印のカードは、攻撃力や防御力を99999以上、つまり計測不能レベルまで一つのステータスを上げる物。
玉座のカードは、魔王となり魔物を従えて世界を我が物にする事が出来る物。
「その代わり、タダでこの力を渡すなんて事はできない。」
少年の発言に、タクマは「どう言う事だ?」と訊く。
すると、少年は急に「君は買い物をする時、どうする?」と質問した。
タクマは唐突な質問に戸惑いながらも、「金を払って買う。」と答える。
すると今度、少年は「今何した?」とまた質問した。タクマは言われた通り「金を払った」と返す。
少年は頷き、ほぼ答えに近いヒントを出した。
「言い方は変だけど、金を失った代りに、君は欲しいものを手に入れたよな?」
その言葉に、タクマは「あっ!」と気づいた。
「そう、力を手にする代りに対価として何かを失うって訳だ」
神はまた説明の続きを話し出した。
特別な魔法を手にする代りに、ほかの魔法が使えない。若しくは、特定の武器しか使えない武器縛りを設けられる。
ステータスを超アップさせる代りに、その分対になるステータスが超低くなる。(攻撃力を上げると、防御力が下がる)
魔王となって世界を支配する代りに、勇者の前では最強能力は軽減され、無残な最後を遂げて地獄へ行く事となる。
「さてと、一通りの説明は終えたし、ゆっくりと考えてくれ」
何時間経ったかなんて、椅子しかない白い部屋で時間は確認できない。
タクマは悩みに悩んだ末に杖のカードを手に取った。
「特別な魔法か、どんな魔法がいいか聞かせてくれ」
タクマは特に悩む様子もなく「敵の魔法をコピーして使う事ができる魔法とか……」と、まるでリュウヤと話している時のように言った。
「魔法をコピーする魔法か……面白い」
少年は、タクマの顔の前に手を出し、光を当てた。
「これで君はギフトを受け取ったと同時に対価を支払った。その対価は……」
少年がその対価を教えようとした時、少年の携帯に一通の電話が掛かってきた。
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