第5話 あたたかな余韻の中で
薪が燃えて温かな光が辺りを照らす
日常的に使っているLEDとは違い、赤外線の熱と独特の色合いが体も心も温める
夕食を終え、まだ寒い春の夜から暖を取るためみんなで火を囲む
「うわ〜あったか〜い」
「そうだな」
日常生活では何ら不自由しない事でもここではそれなりの面倒臭さがつき纏う
「たまにはこんな日も良いものよね」
温かいコーヒーを飲みながら岩上先輩が微笑む
「そうだよね〜普段の生活だと私スマホしか見ないもん」
「まあ約1名は普段とあんま変わんないけどな」
みんなぼんやりと火を眺めている中一人だけ絶えず上下する折れ線グラフに目を向ける
大地の姿があった
「そう焦るな、俺も今日はもう終わる」
「ほんと、ぶれねーな」
「にしても柳沢君料理上手だったね?料理好きなの?」
「好きとゆうか、独り立ちしたときのためだな」
「それだったら私、料理苦手だから毎日作りにきてよ」
「何だその遠回しな告白みたいなのは?
謹んでお断りするし、するとしても金は取るぞ」
「じゃあ綾香で良いや」
「え、私?困っちゃうな〜」
「じゃあ、私は赤石君を貰うわ」
後ろから寄りかかるように手が肩に回される
「ちょ、先輩!?」
「一生私が養ってあげるから覚悟しておきなさい」
「いや、さすがにそれは俺の男としての立場が…」
「そう?じゃあ専業主婦として頑張るわ」
「よかったな幸田、これでへたれオタクな生涯を一人で終わる事は無くなったわけだ」
「おめでとう赤石!」
そこには温かい拍手を送りながら笑う青木が
「おめでとう赤石君!」
そこには泣きながら送り出してやる花下の姿が
「おめでとう大地」
そこには微笑みを送る友人が
「ありがとうみんな!」
そこに大地のナレーションが入る
「友達に、ありがとう
青春に、さようなら
そして全ての生徒に、おめでとう」
それからしばらく、妙な達成感があったの
もつかの間、おもむろに先輩が喋り出す
「私から始めといて何なのだけど…
馬鹿なのあなたたち?」
その後も雑談は続いた
話題はラーメンの味の好みだったり、バイトの話、最近あった面白い話、好きなお菓子など何でも話した
穏やかで楽しい時間が流れる
いつまでも続きそうでそうでは無い
青春ど真ん中の今しか味わう事の出来ない
そんなかけがえのない時間だ
だがそんな時間も、今日は終わりに近づく
「そろそろ良い時間ね」
気がつけば時計は12時付近を指していた
「明日はの帰る時間には余裕はあるがそろそろ寝るか」
「そうだね〜そろそろ寝ますか」
青木は目を擦っていて、少し眠そうだ
「えっと、皆さんおやすみなさい
今日はとても楽しかったです」
綾香が笑顔でみんなに笑いかける
「ええ、おやすみ、私も楽しかったわ
あなたの入部楽しみに待ってる」
「私も同い年の友達ができて楽しかったよ!
お休み〜」
「俺も楽しかった、何か困ったことがあれば言ってくれ、また明日」
みんなそれぞれ手を振り、立ち上がり自分のテントへと向かって歩いていく
「じゃあ、俺らも寝るか」
自分のテントをに向かって歩き出す
「えっと、それって私達同じテント?」
「そう、なるなぁ」
取り敢えず普段のテントがおっきくて2人は入るので一個しか持ってこなかった
でもまあ、考えてみればそれはそれは恋人
同士でやるようなものだと思う
この前も2人で寝たけどあれは親同士で仕組んでいたのと、ついつい昔に戻った感覚でいたからだ
「ああ、俺は大地のテントに入れてもらうか
ら気にしないでよ」
なるべく気を使わせないように出来るだけ明るい声をかける
「あ、そうじゃなくてね…寝顔とか恥ずかしいから見ないでね?」
少し恥ずかしがり、顔を俯かせ赤くしながら上擦った声を出す
「分かった、そうゆうことならなるべく見ないようにする」
「なるべくじゃなくて絶対!」
「…絶対は難しいかなぁ」
「も〜絶対見ないでってば」
「何でだよ!そんな可愛い顔されて、そんな可愛いこと言われたら見るしか無いじゃ無いか!」
「っー!そんな恥ずかしいセリフは禁止!」
適当に会話しながら2人でシェラフに入り込む
綾香の分のシェラフは青木のを借りてきておきました
「電気消すよ?」
「うん、お休み…幸田君」
「お休み…綾香ちゃん」
明かりが消え沈黙が流れる
さっきのみんなとの雑談の余韻が抜けきっておらず、まだ少し寝るまでに時間がかかりそうだ
「ねえ、綾香ちゃん起きてる」
「起きてるよ」
「まだ寝れなくてさ、少し俺と話してくれない」
「うん、良いよ」
「何話そうか」
「幸田君の趣味とか、好きな料理とか、好きな女性のタイプとか教えてよ」
「良いのそんな話で?飽きない?」
「いいよ、寝るための会話だし
昔と比べて変わったか知りたいから…」
「だったら、俺の知らない変化を綾香ちゃんも教えてよ」
「いいわよ、高くつくけど」
「はは、お手柔らかに」
話しているとあの時の不思議な感情が湧き上がってくる、その感情の名前はわからないけれど今はまだその感情を理解しなくてもいい気がする
そのうち、いつか暇な時でもコーヒー片手に大人ぶって考えてみよう
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