第2話.嫁の為なら俺は魔皇竜だって倒せるかもしれん(上)
「ヨッ! おげんこ?」
振り返ると例の情報屋をしている友人が立っている。
「あーー、うーー、そのぉ……まぁ、ボチボチだな」
珍しく俺が煮えきらない返事をしたことに興味をそそられたのか、奴は俺の隣りに腰かけてきた。
「なーんだなんだ、いまいち元気ないじゃねーか。せっかく、オマエさんにも春が来たってーのに」
こいつの言葉通り、俺は10日ほど前に村に連れ帰った“彼女”を、即日嫁さんにした。
今にして思えば、「男として責任を取る!」という言葉の浪漫に踊らされて、少々浮ついた気持ちでとった行動だったことは否めないが、いま現在に至っても別段後悔はしていない。
それくらい俺達ふたりの相性はよく、“らぶらぶ”だと思いねい!
──そう、相性はいいんだ、色んな意味で、な。
「それとも何か? ヤッパリ新婚さんだから、毎晩ハリキリ過ぎで疲れてんのか?」
──ピクッ!
「オホッ、図星かよ!?」
俺の肩が震えたことをヤツは見逃さなかったようだ。
チッ、目敏い奴め。さすがは腐っても情報屋か。
「いやぁ、変われば変わるモンだなぁ、あの煩悩魔人のクセに素人童貞のマックが」
「素人童貞言うな!」
いや、間違ってはいませんよ?
この歳で童貞守ってても、別に不思議な力が使えるようになるといった特典があるわけでもなし。王都ニアーロの裏通りにある“そういうお店”のお姉さんに、一昨年“筆下ろし”してもらったのは、事実だけどよ。わざわざ、こんな人目のある中で言うなや、ボケ!
「アハハ、わりーわりー。それで、愛しのヨメさんと愛のあるセックスをした感想は?」
愛……愛ねぇ。ふむ。
いや、確かに今では嫁のことをちゃんと愛しく思っているし、あいつも同様に想っていてくれると言う確信はあるぞ?
しかしながら、初めて彼女と体を重ねた時は、愛情とか恋愛とか言うよりも、打算と義務と欲情がほぼ等分に混じり合っていた……というのが、真相のような気がする。
「フーン。でも、人化したモンスターと連れ添うことになった男性ハントマンの半分くらいは、そういう始まり方らしいぜ?」
「そういうもんなのか?」
「相手を人間にしてしまったと言う悔恨と、その相手の面倒をみてやらなければと言う義務感。プラス、相手が発情してたりしたら、男の側の言い訳もバッチリ。まさにお前が今言ったのとソックリじゃねーか」
ああ、その気持ちは何となくわかるなぁ。
「もっとも、そういうのじゃなくて、幼いころの自分を助けてくれた相手に恩返しに来て、そのまま相思相愛になった
クッ、そーゆー浪漫ちっくな話を聞くとなんだか耳が痛いぜ。
「まぁ、ソレはともかくだ。元は人外の生き物だった
不都合、かぁ……。
いままで女と結婚したことなんざなんかった(イヤ、もちろん男と結婚するシュミもないですヨ?)から、正直、自分の新婚生活が普通なのかどうかわからん。
「そうだなぁ。たとえば服装とかはどうだ? 元人外の女性の中には服を着ることを嫌がる人もいると聞くゾ」
いや、人化した時こそ、エッチぃお店風な格好だったものの、村に連れ帰ってからは、キチンと服着てるぞ。東方風のキモノとやらが気に入ったらしくて、コソデとヒバカマとか言うのを、いつも(……少なくとも昼間は)ビシッと着こなしてるし。
「じゃあ、家事関連はどうだ? 料理とか掃除とか洗濯とか」
ああ、流石に連れ帰った当初は人間の料理なんざ出来なかったが、ご近所の奥様方に習いに通って、3日でまともなものが作れるようになった。最近じゃあ、俺なんかより断然美味いメシを作ってくれるね。
掃除は、もともとマメな性格らしくて、掃除道具の使い方を一通り教えたら、即日マスターしてくれた。洗濯も然り。
ぶっちゃけ、今じゃ俺、家の中のことはほとんどあいつに任せっきりだな。
「……そのコトを奥さんが不満に思ってるとか?」
それが、アイツ、あの“悪の組織の女幹部”モドキな第一印象に反して、とことん夫に尽くすタイプらしくてさ。嬉々として家事に精を出してるんだ。手伝おうとするとむしろ俺が怒られるし。
「………近所付き合いは? 元モンスターだから、ハブにされてるとか」
さっき言ったとおり、近所の奥様連中との関係は良好だよ。村での評判も、おおむね悪くはないし……って、情報屋なんだから、お前さん、それくらい知っとろうが!
「まーな。じゃあ、じつは初夜以来、体を許してくれないとか。
……いや、そりゃないな、ウン」
どのような根拠から、おまえがそういう判断を下したのか微妙に気になるが、確かにその通り。毎晩、夜通し励んでおります。
「──ウガァーーーーーーッ! 惚気か? 新婚バカップルお得意の惚気なのか?」
突然暴れ出した情報屋を必死になだめる。
「違う違う。正直に言うと問題点はひとつなんだが、そのひとつがとてつもなく深刻なんだ」
俺のその言葉を聞いて、奴もすぐに平静を取り戻した。
「ほぅ、どういうことだ?」
「さっき、俺が「毎晩、夜通し励んでる」って言っただろ。アレ、まさに言葉どおりの意味なんだ」
「──それは主に“夜通し”の部分のコトか?」
「……うん。ブッちゃけ、この一週間、俺、妻と“おやすみ”の挨拶をした記憶がない」
ヤリ過ぎて意識を失うように眠りに落ちる、ってのがデフォだからなー。
ゴクリとヤツが唾を飲み込む。
「──時間と回数は、どれくらい?」
「晩飯喰って一息ついたら、一緒に風呂に入ってまず2、3発。小休止ののち、寝床に雪崩れ込んで、明け方まで精力の続く限り」
「……オマエ、絶対早死にするぞ」
「だから困ってるんだろうが! 今のところ、精力剤代りに強健剤(スタミナポーション)使って凌いでるけど、このままじゃあ、俺の身がもたん!!」
「じゃあ、適当なところで断れヨ!」
「馬鹿野郎! そんなことしたら、あいつ、「我が君、妾(わらわ)にどこか至らない点がありましたかえ?」とか言って、泣きそうになるんだぞ! しかも、何気に口技もアソコの締まりもお尻の具合もことごとく絶品だし」
「やっぱ惚気じゃねーか!!」
ついにサジを投げられてしまった。
【HMFワールド豆知識(3)】
◇大飛鴨クックルティモス
体高2プロト半ほどで大型獣に分類される鳥獣種。その見かけは、ニワトリというか軍鶏(しゃも)に似ているが、体長に対する翼の比率が大きく、あまり得意ではないが空を飛ぶことができる。
意外に気性が荒く、縄張りを侵す同族や人間に対しては、空から急降下しつつ、爪やクチバシで襲い掛かってくる。特にクチバシは硬く、連続突きを受けると生半可な硬皮鎧程度では貫かれるほど。戦いの心得のない生身の人間なら簡単に命を落とすくらいに危険度は高い。
大きさ的にも強さ的にも大型獣と巨獣のちょうど境目くらいに位置する生物で、狩猟士のあいだでは、これを単独で倒せるなら新米卒業だと言われている。
羽・骨・肉のいずれも利用価値がそこそこ高く、討伐難度に比して「美味しい」獲物だが、上級に達した狩猟士は、何か特別の理由がない限り依頼は請けない(下級以下のハントマンに譲る)ことが不文律。
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