【ツインズハンター/真了と可留】~殺業鬼討伐伝~

真観谷百乱

第1話 赤眼鬼

 可留かるの足が止まる。


「いる」

「どこだ?」


 真了まりょうが一歩、足を踏み出す。


 その視線の先、球技に興じる人々とそれを眺める複数の者たち。

 その中の一点に目を留め、真了が呟いた。

赤眼あかめだな」

 二人は目を見合せうなずいた。

 

 次の瞬間、真了は右手のひらを可留に向けた。

 左手のひらを素早く合わせる可留。


『浄・滅・業・絶・臨・破──吽っ!』


 ひと文字ずつ真了から交互に唱えた途端、合わせた手のひらの中に現れた白光。

 二人の声が『うん』で合わさり、それは解き放たれた。


(行けっ!)

 

 矢と化した白光が鋭い早さで向かう先には40絡みの年配の男──

 くたびれた風情のその男の背中に一気に光が突き刺さった。


「ぐわっ」

 瞬時、跳ねるように海老反りになった男の身体は勢いよく倒れ転がった。

「きゃああっ」

「うわっ」

 周囲から驚きと焦りの声が上がる。


 祝日午前の自然公園の広場──

 ボール遊びやジョギングなど、各々のんびり気楽に過ごしていた場に緊張が走った。


「大丈夫かっ」

「救急車! 救急車!」


 倒れた男を取り囲む十数人の背後へと真了と可留がゆっくり近づく。 

 あと数メートルの所で二人は足を止め、真了が可留に言った。


「やってくれ」

「まかせろ」


 よれよれの黒のスウェット上下にだらしなく伸びたボサボサの髪とまだらな髭。

 白眼を剥き倒れて動きを止めた中年男の体内を眉間に集中させた可留の思念波がスキャンする。


 頭部・・首・・肺・・心臓──


「左房っ!」

「よし」 


 頷いた真了が右手を強く握り、開くと同時に、男に刺さった白光がその体内で光る手と化し心臓左房へと侵入した。

 即座、真了の脳裏にビジョンが映る。

 赤く脈打つ房内にへばりつくように『それ』はいた。

(ふっ・・・・お前、下っ端だな)

 内臓に擬態が出来ずに丸見えのそれは赤黒い肢体を強ばらせ、動揺を隠せぬ深紅の一つ眼をギラつかせた。


(お前ごとき、体外に出すのも面倒だ。ここで消滅しろ!)

 光の手が伸びる。

 と、掴まれる寸前、赤眼のそれは一気に丸まり玉と化した。

(なんだ? 自滅か?  ふ、まあいい)

 そして光はそれを握り潰した。


「完了」

 そう言い真了は、ふうっと息を吐いた。

「お疲れ。あ、ちょうど来たよ」

 救急車のサイレンが近づいて来る。

 倒れたままの男。

「あんな雑魚の赤眼に簡単に入り込まれるようじゃ、あの男、ヤバイ過去がありそうだな」

 真了が言った。

「だね。ま、とりあえず見つけて良かったよ。ここが死人の出た現場にならなくてさ」

 言いながら可留は両腕を突き上げ思い切り伸びをした。


「行くか」

「うん」

 二人はその場を離れるべくゆっくりと歩きだした。


「あの男の肉体ダメージどのくらいかな?」

 可留がそう口にすると真了は「入られて間もないようだったし、まあ1日寝てれば大丈夫だろ」と言い、「あの赤眼、擬態も出来ないんだぜ? かなり低レベル」と笑った。

「は、情けないねぇ」

 可留もつられて笑いだす。


「ん?」

 真了のスマホが鳴った。

「誰?」

「父」

「呼び出し?」

「何だろう。はい・・・・あ、今、一体消したところです。はい・・・・え? ・・・・はい・・・・分かりました」

「何?」

 会話を終えた真了の顔を可留がまじまじと見る。

「屋敷に行く。変事らしい」

「わかった」

 うなずく可留と引き締めた表情の真了。

 二人は歩き出した。

 


 

  

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