二章 友人キャラのピーキー能力 その2

 貰った札束は自分強化のために使用すると決め、すぐに行動を始める。まずは詳しく現状確認をして計画を練ることから。

「やっぱ攻略ウィキなんてないよな……となれば」

 エロゲには攻略本なんて基本存在しない。唯一と言って良いゲーム攻略情報の入手先はネットである。勇士である有志達が融資の支えによって作られたウィキで、ヒロインとの対話で発生する選択肢、エンディング分岐というシミュレーションの攻略から、敵の詳細ステータスやドロップアイテムやダメージ計算などが公開されていたのだが。

「せめてあのエクセルファイルがあればなぁ……まあ使えるかわからないんだけど」

 ウィキ情報を参考に、独自で集めた詳細データ集と、最適化したレベル上げ方法のメモ。RTAリアルタイムアタックの為に用意したデータから、乱数調整用の表まで、いや、さすがに現実となった今は乱数調整なんて無理か。タイトルになんて戻れない。

「でも今のところ攻略データ以前の問題だよな……ゲームはボタン一つで魔法発動だが今は魔力を循環しなきゃいけないし」

 となれば、まずはこの本を読み魔法の常識を知るのが良いだろう。近くに置いておいた本を手に取る。

 サルでもわかる魔法。

 紅茶を用意して椅子に深く腰掛けると、ぱらぱらと読み進める。書いてある内容は魔法という概念の説明から、基本の魔法に、簡単な応用魔法まで。まるで俺のために用意されたような本だ。

「魔力の強化は魔素の回収によるレベル上げと、魔法を限界まで使うこと、ね」

 ゲームでは魔力を限界まで使わなくても、増減があったはずだ。それ以外ではレベル上げ、特殊なアイテムの利用、装備による補正などだった。どちらが正しいのか。今知らなければならないのは、本当にこの本が正しいのか、それともゲームの設定が正しいのかだ。実はどちらも正しいのか。

「検証が必要だな」

 その検証はまず後にしよう、読み進めて知識を深めてから効率の良い検証方法を模索したほうがいい。

 読み終わった後は検証と実験である。まずは本に書かれていた内容が正しいことを、この身をもって体感することにした。失敗しても危険ではなさそうな魔法をいくつか見繕い、庭にでて唱える。

 やはりと言うべきだろうか。いくつかの魔法は問題なしではあった。しかし一部初級魔法から予想していた問題が発生した。

「……やっぱり俺は放出する魔法に適性はないな……」

 ゲームでの瀧音幸助は、身体強化や物への魔力付与に関しては問題ないどころか、他の追随を許さないほどの超一流である。ただし代わりに放出系魔法にはほとんど適性はない。

「ウォーターガン」

 発動と同時に小さな水球が飛んでいく。速度が遅い上に、重力にも負ける。狙いはもちろんはずれるし威力もほとんどない。頑張れば使えないことはないだろう、ただ身体強化してそこら辺の石を投げた方が強いとなれば、使う理由が見つからない。強いて言うなら掃除に便利そう。これは予想できたとおり、ゲームの設定そのままだ。

「ふぅ」

 小さく息を吐きながら、マフラーを掴む。瀧音幸助になって自身の事を知れば知る程、アイデンティティとも言えるマフラーが、彼にとって最高のアイテムであることが分かる。

「長所を生かすために、あいつはいつも長いマフラーをしていたんだよな」

 彼の特性を考えるに、俺にとっての最強装備となりえる。ゲームでもそうだったように。

「なら、この金使ってマフラー買うか。今のマフラーでも良いけど、もっと質の良いモノがあるはずだ」

 うん、そうしよう。ついでに欲しいものは何かあるだろうか? まあ……強いて言うなら、本だろう。今の俺は圧倒的に知識がたりない。いや、本に関して言えば無償で入手出来るあてがある。ついさっきあてが出来たと言うべきか

「毬乃さんに頼もう」

 彼女なら多分本くらいなら貸してくれるだろう。

 ただ、買い物や本に関しては別の日に回した方が良い。時間が時間だ。なら今すべきことは。

「身体強化魔法と付与魔法の練習だな」

 俺は部屋に戻ってタンスをあさる。そしてジャージを取り出し着替えると、タブレットで家の周りの地図を確認する。家を出て身体強化魔法を発動し、ランニングを始めた。

 近くに大きな公園があることは、とても幸運だった。それもランニングする人向けにコースがあったこともまた幸運だ。そのランニングコースは夜間に走る人のためにか、街灯がいくつも付いていて、とても走りやすい。

 ただ、俺とすれ違った人からすれば、なんだアイツはと思うだろう。現にさきほどすれ違った人に二度見されたばかりだし、俺だって逆の立場だったらそう思う。

 風を切り裂いて走る俺は、他者の倍近い早さで走っている。身体強化魔法の影響だ。この調子なら地球で短距離世界記録も余裕だろう。

 また他のランナーが俺を注目するのはそれだけが理由ではないはずだ。なぜなら彼らの視線は俺の少し後ろ、風で流れるマフラーを凝視してるから。

 何でランニングにマフラーをするのだ? なんて思っているのだろう。これがコスプレランナーの多い東京マラソンだったら、疑問に思わないかもしれない。ただこのマフラーにはしっかり意味がある。

 俺は走りながらマフラーへ魔力を送る。ふわりふわりと浮かんでいたマフラーは、急に静止し、まるで鉄の塊のように硬化していく。

 瀧音幸助の最も得意な魔法であるエンチャント。彼は膨大な魔力をマフラーにあてがい、まるで自分の体の一部のように自在に動かすことが出来る。ゲームでは『第三の手』『第四の手』というスキル名だった。

 またこのマフラーの汎用性は高く、マフラーその物を魔力で性質変化させることも出来た。鉄のように硬化させ盾にする事も出来るし、水属性を付与すれば火属性を弾く小さな壁にもなってくれる。そして手足のように自在に動かせるため、両手とマフラーの両端に剣を持たせて四刀流も出来る。また、氷属性を付与すれば夏場は冷房いらずでもある。なんて良い能力なのだろうか。

 さて、ゲーム内の瀧音幸助はコレを自在に動かし、相手の剣を受け止めたり、受け流したりしていたはずだ。俺の接近戦を強化するために、必須のスキルである。彼は終盤辺りには自在に動かせたが、俺も同じように動かせるようにしなければならない。

 どれくらい走っただろうか。五キロくらいは走ったような気がするが、さほど疲れた感じはない。身体強化の影響だろうか。コレならば十倍くらい走ってしまえそうだ。

 いまだ尽きることのない体力に疑問を感じながら、ランニングを切り上げる。また設定でもそうであった瀧音幸助の魔力は、それ通りだった。あれだけ使っていたにもかかわらず、身体強化とマフラーへの魔力付与なんかでは、魔力を消費し切れなかった。

「自分の限界も知りたいな……むしろ知らなければ魔力アップの条件が分からん」

 普通のことをしていては、すぐに全魔力消費なんて出来やしない。効率の良い魔力消費の方法が必要だ。それと自分のステータスが数値化される魔法はないものか。あれば色々はかどるのだが。

「ま、出来ることをやるしかないか」

 今は付与魔法の練習でもしようか。


 調べたところによると、魔力を通しやすい、付与しやすい布は魔物の素材を使用したものが良いらしい。さらに普段から首に巻ける肌触りの良い布になると、物は限られてくる。

 辺り一面にある魔法具を確認しため息をついた。

 魔具総合商店は非常に商品が多い。しかし欲しい商品があるか、と問われればそうでもない。その商品が特殊だから見つからないだけであるが。

「ええと、四メートルのストール、ですか? そこまで長いストールはありませんね……時期も時期ですし。そこまで大きなサイズとなると、むしろ生地を購入される方が良いかもしれません」

 そう、だよなあ。普通マフラーとかストールなんて二メートルあれば長い方だ。それの倍の長さなんて引きずる事前提だ。

「そうですよね」

 と相づちをうつ。紹介された手芸コーナーに移動するも、今度はそちらでため息をつく。

 手に取るのは真っ白な布地。隣には灰色の布地、さらに隣は黒、赤、黄色。シンプルな生地ばかりだ。それも魔力を通しやすくなる生地であればある程、色の種類が少ないし、値段も高い。

「とりあえず、コレにするか」

 悩みに悩み、赤単色生地を二つ購入。魔物からとれた糸を使用した生地。二つ合わせて学生時代のお小遣い二十年分ぐらい。金額に見合った働きをしてくれる事を祈ろう。

 帰宅してすぐに購入した生地を取り出すと首に巻く。そしてすぐに立ち上がってつけ心地の確認をした。

「四メートルは長すぎたかな、でも魔力の通りは最高に良い、さすがアラクネの糸だ」

 長さは後で切って調整すれば良いだろう。また魔力の通りは最高なので、ほぼ文句なしと言って良い。ただ残念な点を上げるとすれば、

「魔力が切れたら引きずるな、それに何かに引っかけそうだし。何か対応策を考えないと……」

 今のところは問題ないから別に良いか、と問題を棚上げし布地に魔力を送る。そして布地を自在に動かすための訓練を始めた。

 ただそれはマフラーに比べると難しかった。

 長過ぎなのだろうか? 以前つけていたマフラー程、自在に動かすことが出来ない。面積が原因だったら横も縦も倍以上になっているから、こうなるのは仕方のないことだ。でも今後の事を考えれば、長くて面積の大きい物を使っていた方が良いだろう。

「訓練するしかないな……」

 俺はすぐにジャージに着替えると、先ほどの布をマフラーのように首に巻く。そしてランニングをしながら、自在に布を動かせるようになるための訓練を始めた。

 走りながら魔力を循環させ、布を動かす。第三の手(ストール右側)で四十五度なぎ払い、第四の手(ストール左側)で足払い、左右同時殴り。

 目標は、両方を自在に動かしながら両手両足での攻撃を可能にすることだ。ゲームでは初期から『第三の手』『第四の手』が使えたわけではない。『動かすのに慣れてきた』と言う理由で、使えるようになったはず。そして最終的に四刀流だなんて阿修羅あしゅらみたいな能力を使っていた。それでもなお特殊な事情で中途半端キャラに甘んじてしまっていたのだが。

 とりあえず、なるべく早くこの能力になれておいた方が良い。出来ることなら入学前、それも花邑家へ引っ越す前に。

 もし慣れていなければ、瀧音幸助が入学後に模擬戦するヒロインで困るだろう。ゲームのイベント通りに進めるなら、むしろ負けるべきなのだが。

 まあ、いろんなフラグをこれからバキバキ粉砕する予定だから、根本的に戦わない可能性もある。

「まだまだ練習が必要だな……」

 コンビニで買った適当な食事を済ませると、再度ランニングしながら魔力循環と布を自在に動かせるように訓練をする。それが終われば自身の部屋にあった魔法書を読み、内容を頭にたたき込みながらも、今後どう行動していくかを考える。

「一番はレベル上げとスキル獲得だな」

 本を読んで分かったことであるが、この世界にもゲームと同じくレベルの概念がある。総合レベル、身体レベル、魔法レベル、耐性レベル、索敵レベル、隠密レベル等々。総合レベル以外はさらに細かく分類があるらしいが、全てを網羅するのは無理だろう、ゲームに比べて倍以上あるみたいだ。そもそも細かな分類のレベルは「多分あるだろう」という研究者の弁だけで、実際にあると確定しているわけではないらしい。ただ大まかなレベルは確実にあると断言はされている。

 なぜ断言されているか。それは大まかなレベルが確認できる魔法具が存在するからだ。それは普通に入手出来る物ではないらしく、普及してないようだが。

 考え事をしているとピンポンとチャイムが鳴る音がする。俺はそのまま循環させたまま玄関へ向った。

「ふふ、ようやく仕事が終わったの」

 そこに居たのは数日ぶりに顔を合わせる花邑毬乃だった。俺はすぐに彼女を招き入れると、彼女はためらいなく家の中に入ってきた。

「幸助くんはこれをいつもしているの?」

 と、毬乃はそういうと俺の魔力を込めていたままの布を手に取る。なんだか絵面が犬(俺)とリードを持った飼い主(毬乃さん)のような感じだ。

 毬乃さんはそのストールを手でなでる。もはや布の感触ではないだろう。魔力をこれでもかと込めて循環させている布は、鋼鉄のように堅くそして俺の意思で自在に動かすことが出来る。

「いつもではないよ、最近は練習がてら常時使用してるけど」

「……貴方の付与エンチャントと魔力量は異常ね」

 俺は頷いた。

 実を言えばゲームで一番魔力量が多い仲間キャラクターは瀧音幸助である。遠距離から強力な魔法をばんばん撃つ事の出来るメインヒロインよりも、ダブルスコアをつける程多い。ただ、周回引き継ぎをして能力アップのドーピングアイテムを馬鹿みたいに使用すれば、どんなキャラでも追いつくことが出来るが。

 また瀧音幸助は魔力が多いため遠距離から魔法を湯水のように使うキャラだと思われがちだがそうではない。接近戦主体で大規模魔法は使えないのだ。他のゲームからしたら超不思議キャラである。

 しかし彼にとって魔力量はとても重要だった。ゲーム内の彼はどんな行動でも魔力を消費すると言うハンデがあった。魔法で攻撃していないのに減っていくのだ。一番魔力量がありながら、魔力不足になりがちのキャラという珍しい設定。しかし第三、第四の手という尖ったスキルがあるため、使い方次第ではとても使える、玄人向けと言えるだろう。

 今思えば行動する度に魔力が減るのは、マフラーに魔力を込め、第三の手、第四の手として動かしていたからだろう。今まさに俺がやっていることだ。

 しかし、ゲームでは結構息切れしていたイメージなのだけど、実際に使ってみるとそれほどでも無いと思ってしまうのは気のせいだろうか? 普段使いでそうやっているからそう感じるだけで、戦闘になると場の雰囲気や緊張感等によって変わってくるのだろうか。この辺は後ほど検証しておいた方が良いだろう。

「コレが使いこなせれば……すごいわね。防御に徹すれば数メートルの鋼鉄の盾になるでしょうし、攻撃させれば岩も砕きそうだわ」

 さらには武器防具を持たせたり、様々な属性付与も出来るんだよな。

 一応瀧音幸助のような不思議体質のヤツはゲーム内に数人いる。もちろん俺とは違う不思議体質だが。

「幸助君、もっと魔力を込めることは出来る? それと布を広げて盾にしたりとか」

 言われて俺は布にさらに魔力を込める。そしてその布の形を変えて、扇状に開いた。

 毬乃さんは布を触ると、感嘆のため息を漏らす。

「私の魔法もある程度耐えそうね……でもこう開くのではなくて、なるべく円形にしてはどうかしら?」

「どういうこと?」

「コレじゃあ強い技を使われたら衝撃を殺せないわ。それに何度も同じ場所に攻撃されればいずれ破られるかもしれない。だったら円形にして攻撃を受け流せるようにすべきだわ」

 確かにゲームとかで見る盾は弧を描いているのが多いが、受け流すためだったのか。逆に剣を引っかけるように、とっかかりをつけるのも良いかもしれない。いや勢いに負ければ吹き飛ばされるのだから、受け流す方がいいか? そこは戦い次第か。

「幸助君はそれはどれくらい持続できるの?」

「今は十時間かな? 目標は二十四時間なんだけど……」

 しかしそれは普段の生活しかしていない状態でだ。冒険しながらや戦闘しながらでは、別のことでも魔力を使うだろう。

 毬乃さんは呆れたようにため息をつく。

「エンチャントの力と魔力量だけなら私以上じゃないかしら?」

「たしかにそうかもしれないけど、放出系の魔法はからっきしだから……」

「ふふっ、ならば学園で早く良い仲間パーティを見つける事ね。幸助君ならきっと学園ダンジョン最下層も突破できるわ」

 毬乃さんの言うとおり仲間は重要だと思う。しかしソロで戦う場合だってあるだろうし、何らかの対策は講じておくべきだ。

「だと良いんだけど……」

 またパーティにも問題はある。パーティメンバーをどうするかという。

「どうかしたの?」

「あ、いや、パーティメンバーが集まるかなって」

 俺が主人公パーティに混ざるのが、一番楽に強いメンバーと一緒になる方法だろう。でも最終的に打倒する主人公のパーティメンバーになって良いものなのだろうか。

 いや、ここは入っておくべきか? ある程度主人公を強化して、魔王を倒して貰おう。あのダンジョンは潜るのめんどくさいし、倒すのも面倒だし。

 検討の余地がある。ほっといても強くなりそうだったら、ソロで鍛えるのも有りだ。あとは将来性のあるメンバーを集めれば良いだけだし。集まる……よな?

 毬乃さんは幸助君なら大丈夫よ、と笑った。


 花邑家への移動は、これ以上ない程の幸運な時間だった。それは花邑毬乃が高校生のような美人未亡人だから、ではない。まあ、まったく無いわけではないし、体が触れるたびに意識してしまうのも否定できない。

 ではなぜか、ツクヨミの魔女という魔法界の重鎮に色々なことが聞けたからだ。

「じゃあやはり魔法を使うことが魔力を増加させることにつながるんですね」

「ええ、幸助君がしている常時魔力付与が一番効果的だと思うわ、ただそれは君にしか出来ないでしょうけど」

 俺のような魔法の使い方では、並の魔法使いじゃすぐに魔力切れを起こすとか。アホみたいな魔力とエンチャントに適性のある俺だからなんとかなっているだけで。

「それにしても幸助君は努力家なのね」

「そうかな?」

 毬乃さんは、私もあまり人のことは言えないけれど……と前置きし、

「あなたいつも魔法のことばっかりだわ」

 と苦笑した。からかわれたような、呆れられたような、そんな口調だ。

「そう?」

「そうなの。でもねそんなに無理はしなくて良いのよ?」

 どうやら呆れやからかいではなく、心配で言ってくれたらしい。とはいえ、別に俺は無理などしていない。

「無理なんてしていないんだけど、魔法が楽しいだけで」

 単純に、魔法の楽しさに魅了されただけだ。日本にもいるだろう。何時間もぶっ続けで読書したり、日付が変わるまでゲームしたり、日が暮れるまでサッカーをしたり。好きだから出来るのだ。

「そう、何か聞きたいことがあったら遠慮せず私に聞くのよ」

 それは無論聞くつもりだ。

「はい、早速……」

 と彼女から一時間程魔動車にゆられながら魔法の講義を受ける。そして最初の目的地に到着すると、

「じゃあこの後は少し別行動ね。ごめんなさい、私の仕事で迷惑かけて」

 と申し訳なさそうに言った。彼女はどうしても面会しなければならない人が居るらしく、少しの間待っていて欲しいとのことだ。

「とんでもない。むしろ俺の方が迷惑をかけているって言うのに」

 着るもの、食べるもの、住むところ。金の稼げない俺は、これから衣食住をすべて頼ることになる。それにこのストールだ。ただの生地だった布を、ストールになるように縫ってくれた。裁縫もできるとかどんだけ万能なんだ。

 彼女は張りのある肌を緩ませにっこり笑う。そしてスッと手を伸ばし俺の額にやさしくデコピンした。

「あなたは家族なんだから迷惑をかけて良いの!」

「じゃあ毬乃さんは家族なので俺に迷惑をかけて良いんですよ」

 と言うと嬉しそうに、「もぅっ」とふくれっ面を作るも、すぐに笑って空気は抜けていった。全く、誰か彼女の本当の年齢を教えてください。

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