表舞台の人間
第29話 努力じゃ才能に届かない(才能あっても能力にはかなわない)
俺はアーツィー・ヘルモント。ヘルモント家で有名なのは俺の親父、元王国騎士団長で今は近衛隊育成指導官のアレス・ヘルモント。
または
はたまた、甘やかされちゃらんぽらんな性格に育ってしまった『能力』持ちのA級冒険者の俺の兄貴ヴァイツ・ヘルモントか、『剣と魔法』の両方の才能を認められてこの国の姫の近衛隊員として活躍している姉貴のルーヴェライト・ヘルモント。この辺がヘルモント家で有名だ。
だが、一番下の俺は何の才能も無かった。
だから剣しかない。
剣の道を伸ばすしかなかった。魔法はそもそも魔力の基礎値が0のやつには扱えないし、努力して1にしたところで母さんほどの魔法使いにはなれないだろう。
本を読んで知識を高めて学力でどうにかヘルモント家に恥じない人間になろうと考えた時期もあった。けど、幼少期に遊んでいた友達の方が頭が良かったし、彼女を追いこすことは無理だろうとある時、察してしまってからはそっちも諦めた。
兄貴のように『能力』でっていうのは宝くじで1等を10連続で引くより確率が低い。
もう一度言おう。
だから剣しかなかった。
剣は振った分だけ強くなる。鍛えた分だけ強くなる。それに目に見えて強くなったかどうかわかるし、親父が剣を教えてくれるから師にも困らない。それで努力した。そして努力した。だが、才能がない。
だから3位だった。
去年の剣術大会で3位という結果は俺の周りのみんなは優しいから凄いと褒めてくれる。だけどこれは、この大会は魔法禁止の剣のみの大会なんだぜ?
優勝したやつも準優勝したやつも俺以外の参加者は『魔法』も使える人間なんだぜ? わかるか?
他の人は魔法の鍛錬もしているから剣の鍛錬をする時間は俺より短いんだ。俺は魔法は一切、魔法の鍛錬をしないで剣だけを鍛えてきた。
それに元王国騎士団長の親父にマンツーマンで教わってる環境で負けるって……それってつまり俺に才能ないってことだよな?
でも、やっぱり、俺には
今までと同じじゃ勝てない。
そう悩んでいた時、勇者がとある剣魔学園に入学するからお前もそこに行けと親父から言われた。意図はわからない。
剣のみなら勇者がいなくてもいいから剣術学園に入学したほうが有意義な学園生活が送れるんじゃないか。
そう思ったけど親父の指導に間違いなんてなかったからきっと何かあるんだと信じて俺はラミリスタ剣魔学園に入学した。
「これでマルチ――とうまくコネクションが出来ればいいんだが……」
「あなた、あまりマルチ――を刺激するような真似はしないで下さいね」
「ああ、分かっている。だが、これも国のため、そしてあいつのためだ」
「あの子にも無茶はさせないように」
「うまくいけばいいだが……」
―――――――
王国は弱小国だった。
それもすぐに消えてしまうと他国にも思われ、それこそ自国民からもそう思われるほどに。
だが、そうはならなかった。それは『組織』の力が上手く機能し過ぎた結果であった。そうして成り立った王国にもかかわらず……いや、そうして成り立ったから国だからこそ『弱点』がなかった。
弱すぎると人は同情する。
その弱者の『弱点』を知ろうとする人間はいるだろうか?
徹底的にやらないとこちらが死ぬという覚悟でその弱者から弱点を探ろうとする者がいるだろうか?
何もしていなくても魔王軍もしくは帝国軍が攻めて来たらすぐ地図から消え、歴史からも消えてしまうような弱小国の弱点を握りたいと思う国家はあるだろうか?
ない。
ゆえに弱点を知られず、弱点を握られもせず、他国の弱みを王国が独占できた。今までは。
しかし、表だつ弱点が分かり、その弱点が他国に握られたら王国の立場は揺ぐ。王国の何が弱点か?
それは地位の高い人間、またはその身内の命。
そんなものはどこの国も同じだが、もしその人間が攫えそうだったら?
もし仮に『組織』の目をかいくぐりその人間を攫い、交渉の場に持ち出せるのではれば他国はどう動く?
弱小国となめていた国に逆になめられるような立場になってしまった他国は?
「
「まぁな。まだ育ちきってない勇者なんてザコだし、ターゲットもその国の剣術のみの大会でそこそこの成績しか出してないやつなんだろ? なら、問題ない。貴様こそ、契約を忘れるなよ」
「あぁ、問題ない。対価はもちろん払うさ。あの国の弱味さえ握れれば安いもんだ」
「そーかい。じゃ、いくぜ」
顔さえ認識でこない程の暗がりの部屋で一人の気配が消える。部屋に残ったもう一人は密かに嗤う。
「くっくっく。これで帝国の地位が取り戻せる。くっくっく」
ここで一つ、思い違いをしていることがある。
それは、アストフィア王国の剣術大会のレベル。
弱小国だった国の魔法無しの大会なんてたかが知れている?
そんな訳がなかった。
同世代しかいない?
そんなことはなかった。
魔法有りの武道大会と比べれば剣術大会の実戦でのレベルが低い?
そんなこともなかった。
剣を扱うのには技術が必要。一流の剣術を修めるにはそれ相応の努力が必要である。そこに才能もあれば一流を超えられる。
魔法を扱うのには技術と『魔力』が必要。一流の魔法を行使するにはそれ相応の努力と『才能』が必要である。そこに『一流の以上の』才能と『膨大な潜在魔力』があれば一流を超えられる。
その
剣術と魔法の両方を使える者は3種類に部類される。
一つは遠距離での牽制用魔法を放ち、接近戦に持ち込み剣で戦う。
一つは器用貧乏。
一つは魔法で遠距離攻撃が主体の戦いをし、近づかれたら相手の攻撃を受け流す剣術でその場を
という3種類にのスタイルに確立されている。
剣術のみだと手数が少なく、魔法のみだと近接戦の攻守が弱い。
ただし、一流と呼ばれるまでに至った者にはその欠点がない。
いや、正しくは欠点をカバー出来る何かがあるから一流なのだ。
ちなみに能力は『運』である。純粋に運のみで身に付き、運のみで能力が決まる。
と、されるが実際のところはわからない。
──────
「ここが今日から通う学園かぁ。えーと、俺のクラスはーっと……。お、あったあった」
俺の名前はあるにはあった。ただ他のクラスメイトの名前を見ておかしな点に気付く。あれ? 勇者の名前……なくね?
そう、親父に言われて入学したからには親父が裏から手を回して少なくても勇者と同じクラスにはしてくれるもんだと思っていたからだ。うーん? これは敢えて勇者別のクラスにしたんかな? こーゆーこと親父なにも言ってくれねーから意図がわかんねー。
首をかしげ、頭を掻く。目線は周囲に向ける。すると一人の男子学生の後ろ姿が目についた。ん? 校舎の中の方じゃなくて校舎裏の裏の方に行ったな。あいつ、何しに向こうへ行ったんだ? 上級生ってわけでもなさそうだし、ちょっと様子見に行くか。
そう、俺はこの時、そんな軽い気持ちで校舎裏に向かったんだ。ほんと軽い気持ち、ちょっとした好奇心。それだけ。
にもかかわらずそこで見たのは俺の常識を覆す神速の剣だった。
「お前はもう、死んでいる」
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