第4話 お前相手に剣はいらない。鞘だけで十分だ。(剣も鞘もいらない)
僕は教室に戻り少し休んだ後、また演習を受けに校庭に向かう。その校庭に行く最中に制服を着ていない女の子が中庭にいるのが窓から見えた。少し気になった僕は中庭へ寄り道する。
中庭に着いた僕にさっき窓から見えた女の子が手招きをする。この手招きが僕じゃなかったら心底恥ずかしいので辺りをキョロキョロ見渡す。
やはり僕のようだ。
女の子のいる中庭へ入る。結界…。これは遮音と認識阻害か。遮音結界は大抵この2つの組み合わせで使われる。主な用途は-。
「へー。結界に入る前に自分のことを見ている人がいないかチェックする用心さ。流石マルチデリーターね」
密会時。これで使われることが多い。さっきのサキュバスのような使い方は普通はしない。
まぁ、この結界の張り方といい、僕のことをその二つ名で呼ぶあたり、この子は組織の人間とみてまず間違いないだろう。
「僕に何か用ですか?」
「私、君に興味を持っちゃったのよねー」
興味を持った?はて?それはどーゆー意味ですかねぇ!?その意味に僕は興味を持つ。意味次第では僕に春が来る。
「私、最近組織に入ったの。で、私より年下の君がなぜ組織のナンバーワンなのか。そして君の力がどんなものなのか。興味があるの」
冬が来た。僕は公務員になるため、僕の能力のことを知られるわけにはいかない。この…人は僕の能力を知ろうとする要注意人物だ。
この子とか心の中で言ってたけどこの人僕より年上かよ。
「さっきのサキュバス退治の手際は見事だったわよ。ねぇ、ペアを組んで下さらないかしら」
「いや、僕はもうペアはいるから他をあたってくれませんか」
「ペアと言っても私は記録係の方よ。彼女に替わって貰うとかそう言う話じゃないわよ」
「僕の記録係も彼女で十分だ」
「彼女からの頼みごとなのよねぇ」
「!?」
「ふふ。君でもそんなに動揺するのね。彼女、君のペアとしてやってるけど、でも君が強すぎるから別任務の片手間でやってるみたいよ」
うん、知ってる。
「それでね。彼女と呑んでる時にね、愚痴ってたのよ。君が強すぎて彼女が駆けつけた時にはもう相手が死んでるか、相手の死ぬ瞬間だって。しかも君、討伐証明になるものを一切現場から持ってかないから未報告の討伐対象がいくつもあるんだってね。それなのに組織ナンバーワンってことはこれだけ私達との差があるってことなのよねって彼女嘆いていたわ」
え?お酒飲める年齢越えてんの?この人。
「ああ、彼女とはこの組織に入る前からの付き合いでね。それで彼女からスカウトを受けてこの組織にいるのよ。だから、ね?お願い。わたしを…君の記録係にして下さい」
リザさんのスカウトを受けられる程の人かぁ。普段、リザさんにお世話になってるしなぁ。けど、僕の能力を知りろうとしてるしなぁ。うーん、どうしようかなぁ。………仕方ない。
「…わかりました。いいですよ。彼女のメンツもありますし、ここで無下にはしません。改めまして僕はレルクロイ・ハークロイツです。レルと呼んでくれて構いません。宜しくお願いします」
「あ、ごめんなさいね。私ったら自己紹介がまだだったわ。私は『ジェシカ・アストフィア』よ。よろしくね。レル」
などど彼女はわかりやすい偽名を名乗る。『ジェシカ・アストフィア』は僕のいる、このアストフィア王国の女王陛下第Ⅱ世の名。
誰もが美しいと思い、Ⅱ世の顔を見ただけで心が浄化されると言われる美貌を持ち、政治的にも民衆が喜ぶような政策も積極的に採用し、それらの政策が全て成功する。そのため民衆からの支持が篤い。
そしてなにより高い魔力を持ち、さらには剣術の腕も凄いという。これは女王陛下だからと言って贔屓している訳ではない。隣国のバルセイア共和国(旧ドルク帝国)とのアストフィア平野の戦争では彼女が戦場で放った大規模魔術で一網打尽にし、軍を率いて先陣をきってでる。そして前から来る敵を次々に斬り伏せたという記述が残っている。
それらのような歴史的伝説を数多く残し、彼女は寿命で亡くなった。『ジェシカ・アストフィア』は僕のいる時代の何百年も前の人間だ。
だからその彼女の名を
僕が『ジェシカ・アストフィア』本人と直接係わることなんてないんだから。
僕はただの一般人ぞ?まず第一に僕が王家の人と係わることなんてないよ。
ジェシカと握手を交わし、僕は彼女と別れる。
「次の演習時間が始まるから僕もう行くね」
「ええ、わかったわ。私はちゃんと君のことを記録するわよ」
「あ! 僕のプライベートは記録しないでね!」
「………。(ぷいっ)」
「え? あ、ちょ…」
ジェシカは自身の周りに魔方陣を展開する。そして姿が消えた。僕のプライベートを記録する気か…。僕は少し億劫になる。
僕はアーツィー君にタコ殴りにされながも今日の演習授業を無事(?)終える。
帰り道、鍛冶屋によって久々に僕の剣を研いで貰うことにした。
アーツィー君に木刀でぶっ叩かれてる時にふと思った。
『僕は日本刀に何度も助けられて来たんじゃないのか?その日本刀を最近メンテしてないんじゃないのか?』と。
そこで今、鍛冶屋に来て研いで貰っている。待ち時間に店内の武器を見ていると、外で後ろをチラチラ見て何かに怯えながら走っている僕と同じ学園の制服姿の女の子が店内から見えた。
「あ、おやっさん、ちょっと僕、外出てきますね」
「あいよ」
僕は店を出て女の子を追いかける。店を出た時にはもうすでに見失っていた。だが、僕は慌ててない。いつものパターンでいうと袋小路の裏路地と相場が決まっているから。僕はここで一番近い『袋小路の裏路地』に向かう。
現場に着くと実体を現した下卑た笑いをする下級悪魔が泣きじゃくる女の子を食い殺そうとしていた。
下級悪魔か…。なら、こいつでいいか。僕は横一線に鞘を振るい、能力を発動する。
ビュン!
「お前はもう、死んでいる」
3
悪魔と女の子が音に気づき、僕を見る。僕は鞘を腰に差していく。もちろんゆっくりね。
女の子は泣きながらも僕という存在に気付き動揺する。悪魔はイライラしながら振り返る。僕は決めゼリフを言う。
「えっ、えっ?」
「む、なんだ貴様」
「お前相手に剣はいらない」
2
「ひっぐ…」
「よくもオレの邪魔をしたな」
「鞘だけで十分だ」
1
「だずげでぐだざい!」
「この…ニンゲンふぜ-」
僕は目を瞑る。
スッ
「う、うえぇーん」
「イガアアアァーーーー!!!」
鞘を腰の丁度いい位置に差し終えたと同時に悪魔の胴体が横一線に切り裂け、いつも通りに断末魔を上げて絶命し消滅した。僕は返り血を浴びる。主に顔面に掛かった。ただし目に入らないよう、悪魔が死ぬ間際に目を瞑っといたから目には入っていない。
泣きじゃくる同世代の女の子のあやし方は知らん。だから僕は何も言わず何もせず立ち去る。
今日、僕の記録係になった彼女に任せればいいか。きっと近くで記録していて後処理も彼女がやるはずだ。
僕は鍛冶屋へ足を運ぶ。
「おやっさん。もう研ぎ終わりました?」
「あい、終わっとる…ぞおおぉぉ!? お前さんその血どうしたんだ?」
「ああ、スミマセン。驚かしてしまいましたね。これはただの返り血です。先程下級悪魔がいたんで斬って来ました。あ、研ぎ代、1100アスですね」
「ああ。…ほれ、400アスのお返しだ。に、してもお前さん強いんだなぁ。悪魔を斬れるたぁ、たいしたもんだ」
「いえいえ、そんなことないですよ。相手が悪魔でも下級の中の下級だったんでラミリスタ剣魔学園の生徒として見過ごせなかっただけですよ。これでも僕、騎士を目指してるんで」
「おう、そうか!今時の
カチンッ
「おやっさん、研いで貰ってありがとうございました。また研いで貰いに来ます」
「あいよ」
「………………………あのボウズ。悪魔を斬ったって言ってたが、一体何で斬ったんだぁ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます