ダンジョンマスターは目立たない
きりうえほう
第1話
「はぁ……はぁ……」
肩で息をする私は、固い土の床に倒れた。すぐに赤い鮮血が地面を染める。
ここはダンジョンの中。魔物の巣に踏み込んでしまった私は、一人でその猛攻を凌ぎ、撃ち破った。
……自分の身体を代償にして。
「………………」
痛い。脇腹からは血が溢れ出る。止まる気配はない。
息をするのも辛い。苦しい。
私、もう死ぬのかな?
嫌だ。まだ、届けてない。
私が死んだらきっと……きっと……。
その時、私はこちらに近づいてくる足音を聞いた。
コツンコツンと、一定のリズムを奏でる足音。
人だ。
薄れゆく意識の中、霞む視界で見る。
そこにいたのはダンジョンの中だというのに不相応にも武装をしていない男性?だった。
まるで町に買い物に来たかのような服装だ。
どうしてダンジョンの中でそんな格好でいるの?
ここはダンジョンよ? 魔物たちの住処なのよ?
どうしてあなたはボロボロじゃないの?
私と同じ所まで来たのなら、フラフラになるでしょ?
どうしてあなたは汚れていないの?
泥がつくでしょ? 血が流れるでしょ?
返り血一滴ついてないなんておかしいわよ。
そんな数多くの謎を残したまま、私は意識を闇の中へと落としていった--
目が覚めた時、私は町の病院のベッドの上にいた。傷は綺麗に修復されていて、傷跡はない。
「助かったのね……」
よかった。
正直、ホッとした自分がいた。命を懸ける冒険者にはあるまじき感情かもしれないが……。
私はこんな所で死ぬわけにはいかないのだ。
弟の不治の病を治すためにも、どうしてもエリクサーが欲しい。
歴史上、ダンジョンからエリクサーが出るのは報告されている。
この町の近くに最近出現したダンジョン。
私はそこに潜り続けて、絶対にエリクサーを手に入れる。
「でも……」
あれは、あの人は誰だったのかしら?
たぶん、私を助けてくれた人、よね?
同業者?
できれば、もう一度会いたいな……。
会って、助けてくれたお礼を言いたい。
「ふぅ……」
私は病院の窓に目を向けた。
ピンク色の小さな花びらが舞っている。もう春か……。
この町にダンジョンができて、人はいっぱい来ることになるだろう。
「うん……」
探そう。
もう一人での攻略は、たぶん無理だ。
仲間が欲しい。もっと深くまで潜れる強い仲間が……。
そして、絶対に見つけるんだ。
エリクサーと、私を助けてくれた恩人を……。
数日後……
退院した私は、さっそく仲間を求めて行動していた。
そして、ぶらりと歩いていた同じ歳くらいの男の子に声をかける。
「ねえ貴方! 私とダンジョン攻略しない?」
冴えなさそうな顔をした、どこにでもいる黒髪の男の子。
この人が、私の最初の仲間だ。
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