第20話 終わりの少年
桜井亮太と彩木瞳は特に話すこともなく、
ただとぼとぼと並んで歩いていた。何を話し
たらいいのかわからなかったのだ。
「あなたたちは、何故私を追いかけるの?」
当然の疑問だった。但し亮太にはその答え
がない。
「俺には判らないよ、修平さんが捜せって言
うから捜していただけなんだ。」
「あの人の言いなりなんだ。」
「そういうことでもないんだけど。修平さん
は普段そんなことは絶対言わない。俺たちに
何かを命令っていうか、頼みごとをしたのは
初めてだったんだ。だから俺たちは素直に従
ったんだよ。いつも世話になっているけど何
も返せてなかったから。」
「ふ~ん。そういう関係なんだ。でもあなた
の方が年下でしょ?だったら、子分みたいな
関係じゃないの?絶対服従、とか。」
「いや、そんなことは全くない。修平さんは
ただ俺たちと普通に騒いでいたら楽しい、っ
て言ってた。今まで何も望まれたことはなか
ったんだ。」
とりとめのない話をしながら二人は駅の方
に向かって歩いていた。すぐ横に急ブレーキ
で大型のワゴン車が止まった。中から数名の
屈強な男たちが出てきて、有無を言わせず二
人を車に押し込んだ。
「騒げば殺す。」
一人が亮太の耳元で小声でささやいた。大
声じゃない方が怖かった。瞳はどうやら気を
失ってしまったようだ。
「早瀬課長、連れていかれてしまいましたよ
いいんですか?」
「いい訳ないだろ、追いかけるぞ。」
二人は政府関係者とは思えない普通の車に
乗り込んでワゴンの後を追った。目立たない
ように偽装してあるが性能はすごい、という
タイプだ。
「撒かれてしまったのか。」
「すいませんね、なんだか異常に速い子でし
た。あの速さは普通じゃありません。」
「それほど?」
「そうですね。俺もこいつも多分高校生とし
てはそこそこ速いと思うんですが、追いつけ
ませんでしたから。」
「それは確かに普通じゃないね。」
「そこで、です。」
「はいはい。」
七野修太郎は少し面白がっているようだ。
「あなたたちは、何者ですか?」
「僕たちか。僕たちは、何者なんだろうね。
自分でもよく判らないよ。説明しにくい立場
ではあるんだけどね。」
「ちょっと修太郎、大丈夫?この子たちを変
に巻き込むことになるわよ。」
斎藤加奈子は心配性だった。修太郎の傍に
居ると、どんどん心配性になってしまう。
「修太郎さん、というんですね、俺は修平と
いいます。遠藤修平です。修学旅行の修に平
らで修平です。」
「同じ字だね、僕は七野修太郎。帝都大学2
年生。彼女は斎藤加奈子、こいつは紀藤健、
それで彼女は君塚理恵、全員同級生で、健以
外は明星高校からの付き合いだ。」
「俺は青陵高校2年、こいつは結城高弥で同
級生だ。」
「結城です。」
「よろしく。それで、何をどこまで話せばい
いのか、判らないんだけど、君たちはどこま
で知ってるんだい?」
「どこまでも何も、ほとんど知りませんよ、
情報はほぼ無し、です。ただあの子を捜して
欲しい、と頼まれただけなんだ。」
「頼まれた?誰に?」
会話を理恵が引き継いだ。
「誰って、まあ、名前は知らない男の人、か
な。」
「何それ、なんでそんな人の言う通り人捜し
なんてやってんの?」
「ちよっと待ってくれよ、それはあんた達も
同じじゃないのか?なんであの子を捜してた
んだ?」
「私たちは、そう、私たちも頼まれてあの子
を捜していたのは確かだわ。」
「だったら同じ境遇ってことだ。そこで、情
報共有しないか、と思って戻って来たんだ。」
「どうやら、その必要がありそうね。」
6人はお互いの情報、考えを持ち寄る場が
出来たことに、すこし満足していた。それほ
ど自分が置かれている立場が不確定だったの
だ。
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