第37話 二人の証言

 樅は事件当時の出来事を話し始めた。


「私は昨日、というか今日の夜勤が終わってから帰宅して、ご飯やお風呂を済ませてその後寝ていたの。家に帰ってきた時間が午前八時くらいで、寝始めた時間が午後一時くらいかな。さっきまで寝ていたんだけど、大きな音が聞こえて思わず目が覚めちゃった」

「その後はどうしていましたか?」

「その後は大きな音がした方へ行ってみたら、妹の楓の部屋から煙がたっていました。ドアを開けて中を確認してみると、部屋中に火が燃え盛っている状態だったわ。その後下にいたお母さんから何が起きたのか聞かれたから、楓の部屋が火事になっているから、消防と警察、そして救急車を呼んでほしいと言いました。その間私は部屋で倒れている楓を見つけたから、妹を背負って部屋から脱出したの」

「なるほど。ちなみに部屋で倒れている妹さんの様子はどうでした?」


 松永楓は現在病院にいるため、彼女が現在どういう状態なのか詳しくわからない。だが事件当時の彼女を見ていた樅ならば、楓がどういう状態だったのかを知っているはずだ。


「えっと、熱いって言いながら自分の顔や体に着いている火を取り払おうとしていました。私も運ぶ前に火を消すのを手伝ったんですが、酷い火傷の跡が残っていて、急いで病院に運ばなきゃって思ったんです」

「なるほど。ではその後の話の続きをお願いします」

「それから、上に上がってきたお母さんと一緒に楓を運んで、私たちは家から出て外で待っていた。で、消防が到着して消火活動をして、消火が終わった後に警察が来たって状況です」


 樅の話によると、大きな音が鳴ったのが十九時半ほどで、消防が到着したのが約十五分後、消火活動が終わったのがさらに約十五分後とのことだ。

 めーぷるちゃんの配信は十七時に開始され、大体三十分後くらいに大きな音が響いて配信が停止したので、樅の発言とも一致している。


「それでは、桐さんは事件発生当時どこで何をしていましたか?」

「私は夕食の支度をしていました。仕事から帰ってくるのがいつも十九時くらいで、そこから夕食の準備を始めるんです。ただ、今日は毎週楽しみにしているドラマの特番があって、それを十九時半くらいまでこのリビングのソファーに座って見ていました」


 式はリビングを見渡してみた。

 リビングにはテレビは一台しかないため、このテレビでドラマの特番を見ていたのだろう。

 テレビの前にはソファーが置かれていて、ソファーのすぐそばには掃き出し窓がある。

 ソファーの位置からはキッチンも見えるため、キッチンで料理をしながらテレビを見るということも不可能ではないだろう。


「そして夕食の準備を始めようと思ったら、大きな音が上から聞こえてきたので、何があったのか上にいる娘たちに呼びかけたら、樅が『火事が起きている。消防と警察、それから救急車を呼んでほしい』と言われたので、その三つに連絡したんです」

「何があったのかと上に呼び掛けたということは、娘さんたちが家にいることはわかっていたんですね?」

「はい。帰宅したときに玄関に二人の靴が置いてありましたので。そもそも樅はこの時間夜勤から帰ってきて寝ている時間ですし、楓に関してはろくに外に出ずに家に引きこもっているので、どちらにしろ家にいることはわかっていました」


 普段の生活習慣から娘二人が家にいることがわかっているのならば、桐の発言は筋が通っている。


「通報した後はどうしましたか?」

「通報した後は娘の様子が気になったので二階に上がりました。そしたら楓を背負って階段を降りようとしている樅に会ったので、二人で一緒に楓を外まで運んだんです。その後は消防と警察の到着を外で待ちました。後は樅が言っている通りです」

「なるほど、わかりました」


 二人の発言には今のところ不自然な点は見当たらない。お互いの発言が矛盾しているわけでもなく、筋は通っているように思える。


「では次に現場を調べようと思うのですが、できれば二人にも同行してもらいたいのですが、大丈夫ですか?」

「え、どうしてですか?」

「あなたたちなら、普段の部屋と現在の現場の様子の違いなどに気づくかもしれないからです。調べる役目は私たちが行いますので、何か気になることがあったら遠慮なく申してください」

「隼人さん、俺たちも一緒にいいですか?」

「ダメと言ってもくるだろう。構わないよ」

「ありがとうございます」


 式たちは事件現場に向かった。

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