第24話 池田の証言

 式たちは体育館でバレー部の顧問に事情を説明し、池田千歳と話をする許可をもらった。


「あなたたちが陽子の事件を解決してくれるんだってね。私にできることがあったらなんでも言ってね」

「では早速なんですけど、奥田陽子さんについて教えてもらえませんか? 普段の彼女がどういう人なのか、高校生活をどのように過ごしているのかとか」

「そうだねえ、まず勉強の成績は良くもなく悪くもなくって感じかな。明戸高校さんには敵わないけど、うちもそれなりに偏差値高い高校だからね、頭は悪くないと思うよ」

「運動面はどうですか? 聞いたところによると、奥田陽子さんは中学時代はバレー部に所属してたみたいですが、高校に入ったらやってないみたいですが」

「あー、それなんだけどね」


 池田はバツが悪そうな表情を浮かべる。


「実は、陽子は高校入学当初はバレー部に所属していたんだ」

「え、そうだったんだ!」


 どうやら春崎も知らなかったようだ。


「中学では全国に行くほどの実力を持っていたそうですからね。それがどうして退部してしまったのですか?」

「……あんまり大きい声じゃ言えないんだけど、実はこのバレー部で自殺しちゃった子がいてね。原因は片思いしていた男の子に告白してフラれたことらしいんだけど、その子と陽子が大の仲良しだったのよ」

「自殺……ですか」

「差支えなければ、その自殺してしまった子についても教えてもらえないですか?」

「その子の名前は吉田美穂子っていって、どちらかというと性格は大人しい子だったわ。一年生の頃からベンチに入るほどの実力を持っていて、同じく一年生からベンチ入りしていた陽子とも仲が良かった。二人とも秋の大会ではスタメンに選ばれるほどの実力者だったの」


 池田の話を聞いていると、どちらもバレーの実力はあってチームメイトとの仲も良かったらしい。

 一見特に問題はなさそうに見えるが、問題の告白の件が意味を持っているのだろう。


「そして半年ほど前かな。美穂子に好きな男の子ができて、告白をしたらしいんだけど、フラれちゃったのよね。はじめは失恋のショックで元気がなかっただけで普通に学校には来てたんだけど、しばらくしたら部活を休むようになって、いつしか学校に通わなくなったの」

「……」

「それで一か月後くらいかな。自宅で彼女が自殺しているのが見つかったのは。そのことがショックで親友として接していた陽子も部活を辞めちゃったの。彼女が苦しんでいる時に力になれなかったからって」

「そんな……。陽子そんなこと言ってなかったのに」


 春崎はその話を聞いて愕然としていた。友人がそんな悩みを抱えていたことに気づけなかったのが悔しいのだろう。


「でも、陽子が部活を辞めてしばらくしたら突然河本くんと付き合い始めたの。はじめはびっくりしたけど、あの事件から落ち込んでいた陽子が嬉しそうにしているのはホッとしたわ」

「河本さんとの出会いが、陽子さんを明るくしてくれたんですね」

「ただ、周りの人たちの中には友人が亡くなったというのに自分はちゃっかり恋人を作っているなんて不謹慎だ、って思っている人もいるの。特に同じ学年でバレー部所属の子たちは陽子の実力に嫉妬していたりして、そんな噂を流していたりもした」

「そんな、ひどいよ!」

「もちろん私はそんな風に思わないし、陽子があの事件から立ち直ってくれて嬉しいよ。当の本人もそんな噂気にしていなかったようだしね。でも……」


 今まで嬉しそうに話していたが、突然表情を暗くする。


「今日河本くんがアパートで亡くなっていたというニュースを見て、陽子のことが心配だったんだけど、彼女ニュースを見てなかったみたいで。それでそのことを言ったらさほど気にしていなかった様子だった」

「彼女は亡くなった恋人に対して特になんとも思っていなかったということですか?」

「それはわからない。で、昼休みに警察が学校に来て、陽子に話を聞いたらしいの。これは先生から聞いたんだけど、陽子が『私が雄太くんを殺しました』って言ってたって」


 奥田陽子が自白したことは食い違っていない。

 やはり彼女が河本雄太を殺害したのだろうか。


「では次に河本雄太さんについて聞かせてもらえないでしょうか」

「あー、雄太くんについては私よりもあいつに聞いた方がいいかも」

「あいつ?」

「柿本隼也っていう奴で、雄太くんの親友なの。今連絡してみるから、ちょっと待ってて」


 池田は携帯を取り出し、柿本隼也という人物に連絡を取り始めた。

 そしてしばらくし、


「あいつ、今からこっち来てくれるってさ。学校近くのファミレスに呼び出しておいたから、そっち行ってみて」

「それって、もしかして奥田陽子さんのアルバイト先ですか?」

「うん。そこでも聞きこみするでしょ」


 どうやら池田は気を利かせてくれたようだ。


「ありがとうございます。早速行ってみます」

「頑張ってね。……私、陽子が雄太くんを殺したなんて思えないの。だから必ず真犯人を見つけ出して!」

「……真相がどうなのかはまだわかりませんが、必ず解決してみせます」


 そう池田に決意し、式たちはファミレスへ向かった。

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