第63話 ミーシャとノーム
「ミーシャ落ちるなよ?」
「大丈夫よそんなヘマしないわ」
商人になら馬の扱いを覚えた方がいいとアレンは御者台に座りテルエルさんから教わっていたが興味の無かったミーシャは荷台の後ろから足を投げ出し横になっていた。
「いい天気ね…」
天気とは逆にミーシャの顔が曇る。
「あの日もこんな空だったな…」
「父さん!母さん!ノーム!」
思い出すのは赤い瞳と赤い景色…魔獣に襲われなすすべも無く家族がただの骸に変わった瞬間…
「もう十年も経つのに…」
左手の傷に触れる。この傷はその魔獣に襲われた時についた傷…傷だけで済んだのは幸運と言われるかも知れない…それが実の兄の犠牲で無ければ。
ミーシャと兄《ノーム》は双子だった。だから互いに兄と姉を自称し互いに「私のことはお姉ちゃんも呼びなさい!」「俺の事は兄さんと呼べ!」と言い合っていた。
そんなある日、父の知り合いを訪ねに王都に行く事となった。それが悲劇の始まりだとは知らずに…
旅自体は順調だった。まあ初めての道のりという訳でも無くあともう少しで王都が見えるという所まで差し掛かっていた。
見飽きた空を眺めていると上空に黒い点が見える事に気がついた。
「お父さんなんか飛んでるよ?」
御者台に居た父に話しかける。
「ん?鳥かなんかか?」
「え?鳥にしてはなんか大きく無い?」
少しづつ近づきつつあるそれは馬よりも大きいような気がした。
「な、なんでこんな所に魔獣が!?」
慌てた様子で馬を走らせるももうこちらを射程に捉えているらしくどんどん距離が縮んでいく。
「…!グリフォン!?」
お母さんがいうにはあれはグリフォンというらしい。
「くっ!?追いつかれる!」
「グギャーー!!」
グリフォンの叫び声に驚いた馬が暴れ荷台が倒れる。
「キャ!?」
「早く逃げろ!」
腰に刺していた剣を抜きお父さんが叫んだ。
「お父さん!?」
「父さん!」
「アリシャ…ノームとミーシャを頼んだぞ!」
お母さんは私達を抱えて走り始めた。
「お母さん!お父さんが!」
「静かにして!」
しばらく森を進みグリフォンの鳴き声が遠ざかった所に降ろされた。
「ノーム…ミーシャを連れてこのまま真っ直ぐ向かいなさい!」
「か、母さんは?」
「私は戻りますお父さんを置いては行けないでしょ?」
その言葉に何か決意のようなものを感じたノームは深く肯いた。
「うん!ミーシャは俺が守るよ」
母と別れ二人で森の中を歩き始めた。
母と別れて何時間たっただろう…日が陰り始めた。
「ミーシャ川がある。ここで一休みしよう。」
私は歩き疲れ疲労困憊だった…口には出していなかったがノームにはわかったのだろう。
一息つき再び歩き始めようとしたその時
「ガサガサ」
と物音がした。
「ミーシャ!」
すぐにノームが前に出て庇うような姿勢になる。
そこに見えたのは見慣れた服…母の服だが頭が鳥のようになって…いや嘴にくわえられていた。
「お母さん!?」
ドサッと投げ出されるが動かない。首がおかしな方向に向いている。
現れたのはグリフォンと母の遺体…父さんは?
よく見るとグリフォンの翼には父の剣と頭の無い人…
「ミーシャ逃げろ!」
「いや…いや…!?」
パニックになってしまいその後何があったのかよく覚えていない。
最後に見えた景色はノームがグリフォンと川に沈む光景と
「に、兄さん!」
最後に叫んだ自分の叫び声だった。
その後はグリフォンの目撃情報を受けた兵士に川辺に浮いている所を発見され保護された。
知り合いだったシスターの勧めで孤児院で暮らすようになった。
孤児院で生活を始めて十年最初はふさぎ込んでいたがここの子供たちは自分と同じような身の上だった事もあり少しづつ本来の性格を取り戻していった。
そんなある日いつものように孤児院の内職で使う貝殻を取りに入り江にやってきた。
「…?あれ?なにか?」
入り江に見慣れない黒く大きな物体が横たわっている。
「黒……!?いや…人?」
よく見ると黒いローブを着た人である事がわかった。
「ちょっとあなた大丈…え?」
そこには髪の色は違うが十年前にグリフォンと川底に消えたノームと瓜二つの姿をしていた。
シスターを呼びに行くと彼を孤児院まで運んだ。
彼は目を覚ましたがどこから来たかはおろか自分の名前すら覚えていなかった。
「…あなたの名前はノーム。私のことはお姉ちゃんと呼びなさい!」
気がつけばそう言い放っていた。
今度は…今度こそはお姉ちゃんが守ってあげるから…
「ミーシャ!」
「!?」
ここは…あ!馬車の上か…いつの間にか寝てたのか。
「…何よアイン…」
「あれ!なんだと思う?」
アレンに指し示す方向を見るとそこには…
「あれは!?」
忘れるものか…悪夢の元凶…
「…グリフォン!」
ただあの時と違うのはこちらに向かって飛んでいるのでは無いという事。
「何か獲物でも追いかけているのか?」
「ねえ…あのグリフォン孤児院を襲ったりしないかしら?」
「「!」」
「…追いかけている獲物がどう逃げるかによるかもしれんがこの距離だと無いとは言えんの…」
「…シスター達に知らせないと!…二人はこのまま町に行ってグリフォンが出た事知らせないと被害が広がっちゃう!」
「ちょっとミーシャ!ま…」
アインの声が届く前にミーシャは走り出していた。
「…しかたない急いで知らせて戻るぞ!」
アイン一人ではまだ馬は扱えない為テルエルが行かねばならないここでアインを降ろしてももうミーシャには追いつけないだろう。
「くっ!…はい」
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