ままならぬ世でも

 コロナ禍の合間。なんちゃら宣言が出ていない隙に、実家に帰省した。


 帰省の連絡をして初めて、高齢の祖母が寝付いてしまったと母から聞いた。

 90歳を超えても元気で、「足が痛い」「腰がいかん」と言いながらも杖を使って動き回っていた祖母。けれどこの冬、腰痛をきっかけにベッドから動けなくなり、食事も部屋に運んでもらう状態になってしまったらしい。


 久々に会った祖母はベッドに横たわったままで、一回り小さくなってしまったようだった。つい数ヶ月前は元気だったのに。

 全体に筋力が低下しているのか、舌が回らない様子で声もフガフガと聞き取りづらい。リュウやユヅを見ても、誰なのか今ひとつ分からない様子。認知症が少し出始めていたけれど、今までは「リュウちゃん、ユヅちゃん」と話しかけていたのに。

 それでも私が話しかけると頷き、「(来てくれて)ありがとな」と笑ってくれた。


 無常やなぁ……。


 急激な祖母の変化に、実家はてんやわんやだった様子。家では入浴もできなくなってしまったため、デイケアの回数を増やしたり、ショートステイの手配をしたり。

 母は私が連絡するまで何も言わなかったけれど、大変だったろうな……。


 なんだか落ち込んでしまった私に、母は笑顔で言った。


 「ほら見て! ユヅちゃんにキッチンセット作ったよ!」


 !?(✽ ゚д゚ ✽)


 なんと、そこには母お手製のキッチンセットが!

 使わなくなった籐籠に100均で買ったボードを貼り付け、シンクやらコンロやら作り込んでいる……!? 

 大喜びのユヅ。でも、なんでいきなり……?


 「いろいろ大変だけどさ、毎日それだけになっちゃうのはね。なんか楽しみを見つけようと思って!」


 100均のグッズを組み合わせるのが楽しかった、と喜々として語る。

 もともと手仕事が好きな母。私がこどもの頃は手作りのバッグやワンピースを作ってくれた。そんなこんなで、おままごと好きなユヅのために、キッチンセットを作ろうと思い立ったらしい。


 我が母ながら、凄いなぁ……。


 「一切皆苦」という言葉がある。ままならぬこの世界。苦しみも悲しみも、世の常。

 100%ハッピーな人なんて誰もいなくて、皆何かしら背負って生きているのだと思う。

 そこをどう生きるかだ、と思った。ままならぬ中でも、自分なりの喜びは見つけられるのだと。


 母が持ち帰っていいと言ってくれたので、手作りキッチンセットは我が家のリビングに設置された。ユヅは大喜びで毎日遊んでいる。


 忙しない日々。悩みも心配も尽きないけれど。それだけじゃない。私だけじゃない。

 おばあちゃんも、しんどい中で気張ってご飯を食べている。笑ってくれる。今を、一緒に生きている。

 ユヅは「おばあちゃんのキッチン、もっと可愛くする!」と改造計画を立てた。一緒に100均に行って、飾り付け用のお花やネイルシールを買う約束をした。ユヅと話しながら、私までワクワクする。

 ままならぬ世。それでも。

 母のキッチンセットは、私にとっても贈り物だったようだ。


☆ 近況にお手製キッチンの写真あげてます(*´∀`*) ☆

https://kakuyomu.jp/users/planaria/news/16817330650237786409

 


 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る