第15話 僕と幼馴染と願いの結晶 前編
〖本当に好きな人―01―〗
まだ、秋になり少ししか日は経っていない。
それでも、かなり肌寒く感じられた。
それは、単に風が冷たいだけなのか、それとも今の僕の心情がそうさせているのかは分からない。
ただ、背筋を這い上がる様な寒気だけはしっかりと感じられていた。
これは、何かマズいと。
「くそっ…………あてもなしに捜すのは無謀だ。何か、夢乃の位置を特定出来ればいいんだけど……」
何かないのか?夢乃の位置がわかる様な…………!
ダメ元だけど……………。
スマホを取り出して電話をかける…………時坂に。
「……………もしもし、時坂か?」
「"うん……………どうしたの?”」
「少しまずいことになった………理由は後で説明するから、とりあえず夢乃が今どこにいるか分かるか?」
「"え…………う、ううん。分からない……”」
「そうか…………なら、一緒に捜してくれないか?一人でも多い方が助かるからさ」
「"分かった…………捜してみるよ…じゃあ……”」
「おう、よろしくな!」
そう言って電話は切れた。
……………時坂、どこか体調でも悪いのか?
そうだ、今は夢乃の場所…………!!
また、僕は月明かりが差す空の下を走り始めた。
〖本当に好きな人―02―〗
「多分、ここ………だよな?」
人影の少ない路地を抜け、開けた場所に出る。そこはまさに、廃工場と呼ばれる場所であった。
「いかにも、連れ去られそうな所だな…………」
そう言いながら、僕は工場に足を踏み入れる。廃工場と言うだけあって長年使われていない様だ。あちらこちらで埃を被っている。
「夢乃は……………どこだ……っ!」
バレないように、静かに、足音をたてないように進む。
一瞬。
ほんの一瞬だった。
"シュッ”と短い風切り音が聞こえたかと思えばその後には痛みが走った。
「……っ!?……くっ……誰だ!?」
「お前か、影里ってのは…………」
「………お前………三辻か………っ!!」
そこには、パーカーを着た背の高い青年がいた。
金髪で、耳にピアスまでしてある。
「………なぁ、影里。どこに天咲さんがいると思う?」
「………どこだよ」
「教えるわけねーだろっ!まぁ、天咲さんの所に行きたかったら………………」
僕は、先程切られた左腕に手をやる。大丈夫、かすり傷だ。致命傷ではない。
それに、夢乃の為だったらこんなもの痛くもない。
「オレをどうにかしなっ!!」
「…………くっ!!」
そう言うと同時に三辻はナイフを片手にこちらに走ってくる。脚も正直震えている。
そりゃ、そうだ。
この状況で平気でいられる方が怖い。
でも―――――――。
自然と、後ろにだけはあとずさらない。
むしろ、前に足は動く。
決めたんだ、夢乃を守るって。
まさかこんな事になるとは思っていなくて武器なんか何も持ってきていない。素手と、スマホ。
「……………うりゃ!!死ねや!」
「…………っ!」
水平にナイフは振られた。
が、その前に僕は身体を縮めてしゃがみこみ、それを躱す。
そのまま、三辻の足に蹴りをいれる。
"ガッ”
「………なっ!?」
三辻はバランスを崩し横に倒れた。
「ま、まだっ!!」
ナイフを持ち、立ち上がろうとする三辻に僕はすかさずスマホを取り出し、ライトを放った。
「…………うわっ!!く、ひ、卑怯だぞ!」
その隙に三辻の持っていたナイフを遠くに蹴り飛ばす。
僕は上から押さえ込んだ。
「…………さぁ、夢乃の場所を吐け」
「…………知らねぇよ」
「…………嘘をつくなっ!さっさと吐けよ!!」
「………ったく、知らねぇっつってんだろぉが!」
「………くっ……お前………っ!!」
「…………ふっ、終わりだ、影里。あばよ」
この時、三辻が何を言っているかは分からなかった。
だが、いづれ知ることになる。
「……何、言ってるんだ?終わりなのは、お前だよ、三辻。もう、逃げられない。早く吐いてくれ、夢乃の場所を」
"ゴッ”
と、鈍い音がした。
―――――――――背後からか?
「うっ……………!?」
僕の意識は、そこで途切れた―――――――――。
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