対敵

「それは、どういう事ですか」

 恐る恐る純貴は神様に尋ねた。

「うむ。完全に遊びおったな神様協会長め」

「遊んだ?」

「なんじゃ、お主まさかRPGもしたことないのか」

 純貴は勢いよく頷く。

「まず、攻撃力無限大。これはよくあるチートじゃ」

 チート……? 酒のつまみか何かだろうか。

「しかし、このHP1と防御力0は中々厳しいのぉ。どんな敵の一撃でもやられてしまうぞい」

 なっ……。

「諸刃の剣じゃな。逆に割り切れるといえば割り切れるが……」

 神様は難しい顔をしている。しかし、純貴はそうでもなかった。

「いえ、大丈夫です。俺はこの能力で、ホーリーラジェントを集めてみせます」

 神様は微笑むと、

「そうか……無事を祈っておるよ」

 そう言って指を鳴らした。次の瞬間から、純貴は草原のど真ん中に、裸一貫で横たわっていた。

 始まったのか、異世界とやらの生活が。

 純貴はフゥーと息を吐くと、一歩を踏み出した。



 しばらく歩いていると、小さな集落が見える。すると、男性が一人こちらを見て、手を振っていた。

「おーい、そこの人、服はどうした」

 どうしたもこうしたも転生されてすぐなのだ。しかし、それにしても神様は服くらい渡してくれても良いだろう。

「諸事情あってないのです!」

「じゃあ、このボロボロな布切れがあるから腰にでも巻いておきな」

 男は黄身がかった、まあ綺麗とは言えない布を渡してくれた。贅沢は言えないし、何より裸はまずい。純貴は有難く受け取った。

「お兄さんどこから来たの」

 誤魔化せば良いものの、純貴は嘘がつけない男である。

「異世界からです」

 一拍の沈黙の後、

「……頭を強く打ったようだな。まあこんなボロ屋だが、ゆっくりしていくといい」

 まともに相手にされない。男たちの集落はどんなお世辞を言っても綺麗とは言えず、貧しそうなところだった。

「いえ、そんな。もう十分お世話になってしまいました」

「いいの。いいの。その代わりと言っちゃなんだけど、子どもたちと遊んでくれないかね」

「それで恩返しが出来るのならおやすい御用です」

 子供は好きだ。一時期小学校の教師になりたいとも思っていたのだ。それにしても――

 純貴は集落を見渡した。どことなく空気が重い。まるで何かに怯えているような……。

 しばらく子供と遊んだ時だった。奥から醜く、肌が緑色の恰幅の良い生物が十体ほど現れたのだ。

「またかよ……今日はなんだ」

 辺りに不穏な空気が満ちる。あの化け物は何だ?

「おい人間共、死にたくなけりゃ食料か金目のもん出しな」

 聞いていて不快になるような声だ。

「なあ、頼むよ。こんなに貧しい集落なのに、お前たちのせいで生活が出来なくなってきたんだ。もう、終わりにしてくれないか」

 一人の男がそう懇願している。

「はぁ? 何寝ぼけたこと言ってんだ。お前らは永遠に俺様たちに貢がなきゃならねえんだよ。わかるか? この近くにあるヘンドリア王国ができてからもいうもの、剣士やら銃士やら魔導師やらで、ここら辺の魔物はみんな狩られちまった。だからなぁ、お前らが俺たちに食いもんや金を貢ぐ責任ってのがあるんだよ」

 純貴はそれを全て聞くと、あの化け物の前に出た。

「何だお前」

「だったらあの国にそう言えばいいだろう。こんな貧しい集落にたかるなんて、弱いものいじめにしか見えないぞ!」

 彼は正義感の塊である。曲がっているものは嫌いだ。弱いものいじめは、もっと嫌いだ。

「おい……」

「なんだとこの野郎。どうやら、この集落を潰して欲しいみてえだな!」

 化け物……今思い出した。これはオークというやつだ。

「そんなことは俺が許さない」

「ほう。やっちまえ!」

 十体ほどのオークが、棍棒を振り上げ純貴に迫る。

 純貴は集中した。

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