東西
キロン王国、王都キロン。
王都はこの王国最大の都市であり、当然栄えている。
例えば、冒険者ギルドは一都市一つが原則であるが、王都は例外である。
都市として巨大な為に、利便性の問題と作業の分散を行う為に東西の二つに分かれている。
しかし、この手の都市は光り輝いている様に見えて…光り輝いているが故に影も有る。
富める者が居れば貧しい者が居るのは自明の理。
ここは王都東部。大きな店の倉庫や蔵といったものの間にひっそりと有る、光の強さが故に影になった地区で有る。
「「エッホヘイホ、エッホヘイホ、エッホヘイホ、エッホヘイホ…」」「もたもたするな!急げぃ!」
そんな地区のとある道にて。二人の男が何かが入ったズタ袋を担ぎ、その前を、髭を無造作に蓄えた山賊擬きが先導として走っていた。
「あの小娘、物は知らないかもしれんが、ギランをぶん投げるだけの力は有る。
少なくとも武闘派魔法使いかマジモンのヤバイ武闘家のどっちかだ!万が一見つかってみろ!俺達はこの掃き溜めで潰されてワインみたいになっちまう!
さっさと娘を売っ払って掃き溜め生活を卒業だ!」
山賊擬きが二人の男に発破をかける。
「エッホ…そうは言ってもグリンド兄貴ぃ~。」「俺達ここんところまともな食い物食ってないから死にそ~なんですよぉ~………」
担ぎ手(前&後)がリーダー格の山賊へ泣きそうになりながら嘆願する。
担ぎ手二人は双子なのか、瓜二つ。埃まみれの黄色と青の服が無ければ区別が出来ない程だ。
「デポ、マイーニ!サッサとしろ!
バラバラになりたくなきゃ、腹一杯食いたきゃあと少し辛抱しろ!」
グリンドの怒鳴り声に反応するようにズタ袋が暴れる。
「兄貴ぃ~」「暴れてるんですが~」
情け無い声を出す。
「傷つけるなよ。お前達の命より大事だと思え!」
そう言いながらグリンドは先導する。
「「そんな~。」」
影の中に二人の情けない声が響き渡った。
一方その頃、真逆のキロン王国西部にて。
西大通り。西の街でそれなりに栄えている通りで、店や馬車が引っ切り無しに行き来している場所なのだが、そこではちょっとした事件が起こっていた。
否、事件と言うべきか?現象と言うべきか?
兎に角大事が起きていた。
「もう!なんでしたの⁉」
綺麗な洋服を着た、如何にもなお嬢様が叫んだ。
「いきなりの強風で折角のお洋服が砂だらけに成ってしまいました!もう!」
キーキーと誰に言う訳で無く、叫ぶ。
「お嬢様、往来の真ん中で叫ぶものでは有りません。
さぁ、馬車にお乗り下さい。
帰ったら湯あみのご用意をいたします。」
「当然でしょう!爺やの仕事は私の望むことをする事なのですから!キーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
お嬢様を余所に、爺やは違和感を覚えていた。
数分前、この近辺に謎の強風が吹いていった。その所為でお嬢様が怒っている事は別に問題では無い。いつもの事だ。湯浴みをしている内に機嫌は直る。
(あの強風、ふと見た時に何かがお嬢様に視線を向けていた気がするのは気のせいでしょうか?)
爺やは少し、胸騒ぎがしていた。
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