第30話 護の昇級試験2

納得が行かないまま、失格者はそそくさと試験会場を後にした。

次の試験会場に移動したのだが、どう見ても卓球台が……。


奥から可愛らしいうさぎがあらわれた。


「どうもぉ、試験官のシロちゃんです。ちなみに、男だコラッ! 文句あるか?」


 ギャップと違い、言葉使いが悪すぎる……何なんだ? このうさぎ。


「次の試験は卓球です。でも、卓球じゃないよ、ラケットに魔力を込めて打ち込んでねー。魔力が感じ取れない奴は失格だからねー」


 この光景どこかで……。

 護は温泉旅行でジールと卓球をした事を思い出した。


「そう言う事か……」


 建て前は温泉旅行と言っておいて、あの旅行は昇級試験の練習だったのか……護の中に怒りと呆れが葛藤し始めた。


「頑張ろうね」


 護の隣にいた受験者が、話しかける。雰囲気が伊織に似た、メガネの似合う赤髪の女の子であった。


「私、ルビィよろしくね」


「あっ、よろしくお願いします。神里護です」


 ラケットを手渡され、一人ずつ試験官のシロと一対一の勝負で11ポイント先取した方の勝ちとなり、名前を呼ばれた受験者以外は部屋の外で待機している。


「ふぎゃあーーっ!」


 中から受験者の断末魔の叫びが。受験者が戻って来ると、顔と体がアザだらけ。

……一体何が起きているんだ? 出番が近づくにつれ、不安になる護。


「神里護君、中へどうぞ」


 護の出番がやってきた。

 恐る恐る、中へ入るとシロがタバコを加えて待ち構えている。


「まぁそう固くならずに、一瞬で消してやるからよ」


 ラケットを持った途端に、先制攻撃と言わんばかりに、不意を突くシロの強烈なスマッシュ。


「待て待てー! サーブからだろ普通! しかも、いきなりスマッシュとは何だ?」


「んな事は、関係ねーんだよ! 言っただろ? 一瞬で消してやると」


 もはやこれは、卓球と言うか……殺し合いだ。鋭く光を浴びた打球が護にめがけて飛んでいく。


「先ずは1点ゲット」


 避けるのに精一杯で打ち返す暇もない。


「オラオラ、どうした? 打ち返さないとお前負けるし、死ぬぜ」


 護がサーブを打った矢先に直ぐに殺意のこもったスマッシュを打ち返すシロ、護は1点も取れずにいる。


「さて、ちょっと猶予を与えてやる。二次元嫁の千聖ちさとちゃんとラブラブイベントがあるからな」


「二次元嫁だと? まさかお前……」


 まさか、ジブリールにも護と同じ恋愛シミュレーションゲームをやる奴がいるとは。

 千聖とは、紫音に次ぐ攻略難易度の高いキャラで紫音とは正反対に、ツンデレキャラである。


「ん? まさかお前もか? 誰推しだ? 千聖ちゃんは渡さねーからな」


 スマホを取り出しながら、護に宣戦布告するが、護には紫音がいるから気にはしない。どうでも良いが……何かムカついてきた。

 護は自分に言い聞かせた。

 ……紫音ちゃんへの思いはお前より強いと。


「俺は千聖ちゃんは苦手だ」


 不意を突く護の殺意のこもったサーブと見せかけ、強烈なスマッシュが炎を包み込み、シロにぶつける。


「アチィーー! 何しやがる、卑怯だぞ」


「お互い様だ」


 中指を立て、今度は護が宣戦布告。


「こ、この野郎」


 再びシロが怒りの反撃。

 流石に目が慣れてきたのか、護も怒りを込めて打ち返した。


「俺にも譲れない物がある……」


「げっ!? 何だお前、千聖ちゃん推しか?」


「俺は紫音ちゃん推しだ! バカヤロー」


 両者、試験の事など完全に忘れている。とにかく、こいつをぶっ倒す。


「紫音ちゃんなんて、ただの清純ペチャパイ女じゃねーか」


 ……ブチッ!!


「テ、テメェ、紫音ちゃんを侮辱したな」


 いつにも増して、護の怒りが大爆発。紫音ちゃんを馬鹿にした報いを、必ず受けさせてやると闘志が燃え上がる。


「千聖ちゃんだって、巨乳ツンデレのチャラいイメージしかないわ!!」


「何だと! コラァッ千聖ちゃんを馬鹿にするなーー」


 シロも千聖を侮辱され、怒りが大爆発。体が真っ赤なオーラに包まれラケットを握り直した。


「あ、あれ? 足が」


「いやぁ、お前が間抜けで助かったわ」


 口論している間に、護は地面に氷魔法を発動させ、シロの足を凍らせていた。


「げげっ!? いつの間に?」


「紫音ちゃんを侮辱した罪を償ってもらうぜ。後な、俺はキノコのチョコ菓子も好きだが、一番好きなのは……コアラのチョコ菓子だーー」


 間髪入れずに護が魔力を込めて玉を打ち出し、シロに全て命中。


「わ、悪かった……君は合格で良いです」


 思いの強さで、護の勝利。

 見事試験を合格し、部屋を出る。


「お疲れ様、じゃあ今度は私の番だね」


 すれ違い様にルビィに声をかけられ、ルビィは試験部屋に入っていった。

 中から、シロが色気に惑わされる声を発している。


「そそ、そんな、そこ弱いの止めて」


「合格させてくれたら、お姉さんが良いことしてあ・げ・る」


「はぁはぁっ、わかったから、合格で良いから、息を吹きかけないでー、くすぐらないでー」


 数分もしない内に護にピースサインを送りながらルビィが部屋から出てきた。

 試験終了後、合格者に合格通知が知らされ、新しい魔法カードを受け取ったのだが。


「D級……上て……」


 護の昇級はD級上と捺印されていた。今までの苦労は何だったんだ?

 どちらにしても、ジールと約束した焼肉が待っている、お腹を空かせながらジールの元へ急ぐ。


「神里君、また会いましょう」


「あっはい」


 護の背中を見守るルビィ、次第に姿を変え、更に色っぽい姿に。


「また、会えて良かったわ」


 その姿は護が神魔町で出会った謎の女性であった。女性は不適な笑みを浮かべながらその姿を消していった。




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