第02話 面接
「明石、てめぇいい加減にしろ!」
「痛った!」
志摩が言葉を失っていると、明石くんは急いで駆けつけてきた金髪の女子生徒に、いつかのように拳骨を落とされた。明石くんは殴られた頭を涙目で抑える。
「椿、今お前関節で殴ったろ!」
「毎度毎度、勝手に声掛けんなって言ってんだろ!」
「違うぞ、今回は掛けられた方だ!」
「……」
そこでようやく椿さんは私の存在に気付き、訝しむような視線を私に突き刺す。
志摩は思わず生唾を飲む。
椿の肩下で切り揃えられた金髪と、校則の穴を突いて着崩した制服は、どこか不良然とした雰囲気を放っていた。
志摩のような文化部員が最も関わる事がなさそうな人種のひとつだろう。
「(過去にどこかで会った事があるような気がする………。うーん。。どこだろう…………。)」
「ってお前は…」
「あれ、この人椿の知り合い?」
椿さんは呆れの混じりのため息を吐く。
「いや、お前がこの間─────」
ちょうどその時、椿の声を聞いて志摩も閃いた。
「あっ! この前明石くんを殴って連れ去った人!!!」
◇◇◇◇
「あっ! この前明石くんを殴って連れ去った人!!!」
明石と椿は揃って、志摩の言葉に酷く驚いた。
「で、でもこの前は男の人だったし……あれ?」
明石と椿はくるりと体を反転させ、声を潜めて話し込む。
「この子、始業式の時に俺が声掛けた子だったのか。」
明石はようやく気づいた。
「今更かよ。お前、ほんといい加減にしろよ。」
「しかし、どうする椿。お前の男装姿がバレてしまったぞ…」
「いや、まだ確信には至ってないかもしれない。誤魔化すか?」
「下手に誤魔化すとかえって怪しまれないか。」
「じゃあどうする。仲間に引き込むか?
そもそもお前が声掛けてたんだろ。」
「いや、その事ならさっき『ごめんなさい』と断られたぞ。」
爽やかに報告されて椿は地団駄を踏む。
「おい!どうするんだよ。あれがバレた事が知れたら私達殺されるぞ。」
そこで明石は名案を思いついた。
「そうだ。椿が演劇部って事にするのはどうだ!?それなら男装してても不思議じゃないだろ。」
「よし、それで行こう!まさか、演劇部員を全員把握してるなんて事はないだろうし。」
二人の言い訳の方向性が決まった。
◇◇◇◇
「───かえって────────」「──────仲間に──────」「────────いまさら──────」
「─────だよ。──────────殺されるぞ。」
仲間!?殺される!?二人は一体なんの話をしているの!?
しかも二人とも距離が近い!どうしてそんなに肩を組んで密着していられるのっ。
それに、なんで私が除け者にされてるの。全然会話に入れないんだけど。
も、もう!…
「私も(会話の)仲間に入れて!!」
……あ…やば。つい叫んじゃった。
私がそろりと顔を上げると、二人はちょうど話し合いが終わってこちらに向き直る途中だったらしく、体が微妙な方向を向いていた。
◇◇◇◇
「(ど、どうする。引き込むか?)」
「(どういう心境の変化かは分からんが運がいい、なんとしても引き込むぞ。)」
二人は目線で意見の一致を得ると、すぐに行動を開始した。
「わかった。だがその前に、こちらからいくつか質問させてくれ。ここからはお前の仕事だ明石。」
明石は胸ポケットから小さな紙切れを取り出す。
「あぁ。まずクラスと名前を聞いてもいいか?」
「え…あ、│
「ふむ、部活は何を?」
「演劇部です!」
「「………………………」」
「「(あっ……………ぶねええぇぇぇぇぇぇええ!)」」
「おい明石、あと一歩で地獄に堕ちるところだったじゃねぇか!」
椿は低く怒鳴り、明石の足をぐりぐり踏みつける。
「お前も同意したろ。同罪だ!」
明石は踏まれていた足を強引に引き抜く。
「さっさと次の質問に行けっ。」
「はいはい。それで志麻さん、演劇部では何を?」
「う、裏方全般をやってます。」
「ほう、衣装やメイクも出来たり?」
「一応…」
「照明は?」
「それも一応…」
明石は取り出した紙切れに志摩の答えた内容を手短にメモしていく。
「中学校でも演劇を?」
「いえ、中学時代は運動部でした。」
「なるほど。次は家族構成について教えてくれ。」
「か、家族構成ですか!?。えーと、父と母に弟一人、妹一人の五人家族です………」
「因みに家に個人の部屋はあるか?」
「私の部屋って事なら、あります…」
「ふむ…。」
「(…………………って、なんの質問よこれ!ふむ、じゃないわよ!入試面接かっ。この高校の入試に面接なかったけどっ!)」
◇◇◇◇
個人の部屋の有無を聞いたら満足したらしく。そこで明石くんの質問は止んだ。
すると椿さんは、ちょっと待っててと言ってから私達から少し距離を取ると、ポケットからスマホを取り出して誰かに電話をかけた。
結局会話に入れてもらえてないんだけど…一体なんなのよ…
「あ、梶ちゃん?。そう私──────。」
椿さんは十数秒すると通話中のスマホを持ってこちらに戻ってきて、通話をハンズフリーモードに切り替えた。
私は通話相手の名前を見て目を丸くした。
「ぶ、ぶちょっもごもご。」
「しーっ!」
叫びそうになった私の口が椿さんに塞がれる。
〈おい、椿。もういいのか?〉
「あぁ、もういいいぞ~。」
〈そうだな。桜なぁ…〉
わ、私!?
〈好きな事、興味のある事に関しては常に一所懸命な奴だぞ。基本、真面目で熱心だしな。
それに元運動部なだけあって、体力やガッツがあるのはもちろんだが、やっぱり人当たりがいいな。基本的に誰とでも仲良くやれるしな。〉
ぶ、部長!て、照れるなぁ。私の事そんな風に思ってくれてたんだ。
〈まぁ、絵が壊滅的に下手だがな。雲を描かせてもエイリアンが出来る上がるくらいの才能の持ち主だぞ。〉
ちょっ、部長っ!絵が少し下手なのは事実ですけど。この前私が描いた雲をみてそんな事を思ってたんですね!
部長は込み上げる笑いを堪えながら、また言葉を継ぐ。
〈あ、そう言えばあいつ。この前からずっと明石の追っかけやってたぞ。行動を逐一メモしてたり、なんか明石を見つける度にどこかへ…〉
「ちょっ、ぶ、部長ぉぉぉおお!」
〈って、あれ?そ、その声。志摩、なのか…?おい、椿!さっき他に誰もいな…〉
ぶちっ。
騙されて戸惑いまくっている部長を無視して、椿さんは何事もなかったのように電話を切った。。。
「………………。」
束の間の沈黙。蒸発して消えてなくなりたい気持ちで、私は恐る恐る顔を上げると。
「よし、合格っ!」
椿さんは親指を突き上げた右手を私に向けた。ぱちぱちぱちと、明石くんも嬉しそうに手を叩く。
ねぇ、まって、突っ込まないのは優しさなの!?それともそれが突っ込みなの!?せめて何か突っ込んでよぉ!
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