第二首 バレンタインチョコ 九句

 ……こいつになら、話してもいいか──。

 そう思ったおれは、いつの間にかここ六年のバレンタインデーにおけるおれ自身の経験のありのままを伝え尽くしてしまっていた。

「────わちしには、その六年は、そのままみさとの腕の証と映りける。女子おなごから、貰いしそれは、お前の料理の対価と同義。」

 こっちが恥ずかしくなることを、こいつは一首詠むようにさらりと、されどまた、ズバリと的を捉え射る言葉を口にしやがる。

「わちしの師、既にそこまで認められ、弟子のわちしも鼻が高きし。」

 若紫の高くなっている鼻を、ピノキオ……いや若紫は日本出身だからここは"天狗"というべきか、なんにせよ、嘘の象徴にするわけにもいかないな。

「ありがとう、若紫。よしっ、感謝の気持ちも込めて、今年は特別に、お前だけの、手作りチョコレートを振る舞ってやるよ」

「……先ほどは、女子おなごがすると、聴こえたが、みさとが作るも、良き日なるや?」

「逆チョコって文化も現代いまじゃ浸透してるんだよ、心配すんな」

 この柔軟さも、時代錯誤によるものなのだろうか。

 やはり平安時代ともなれば、風習や慣習が決まっていれば、そこにイレギュラーの入る余地などなかったのかもしれない────。

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