第一首 唐揚げ 十三句

「あ、そういえば、お前さっき、"わちしに飯作る男か?"って訊いてきてたよな。てことは、お前は、じいさんからおれの手料理を貰ってたってことか?」

 おれの言葉に若紫はほんの少し顔を伏せる。その姿は悲しそうで、また寂しそうで、けれどどこか怒りを秘めているようにも見えた。

「この蔵に、じじ様の来るその度に、飯の数々持ってはいぬかと、目を光らせた。」

 一応別のテンポも話せるようだ。にしても、こんな心持ちで待ってくれていたとは、作り手としては嬉しい限りだ。

「いつの日か、源氏様にも、振る舞いたい。────それがいつに、なるか知れぬが。」

「……教えて、やろうか?」

 ほぼ反射的に、おれは呟いていた。

「え……────っ?」

 今度は若紫の理解が追いついていないのか、彼女は質問を投げ返してきた。

「だから、飯の作り方、教えてやろうかって言ってんの」

 若紫のその表情は、次第に、深みのある笑みへと変わっていく──。

「この日から、みさとの弟子に、なるとする。美味い飯を、あの方のため……。」


 ────さて、今日の夕飯は、なににしようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る