YU-JYO

 オレは兄貴がひきこもるのを待って、彼にコールを入れた。



「うれしかったよ。彼女にこんな想われて、うれしくないわけない。そう思わない?」


『……うん』



 少し遅れて届いた声を、オレは間違いなくキャッチした。



「彼女が、こんなオレのこと、真剣に考えて考えて、言ってくれたのが、うれしかったんだ。ほんと」


『……そうか』


「信じられない。もう、もうね、オレ、死んじゃってもかまわないぐらいだよ、マジで」


『そんなにうれしかったの』



 しまった。一方的に……オレ、しゃべっちゃって。彼を受け身に回してしまった。



「わり。……で、どう」


『……どうって』



 んーむ。こういう流れから入ると、彼はかたいというか、反応が鈍くなり――こいつ、眠っちゃってんじゃないだろうなって、なる。



「あれだよ、あれ。デート」


『ごめん。それは明日』


「明日な。おしおし、で、どこでする」


『……どこでもいい。って言ったら、拓人、困るか。じゃあ、明日朝にそちらへ行く。それでいいかな』


「おしゃおしゃ。どんとこい」


『じゃ……』


「じゃーな。あ、何時に来るの」


『7時すぎくらい』


「マジか。オレ日曜は寝てるな――頑張って起こしてみて」


『……わかった』



 少し笑って、彼は通話を切った。


 失敗した。自分の話から始めて、肝心のことは明日に約束しちまった。



「ミッちゃん、ゴメンな……」



 今日もオレ、話下手。


 ミッちゃんは特別だから。繊細で、オレよりずっと不器用で。だから助けてやんなきゃいけないのに、なぜかいつも俺のほうが支えられて、サポートされてる。


 ほんと、マズイな。今更、フォロー入れようがないな。もう一度、コールしようか。でも眠ってたら、風呂なんて、入ってたら……。



 そこまで考えて、オレ、赤面。(してると思う。多分)想像してしまう。顔熱い。


 も、どうしちゃったの、これ。ダメだよ、ダメダメ。


 あーもう、寝よ。





 とことん、オレってバカ。


 あの親切なミッちゃんが、日曜だ~~思う存分寝るぞ~~ってやってるオレをたたき起こすわけはなく、7時すぎごろ、約束通りにうちに来た彼、そのまま帰ってしまったらしい。


 ポストに『またね』ってメモ残して。でもこれってマズイ。なんとなれば、これ、ミッちゃんの実在証明になっちまう。たく、思いやりってやつは、いつもオレを泣かせてくれる。



 己を恥じよ。オレ……今11時55分AM。ハラ減った。



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