じゃあ、なんでつきあってるのって話
「私、拓人のどこを好きになったのか、わかんなくなっちゃった……」
私、自室でつぶやく。
クッションがくたくたになるまで、ぎゅっと抱きしめて。
――独り言が増えるのは、恋する証拠、とか、恋のカンペに載っていたけれど、私、全然そんなんじゃない気がする。
なんとなれば、私、気がおかしくなってるんじゃないだろうか?
拓人と私、幼馴染でもなんでもなく、小学校は分校と本校に分かれてて、中学で学区が一緒になったから、過去のことなんて、みじんもわからない。
わかるのは、異様にモテてモテて、時にはひがまれることすらあった――それだけだ。
運動神経がよくて、女受けが良くて、他の男子にひがまれる。
これって一種のステータスじゃないの。
女が持ってなくて、男がうらやむものみんな持ってる男が、それでなんで、女装なの。
わかんない。
これが、過去にいじめにあったとか(本人、まったくそういうタイプではないけれど。異様にコミュ力高いし)ハブにされてたとか、何かつらいことがあって、その反動形成とかいうんだったら、まだわかる。
蹴とばされる雄羊っていうのがあってね、羊の群れの中で、どうしてもうまくやっていけない雄羊を――人間が去勢してやったら――そしたらば、他の雄羊、これを受け入れたっていうんだ。
もともと羊は群れる生き物だ。大勢で集まって、外敵に襲われてもいいように――これ、本当に言葉通りの意味なのだ。つまり、外敵に面した羊が襲われてる隙に、その他の群の羊は助かろうっていう――一つの知恵なのだ。だから、群れる仲間は多いほどいいってことなんだろう。(でも、雌はわたさない、みたいな)
だけど、つらいことでもあったのか――なんて聞いたら、拓人、傷つくかもしれない。
仮にそうだとしても、完全にふっきれてるんじゃないか。
それとも、それとも。
「えー、あたしって、セーコの中でそういうキャラなのー」
って、ショックを受ける顔が――それもありうる。
うん、そんな理由で、去勢された羊になったわけではなさそう。
たとえそうだったとしても、本人が認めなかったら、真相は闇の中ってことになる。
じゃ、別の線。
親子関係、もしくは家庭内でなにか問題があったのか。
これも(さっきのもそうだけど)本人に直接聞くのはマズイよなあ。聞きたいんだけど、だめだよなあ、やっぱ。
あたりさわりのない話題をふって、それからならば、まだしもだよ。いきなりズバッとというのも、無神経すぎるし……。
あれは、拓人の女装は、自己表現、ってことも考えられないだろうか。
今のところパーフェクト美少女に仕上がってる彼には、ツッコミ不在だし、馬鹿にできない美貌だから、もしかして、鏡見て興奮するとか……そういう兆候が見られたら、速攻逃げるとして。
まあ、そう悪いことでもないか。お兄ちゃんの言う通りなんだわ。
でもなぁ……彼氏にどきどきして(いや、どきどきはするけど)キュンキュンしたい私としては、ため息ものなんだよなぁ……。
思考停止。
やめた。考えるの、やぁーめた。私、もっと素直に、オープンになろう。
拓人が好きなんだから、今の彼をどうこうしようなんて、考えるのよそう。
彼が、それと私が、一般的かどうかなんて、どうでもいいじゃない。
私だって、私であることを楽しみ、実感し、それでいいっていう相手と――それが拓人だったらいいなって、心から思う――一緒にいよう。そうでなくちゃ、それでなくちゃ、私、私がかわいそう。
私に服装や髪型のことで、あれこれとやかく思われちゃう拓人も――拓人にだって申し訳ない。
だから、拓人に謝ろう。ううん、今、私が拓人の声を聴きたい。できうるなら拓人に会いたい。その存在を感じたい。
私は拓人にコールした。
時間は4時PMジャスト。
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