第11話.強襲

「……いいか? 絶対に単独行動はするなよ?」


フライターク大尉と挨拶し、詳細な打ち合わせを行った二日後の深夜。路地から敵の拠点と思われる飲食店を窺いながらヴェロニカ大尉がシーラ少尉の両のほっぺを挟みながら最後の念押しをする。


「ふぁい!」


「静かに!」


「……ふぁい」


まぁ突撃してしまえば変わらないけれど、今敵に勘づかれる訳にはいかないから……私まだシーラ少尉が戦っているところを見ていないのだけれど、本当に大丈夫なのかしら?


「いいか? ある程度の地図は俺の猟犬で作製済みだが、何があるか分からん……引き離されても二人一組になるように、孤立だけはするな?」


「『了解』」


「反対側から別働隊の狩人も居る。何かあったらそっちを頼れ」


相手は魔法という犠牲を無視すれば文字通り〝なんでも出来る〟人たち……しかも今回はそんな魔法使い達の本拠へと乗り込むのだから、最悪全滅もありえる。……だからせめて少しでも生存率を上げるために孤立だけは避けなければならない。

……まぁ私達の四人とは別に、さらに四人組の狩人が配置されているらしいし、大丈夫よね?


「予想以上に敵の拠点が広い……どうやって当局に気付かれずに、ここまで広い地下拠点を作ったのかは知らんが……気を付けろ」


確かに広いわね? 一緒に渡された簡単な見取り図を見る限り、面積は飲食店を中心とした半径五キロ圏内の範囲にまで及んでいるし、深さはまったく分からない。


「子ども達を発見した場合は速やかにその場に発信機を設置、その後に外で待機している機士に引き継がせろ」


私達の仕事は拠点内部の制圧と、もしも子どもが囚われていた場合はそれの救出……外にまで助け出した子ども達は機士が保護してくれるから、安心してまた拠点に潜り込め……という事ね。


「また、任務の概要を知っているのはフライターク大尉と副官のネイマール中尉だけなので、二重の意味で安心して欲しい」


つまり大人数に漏らす必要はないけれど、ちゃんと意に沿った動きをしてくれるという事ね……フライターク大尉がちゃんと仕事してくれるのか疑問ではあるけれど。


「……そろそろ行くぞ。シーラ、盛大にぶっぱなせ!」


「了解であります! ──《消し飛べ、愚物フライ・アウェイ!》」


猟犬を銃身フォームへと変えたシーラ少尉の放った攻撃により夜空を明るく染めるほどの盛大な爆発が生じる。瞬く閃光に目を焼かれ、遅れて届く音の壁に身体を打ち付けられる。


「「……」」


「……誰がここまでやれと」


「シーラは無敵ですからねー!」


爆発が収まり、土煙が晴れたそこを見れば……飲食店どころか恐らく地下二階分まで地面が抉れ跡形もなく消し飛んでいた場所があるだけ……多分、飛び降りれば直ぐに入り込めると思う。


「はぁ〜、もう仕方がない……突入!」


「『了解!』」


大きく空いた穴から人々の、魔法使いの怒号が聞こえる……もはやそうなっては隠れる意味などなく、堂々と飛び降りて侵入を果たす。……先制攻撃で建物と合わせて三、四階層分の敵と罠、道程を省略できたと思えば少しばかり気は楽になる。


「っ! 狩人だと?!」


「帝国の犬め!」


こちらの狼を模した仮面を見て、私たちの正体を知った魔法使い……いや、ただのレナリア人シンパね。協力者とも言える彼らを鎧袖一触で制圧していく。


「やめなさい、罪が重くなるわよ」


「っ?! ……クソッ!」


上着の内側から拳銃を取り出そうとした男性に警告を発する……レナリア人だからちゃんとした裁判が為されるとは思うけれど、魔法使いに与した時点で重罪、その上軍人公務員に銃口を向けたとあっては誰も庇いきれないし、庇わないでしょう。


「……おい『識者ヴェロニカ』、こっそり潜入するのではなかったのか?」


ある程度のシンパを拘束し終えたところで、反対側の地上から降りて来た別の狩人の一人がヴェロニカ大尉へと苦言を呈する。


「……あー、『殲滅姫シーラ』がやらかした」


「……そうか、なら仕方がないな」


あ、それで納得するのね……私はまだ新人だし知らなかったけれど、一年間でそこまでの認識が共有されるシーラ少尉っていったい何をしたの……当の本人はあっちこっちの設備を弄り回してはガイウス中尉に止められているし。


「とりあえず、ここからは時間との勝負だが予定は変わらん。そのまま二手に別れて制圧していく」


「了解した、武運を祈る」


彼らが反対側の下り階段へと駆け出すのと同時にガイウス中尉から襟を掴まれたシーラ少尉が引き摺られて来る……本当に何をしているのかしらね?


「……俺たちも行くぞ!」


半ばヤケクソで叫ぶヴェロニカ大尉について行く形で私たちも地下三階へと降り、この拠点の完全制圧を目指す……それに階を進めれば進めるほど、その分ヴェロニカ大尉の索敵によって範囲外だった区画の地図が埋まっていく……その情報を随時他の狩人とフライターク大尉へと送信して共有していく。


「……何もないな?」


道を進めども最初以外は一行に敵らしい敵も、罠も見当たらずドンドン奥へと行けてしまう……警戒は決して怠ってはいないけれど、どうしても何も起きない状態で緊張感を保つのは難しい。


「全員気を抜くなよ? 特にシーラは──」


「──不法侵入だぞ? 駄犬」


「『っ?!』」


突如として背後から低い男性の声が聞こえ、一斉に振り返る……おかしい、常に広範囲に渡って索敵しているヴェロニカ大尉に気付かれずに背後を取るなんてありえない。


「貴様、いったいどこから?!」


本当に魔法ってなんでもアリなのね……そんな驚愕と共に駆け出す。魔法使いには何もさせないのが定石、男に一番近い私とそれに続くシーラ少尉とで斬り掛かる。


「答えはその身を以て知れ……『我が願いの対価は凍てつく愛しき亡骸 望むは空間を統べる術』」


「まさか転移──」


猟犬の刃が届く前に腕をかざした奴の魔法が発動する。笑い顔のピエロの仮面を最後に視界が白一色に染まり……戻った時には──


「──何処よ、ここ」


急ぎヴェロニカ大尉が得た情報を元に作りれた地図を確認するけれど……どの階層にも当てはまりそうにはないわね、やはり未確認の区画に飛ばされたと思った方が良いのかも知れない。


「もしかして飛ばされたのは私だけ「いや、シーラも居るでありますよ?」……そう」


なぜか私の服の裾を掴んでいたシーラ少尉……だけしか居ないけれど、一人よりは確実にマシね。……シーラ少尉なのが不安しかないけれど。


「いやー、敵はアリシア殿が目的だったようでしたので咄嗟に掴みました!」


「……そうなの?」


「はい! シーラは天才なので!」


いや、掴んだのはどうでも……いや助かったからどうでもはよくないけれど……敵の目的が私? ピンポイントで狙われる見覚えなんてまったく無いのだけれど。


「……どうして私が目的だと?」


「勘? まぁ、シーラは天才なのでねー!」


「……」


うーん、まぁ孤立しなくて済んだのは素直にありがたいし、この際シーラ少尉のどうしようもない理由と根拠については置いておきましょう。……それよりも今はガイウス中尉達と合流するのが先ね。


「頼りにしてるわね、シーラ少尉」


「もっちろん! 任せてください!」


とりあえずシーラ少尉の頭を撫でて心を落ち着けながら、どうやって合流ないし脱出するか思案する。


「うきゃー! シーラやる気出てきました!」


……とりあえず撫でただけでテンションが上がってしまったシーラ少尉の暴走を止める方法を考えた方が良いのか……私は真剣に悩み、不安に苛まれる。


「さぁ行きますよ! 敵の殲滅はシーラにお任せあれ!」


「え、えぇ……」


もう、なるようになーれ! ビーフジャーキーの準備は万全よ! 半ばヤケクソ気味で気合いを入れ直す。……なんにせよ、いきなり分断されてしまって幸先はそんなに良くないけれど、やる事は変わらないんだから。


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