第3話.おこられて、凹んで、喜ぶ

「ふふーん!」


「……ご機嫌ですね、シーラ少尉」


何やら腰に手を当て、渾身のドヤ顔を決めながら高らかに空を見上げるシーラ少尉に若干引きながら声を掛ける……彼女の見つめる先には帝国鉄道の駅構内から見える汽車しか見えないけれど。


「シーラは鉄道が大好きなのです!」


「あー、なるほど……」


シーラ少尉が鉄道好きな事に変な納得感を得る。……中には大人になっても鉄道に異様な執着を示す人も居るけれど、基本的に鉄道が好きではしゃぐのは子どもが多いから……かしら? なんだか微笑ましいわね。


「目立つから騒ぐな、さっさと乗り込むぞ」


「ぶー! ヴェロニカのケチババァ​──」


「​──あ"ぁ"?!」


「痛い! 痛いであります!」


踏まなくて良い地雷を踏み抜き、見事に起爆させて頬を引っ張られているシーラ少尉を置いて、先にはガイウス中尉と一緒に専用搭乗口から汽車へと乗り込むべく歩き出す。……今回は同行者が居るって聞いたけれど、どんな人なのかしら? そんな事を考えながら扉に向かえば、その前で女性が立って待っていた。


「お待ちしておりました。今任務に於いてご同行させて頂く事になりました。特別対魔機関バルバトス医務室所属医官リコリス・アデーラ少尉であります。以後よろしくお願いします」


「貴女は……」


あれ? ……彼女は確か定期検診の時にいつも私の担当になっている女性よね? 今回の任務で一緒になるだなんて、凄い偶然もあるのね。


「……機士の奴らはどうした?」


「機士の方々は別件があり、後から来られるようです」


「そうか」


最近は何処も人手が足りていないわね……この前の『ウィーゼライヒ市』の収容施設襲撃事件もあってか、軍の警戒レベルも上昇しているし……何事も無いと良いのだけれど、虫が良すぎるかしら?


「俺は別に構わんぞ? ……アイツとシーラを会わせたくない」


「? ヴェロニカもビーフジャーキー食べますか?」


「……いらん」


ほんの少し目を離した間に何があったのか……もの凄く疲れた表情をしているヴェロニカ大尉と、元気にビーフジャーキーを頬張っているシーラ少尉が遅れてやって来る。……シーラ少尉と会わせたくない機士ってどんな方かしら?


「とりあえずこちらへどうぞ、ご案内します」


「あぁ」


こちらに背を向け、車内へと進んで行くリコリス少尉の後を追って私達も汽車の中へと赴く。……車内では他の一般の客も居るみたいね? 私達も変装……というか、私服? だし。


「あー! それシーラも好きですー!」


「な、なんだい? お嬢ちゃん……」


「こらっ! おまっ?! すいません!!」


「……いや、気にしないが」


車内販売でもしていたのでしょう……乗客の一人が食べていたチョコレートを目敏く発見したシーラ少尉が突撃してしまう。……本当に彼女はなんであんなに元気なのかしら? しかもヴェロニカ大尉が口元を抑えているのに不服そうだし……おじさんが微笑ましいものを見る目で見てるから良いものの……。


「シーラと言ったかい? お姉ちゃんなんだから、ちゃんとしっかりしてないとダメだよ?」


「なぁっ?!」


「ッ?! はい! シーラはヴェロニカのお姉ちゃんなのでね! しっかりするのです!!」


「「……」」


あー、やってしまった……ガイウス中尉と額に手を当て、天を仰ぎ見る……まぁ確かに見た目的にはおじさんを責める事は出来ないのでしょうけども……これは確実にシーラ少尉が調子に乗るわね。まだ短い付き合いだけれど、断言出来るわ。


「さぁ行きますよヴェロニカ! シーラお姉ちゃんにしっかりと着いて来るのですよ!」


「……」


「ヴェロニカは可愛いですね! しっかりと手を握るのでありますよ!」


「「……」」


あぁ……おじさんがニコニコしてるのを尻目に、先を行くシーラ少尉に手を引かれるヴェロニカ大尉の目がドンドン死んでいく……!!


「そ、その……部屋はこちらです……」


「あぁ、うむ……」


気まずそうに目を逸らすリコリス少尉に何も言わずに部屋へと入るガイウス中尉の優しさ……優しさなのかしら? ……まぁ、あまり下手に触れない方が​──


「そこに段差があるでありますよ! ヴェロニカは小さい・・・・・・・・・でありますからな! シーラお姉ちゃんが抱っこしてあげるでありますよ!」


「「「​──」」」


​──あぁ、終わった……シーラ少尉に黙って脇の下から担がれているヴェロニカ大尉が怖い……本当にもう……シーラ少尉のバカ。


「シーラよ……」


「? なんですか? シーラお姉ちゃんがちゃんと聞いて​──」


バカなだけでなくアホなのか……ヴェロニカ大尉の様子にも気付かすに呑気に返事をするシーラ少尉からゆっくりと、そして静かに……ガイウス中尉とリコリス少尉の三人とで離れる。


「​──大好きな車内探検をさせてやろうじゃないかッ!!」


「ぬわぁーー!! 目がァーー!!」


勢いよくシーラ少尉の手から逃れながら振り返ったヴェロニカ大尉が彼女の目を潰し、それによる絶叫が車内に響いた。……本当に今回の任務、大丈夫なのかしら? 不安が尽きない。


▼▼▼▼▼▼▼


「えーと……今回の任務の人員についてですが……」


「痛い……ヴェロニカは酷いでありますよ……」


悲しげに顔を手で覆って泣く……振りをしながら指の隙間からこちらを窺ってくるシーラ少尉にやりづらそうにしながらも、リコリス少尉は簡単なミーティングを行っていく。


「なにやら帝都の中に魔法使いが四人ほど侵入したらしく、一部の狩人の人手とその空いた穴を埋めるべく機士の方々が一部狩人の業務を担っており、こちらに追い付くのが遅れるとの事です」


「帝都に魔法使い、か……」


そう言ってガイウス中尉が唸るのも仕方ないでしょう……この前の『ウィーゼライヒ子爵領』での魔法使いによる潜入工作の件といい、皇帝陛下のお膝元である帝都に大胆にも侵入して来た事といい……魔法使い達の動きが活発化している事は間違いではないようね。……クレルもその中に居たりしないかしら?


「……まぁ奴らには『軍馬』があるし、多少遅れても直ぐに追い付けるだろう」


「そうだな、拠点襲撃の決行日までに間に合えば良い」


ガイウス中尉の言葉に頷くヴェロニカ大尉を見ながら考える。

『軍馬』……それは私達狩人にとっての『猟犬』みたいな物……同じ素材で出来た同一の物という見方も出来るけれど、その運用方法等は全くの別物だと聞く。


「潜入し、魔法使いを狩っていくのは我々の役目だが……もしも逃げ出す輩が居たり、また人為的に魔物が産み出された場合は奴ら機士達が動く……いいな?」


「了解です」


「目が……痛いよ……(チラッ」


「『……』」


し、締まらない……本当にそんなバレバレな演技で良いと思っているのかしら? ……まぁ可愛いから、構ってあげたくなる気持ちも分かるけれど。


「……食べる?」


「わーい! やったぁー! シーラ、アリシア大好きーー!!」


「……それは良かったわ」


ビーフジャーキー一つでここまでコロコロと表情を変えるのね……ある意味、退屈だけはしなさそうではあるわね。……私、彼女と一緒に見張りなんだけれど。


「汽車の旅にチョコレートは如何ですかぁ?」


「五つ貰おう」


あんまり騒がしかったのでしょう……笑顔を貼り付けながら、その下で不審者を見る目で様子を窺う販売員に何事も無かったかのようにガイウス中尉が買い物を済ませる。


「……何かを食わせれば、静かになるだろ」


「……そうだな」


シーラ少尉以外の四人で苦笑しながら、この始まったばかりの長い汽車の旅を無事に終わる事を祈る。


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