第3話.魔女狩り

「汝を魔女と認定する」


「嫌ァ! 私は魔女じゃないわ!」


…………とうとう恐れていた事が起きてしまった。たった今、僕の目の前で無実の女性が『魔女裁判』で魔女とされてしまった……一度魔女と認められてしまえば死罪は免れない。


「私はおかしいと思ってたんだよ!」


「彼女ばかり男性からモテるもの、怪しい魔法でも使ってたんだわ!」


「俺らを誑かしやがって!」


なぜなんだ、彼女はどこからどう見てもレナリア人じゃないか! 僕らガナン人とは違う金髪、褐色ではない色素の薄い白い肌……彼女が魔法を使える訳がないのに!!


「ま、待ってくれ! 俺の女房は魔女なんかじゃない!」


「お前……」


「なぁ、お前らも知ってるだろ?! 彼女は心優しい女性だ!!」


「うっ、うぅ……あなた…………」


そうだよ! 普段から彼女と接していた人達もいるはず、こんなのはおかしい!


「裁判長! 判決のやり直しを要求します!」


「……」


そもそも僕たち魔法使いでも、魔物を故意にけしかけたりなんてできる訳がない。


「お前たちだって本当はわかってるんだろ?! 彼女が──」


「──この者を魔女に誑かされた魔物予備軍と認定する」


「……は?」


「早いうちに処分することを言い渡す」


あぁ、こんな事をしても魔物の被害はなくならないって彼らも……いや、そうか……人柱を作って不満を抑え込みたいんだ、だから正論なんてこの場では力を持たないんだ。


「ち、違う! 俺は魔物じゃない!」


「あなたぁ!!」


「連れて行け」


もう……見ていられない。


▼▼▼▼▼▼▼


「どうしよう……魔女狩りが始まっちゃった」


今日も講義の場へと行くと彼女は悩み、落ち込んでいた……聞く限り今朝あった魔女狩りについてだろう。


「やっぱり君でもなんとか出来ないの?」


「無理よ……私は所詮領主の娘でしかないもの」


そもそもこの魔女狩りは彼女の父親……つまり領主様が主導している節がある。おそらくは帝都から『機士』が派遣されるまでの時間稼ぎだろう。


「……ねぇ、魔物の大半は四千年前の魔力残滓から産まれているのよね?」


「……そうだよ」


彼女が何が言いたいのかはわかる……けどそれは無理な話だ。


「それを魔法使いが取り込んでどうにか出来なかったの?」


「……長い時間その場に留まり続けた魔力は凝固して僕たちガナン人でもどうにもできなくなってしまうから、無理だよ……」


「そうなのね……」


大戦が終わった直後ならまだなんとか出来たかも知れない……でも帝国はそれを許さなかった、おそらくその大量の魔力を使って徹底抗戦されるとでも思ったのだろう。


「そもそも魔物の被害にあったのはどんな人たちなの?」


そもそもどんな『願い』から産まれた魔物なのかわからないけど、その被害者の傾向から取っ掛かりは掴めるはず。


「確か……妊婦か母親が被害の中心ね」


「母親が?」


「えぇそうよ、魔女に認定されちゃった夫婦は結婚して三年経つけど未だに子どもが出来てないから……それで嫉妬して魔物をけしかけたんじゃないかって」


「……そっか」


妊婦か母親が被害に遭うなんていったいどんな『願い』に対してどんな『対価』を支払ったのか……魔法使いとして経験も知識も足りない僕じゃ検討もつかないや。


「……やっぱり私お父様に直談判してくるわ!」


「大丈夫なの?」


「えぇ、やっぱり罪のない護るべき領民を生贄にするなんて間違ってるわ!」


そう言って彼女は勢いよく立ち上がる。


「悪いけど、今日の講義はここまでね」


「別にいいけど……」


「本当にごめんなさいね、埋め合わせは後でちゃんとするわ!」


そのまま彼女は走り去って行ってしまった……本当に活発な子だなぁ。


「……僕も、なにか出来ることはないのかな」


「おいクレル! こんなところで何をしてるんだ!」


「っ?! ディンゴ!」


しまった……今日はツイてない。秘密の場所から出てすぐに意地悪なディンゴに見つかってしまうなんて……。


「あっ! お前また傷が無くなってるじゃないか、このやろ!」


「痛っ! やめてよ!」


「今は魔女狩りが起きてるんだぞ! なんでそういう事するんだ!」


「っ?! ぼ、僕は魔女じゃないよ!」


「……知ってるよ! 生意気な奴め!」


うぅ、どうしていつも殴られなきゃいけないんだ……やっぱり僕が魔法使いだってディンゴにはバレてる可能性が高いのかな……。


「ふん、このくらいにしてやるよ! いいか? 絶対に治すんじゃないぞ! 命令だからな!」


「わ、わかったよ……」


痛むのは嫌だけど仕方ない……魔法の鍛錬は別の事でしよう。


「ふん! 一人で彷徨いて怪しい事もするんじゃないぞ?」


「わ、わかってるよ!」


やっぱりディンゴには疑われているのかも知れない、これからどうやって誤魔化していこうか……。


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