第265話マジ〇チ三極


「や、やうぇ……て……!」


 先ほどまで和やかに娘と談笑していたらしい、母親の髪を掴んで引き摺りながら『ブルフォワー二帝国』の帝都を闊歩します。

 どれだけ急いで進めたとしても、あれだけ大規模な改革とNPC達にとって新しい概念を導入するのには相当な時間が掛かるでしょうから、ちょっとした暇潰しですね。

 本当はロン老師と交わした、あの姉妹を殺すという約束を果たしに行きたかったのですが……今現在の居場所は全く分かっていませんので仕方がないのです。


「む、娘はぁ……! 娘だけはぁ……!」


「子どもは体力がないですからね、もう死んでますよ」


 髪を掴んでいるのとは逆の手で、無造作に小さい女の子の手を投げ捨てながらそう教えてあげます。

 母親というものは、娘の安否や状況をとても心配する生き物ですからね……ちゃんと教えてあげないと可哀想というものです。


「よくもぉ……! よくも​──ガボっ?!」


 喚き散らす母親に新しい毒を飲ませ、その経過観察をしながらマップを確認しますが……ちょうど中間地点といったところですか。

 改革が終わるまでただじっと待つだけだというのも味気ないので、エルさんが拠点にしているらしい『カメリア大公国』にお邪魔しようかと思ったのですが、やはり行った事がない場所なのでスムーズにとはいきませんね。

 この帝都は『始まりの街』と大公国の首都である『ツバキ』を一直線上の、ちょうど真ん中辺りに位置しています。


「と、止まれぇ!」


「い、今さらまた何の用だ!」


 身体に出来たイボが破裂し、そこから膿と一緒に大量の出血をしたらしい母親の遺体を投げ捨てる動作で、同時に細いナイフを投擲……目の前に居た兵士達の頭を貫きます。

 たまたま通過地点だったから通っているだけだと言うのに、人が歩いているだけでワラワラと出て来て不思議な挙動をするNPC達ですね。


「死ね! ジェノサイダー!」


「これ以上お前の好きにさせるかよ!」


 おや、プレイヤーの方達まで参戦しましたか……どうやら私は彼らに嫌われてしまっている様です。

 少し悲しい気もしますが、まぁ仕方がないので殺してしまいましょう。

 死体となった兵士が持っていた槍を蹴り上げ、空中で回転するそれに回し蹴りをして上から降ってくる彼らの内一人の首を穿つ。

 それによって出来た包囲の隙間に身を滑らせ、彼らの落下攻撃を回避すると同時に左右隣りの方々の喉を短刀とナイフを掻き切る。


「このやろっ​──がッ?!」


 即座に体勢を整え、私の元へと駆け出そうとした方の足下に設置した糸を引っ張って転がし、井上さんの《地動郭》によって首を貫きながら、また別の方の額へとナイフを投擲して殺します。

 それから直ぐに短刀を一時的に上へと放り投げ、空いた両手に加えて口まで使いながら鋼糸を操り、周囲の建物を支点として張り巡らせた罠を起動しましょう。

 それによって自身の身体を囲う様に、脇下や股の間などの隙間を縫う様に伸び、また各関節を縛る様に糸が絡まってプレイヤーやNPCの兵士達の動きを止めます。


「う、動けねぇ……」


 両手と唇で挟んでいた糸をそのまま固結びにし、適当な建物の柱に括り付けて固定しまうと同時に落ちてきた短刀を空中で掴み取る。

 そのまま身動きが一切取れない彼らの首を順番に落としていきます。


「いーち、にぃ、さーん​──」


「ひっ!」


「や、やめろ! やめてくれ!」


 NPCの方達ならともかく、プレイヤーの皆さんはどうせ復活するのでしょう? なら何も問題ないではありませんか。

 不思議な挙動をするプレイヤーの皆さんに首を傾げながらも、しっかりとトドメを刺していきます。


「さて、と​──エルさんも居たんですね?」


「いやぁ、考える事は一緒なのかな?」


 ​──ズシンっ


 怯え、泣いて許しを乞う女性プレイヤーの髪を無造作に掴む事で顔を上に向かせ、そのまま喉をザックリと掻き切った際に噴出した血飛沫を浴びながら、私とは反対方向である南方から来たエルさんに向き合います。

 どうやら彼も私と似たような事を考えていたらしく、帝都の広場であるここでかち合ってしまいましたね。

 前と変わらず白髪に黒のメッシュ、スカイブルーの瞳にニコニコとした表情を張り付けています。


「そちらは何をしようとしていたのですか? ちなみに私は用水路に除草剤を投げ込もうかと」


「ボクは首都圏と地方を結ぶ幹線道路を破壊しに」


 ​──ズシンっ!


 なるほど、農業を中心に足場固めをするであろうエルさんにとって農地や水を穢されるのが致命的である様に、積極的に人や物、お金を動かして成長しようする私にとって人々の往来を絶たれるのは致命的ですね。

 お互いによく相手の事を理解し、それを阻もうとした結果として帝都でかち合ったしまった様です。


「そうですか、それでは貴方を殺してからゆっくりと穢土を作るとしましょう」


「ははっ、そうだね。君を甚振ってから国の動脈をズタズタにしてあげる」


 ​──ズシンっ!!


 顔に降り掛かった返り血を短刀を持ったままの右手無造作に拭い、短刀に付着した血液を左の前腕部の衣服に擦り付ける事で拭い去りながらエルさんに改めて向き直ります。

 彼も無骨で大きな、斧と大剣が合わさった様な見た目の真っ白の大型武器を魔術スキルによる水で洗い流している様ですね。


「ところでエルさん」


「なにかな?」


 ​──ズシンっ!!!


 そんな、いつでもお互いに襲い掛かれる状態でふと疑問に思った事を尋ねてみます。


「何か、音が近付いて来ていませんか?」


「そうだね、ボクも聞こえるよ」


 ​──ズシンっ!!!!


 もうそこまで来ているらしい、音の主を確認しようとエルさんと二人ですぐ近くにあった建物の壁へと向き直り​──


「​──はぁ〜んぅ!!」


 ​──目を瞑り、頬を上気させ、全身をテカらせながら両手を広げた変態紳士さんが壁を突き破りながら飛び出て来るのを目撃します。


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