第199話第二回公式イベント終了

『はいはーい! 皆さんお疲れ様でーす! …………運営だよ☆彡.。』


『主任、真面目にお願いします』


 はい、いつものですね。今回は『運営だよ』の一言と共に周囲にキラキラとした星のエフェクトが飛びましたね……秘書さんが『いつの間にこんなものを……』と、思わずといった風に呟いているところを見ると彼女にも言わずに独断で用意したもののようですね。手が込んでいます。


『ぶーぶー! しぃちゃんイベントだよ? 楽しまなきゃ!』


「「「「「「しぃちゃん?」」」」」」


『おっほん!!』


『……あっ』


 図らずとも他のプレイヤー達と声が揃ってしまいます……秘書さんは『しぃちゃん』と呼ばれているんですね、彼女のイメージに似合わず意外と可愛い呼び名です。本名から取られたのでしょうか? こめかみに青筋を立てた秘書さんと、しまったという顔をする主任さんの反応を見るに本当にやからしたみたいですね……しぃちゃんさんはご愁傷さまです。


『​──ただいま映像が乱れております』


「……」


 その文章と共に映像が切り替わり、なにやら数匹の子猫がじゃれ合うものが映し出されます。

 いきなり脈絡なく関連性のないものを見せられる事に困惑しますし、子猫の映像なんて見てもどうしようもないのですが……しかし周囲のプレイヤー達を見ると『Nice boat.』としきりに呟いていますし、私が知らないだけで既存の流れなのでしょうか?


『はい! という事で早速ですが今回のランキング発表でぇーす! ドンドンパフパフー!』


『……』


 映像が元に戻り、首から『私は口と頭が緩いです』と書かれた看板を下げた主任が元気よく大声でそんな宣言をします。……彼もめげませんね? 秘書さんが能面のような顔をしながらも青筋を立て、静かに自身の眼鏡を拭きあげているというのに。

 鼻にティッシュを詰めている所を見るに、先ほど殴られたのではないでしょうか? それであるにも関わらず直後にこのテンションはある意味凄いです。尊敬はしませんけど。


『はいドン!』


====================


差出人:KSO運営

件名:公式イベントの最終結果

本文:第二回公式イベントのランキングを国別とペアに分けて上位5位まで発表します。

他の国やプレイヤーの方の最終獲得ポイントと順位は自身のステータス画面で見れますのでご安心くださいませ。




国別ランキング


序列1位:バーレンス連合王国獲得ポイント500万8450

序列2位:カメリア大公国獲得ポイント500万2000

序列3位:ブルフォワーニ帝国獲得ポイント380万5450

序列4位:エルマーニュ王国獲得ポイント315万5000

序列5位:エルロンド共和国獲得ポイント225万8550




ペアランキング


序列1位:絶対不可侵領域&フィーリア

《獲得ポイント315万5800》

序列2位:レーナ&ハンネス

《獲得ポイント310万4500》

序列3位:褐色司祭&スク水ニーソ大盟主

《獲得ポイント72万8000》

序列4万:変態紳士&ブロッサム

《獲得ポイント68万7000》

序列5位:ユウ&マリア

《獲得ポイント65万4000》




以上となります、それぞれのランキング上位者と順位に見合った報酬を各国全体に配ります。また、自身が獲得したポイントで豪華景品と交換できますがポイントの有効期限は明日から一週間までとなりますのでご注文ください。


KSO運営より


===================


 ……今回もエルさんと私で上位独占ですか……ペアランキングでは負けてますし、少し悔しいですね? 思い出せば第一回からランキング順位では負け越してしまっていますし、もし第三回目が開催されるのなら、その時は絶対に勝ちにいきましょうか。


『アッハッハッハッハッ! やっぱ二つほど数字がおかしい所があるね?』


『……いつもの二人が関わってますね』


『もう本当に笑っちゃうよ、二人共が自分で建国しちゃうし』


『シナリオ班と技術班が泣いていましたよ』


『まさか自分で建国して、自軍の兵士を率いてそいつ等に拉致させて大量にポイント獲得するとはね〜!』


 おや、エレンさんに兵士を借りた事は正しかったようですね……狙ったやった訳ではありませんが、結果として裏技的なものを使っていたようです。エルさんは……どうでしょう、あの方は団体行動というものが酷く苦手そうですから、案外ペアの方が提案していそうですね。

 そして『カメリア大公国』ですか……確か帝国を挟んで南側にあった小国だったはずです。エレンさんとユウさんから聞いた情報では帝国がかの国を呑み込む寸前に災害に遭って撤兵したとか……もしやこの災害ってエルさんでは? あの戦いの後、そちらに向かっていたのですか。


『ちなみに獲得したポイントはちゃんと使い切ってね!』


『ペアで獲得したポイントは折半、国で獲得したポイントは等分となります』


『それじゃあ、またね〜!』


『皆さまお疲れ様でした』


 要件を全て終えた二人が消えていきましたね。……さて、私はどうしましょうか? 久しぶりに装備を新調しましょうかね……第一回公式イベントの報酬を今までずっと使い続けてきましたし、ここら辺でグレードアップしたい所です。

 ……確かそろそろ大陸西部以外のエリアが解放されそうだとか言ってましたし、新しい場所へ赴く前にもう少し強くなっておきたいところです。


「……さて、エレンさんは大丈夫ですかね?」


 ……また突然に現れたら怒れますかね?


▼▼▼▼▼▼▼


「おい! おい待てよ!」


 くそっ! アイツ歩くスピードクソ速ぇ……これがステータスの差か?! 現実だったらアスリートでもなきゃそこまで距離が開くとは思えないのに、ゲームだと数字の違いがダイレクトに響いてくるな……いや待て、てか戦闘時でもないんだから現実と変わらない速度で歩けるはず……アイツわざとだな?!


「おい待てって!」


「……」


「おい! 聞いてんのか?!」


「……」


「ぜぇぜぇ……ちょ、待ってよ……」


 アイツマジか?! 人が必死に声をかけて嘆願してるっていうのに、ガン無視しやがるぞ?! ここまで頼んでるのに少し立ち止まるという事さえしやがらねぇ……なんなんだよアイツ、殺すぞ! ……いや秒で返り討ちにされるけど。


「だから、待てって​──エル!」


「……なんだい?」


「なんだい? じゃねぇよ! さっきから待ってって言ってたじゃん!」


 コイツマジでクソかよ……なんで『?』みたいな顔してんの? なに? 俺が悪いの? ぶち殺すよ? ……秒で俺が神殿逝きになるから殺らないけど、マジで殺意湧くぞコラ!


「だって、さっき泣く子どもにお菓子あげたでしょ?」


「……それがなんだよ」


「だから君を無視してカルマ値の調整しようかと」


「クソかよ」


 いや、マジでクソかよ(大事な事なので)……なんなんコイツ? ゲームの数値の為に俺を無視すんのやめてくれる? 普通に無視されるのって辛いからね? 傷付くんだからね? ……まぁコイツにその事を伝えても『だからカルマ値が下がるんじゃないか』とか言いそうだから絶対に言わないけど。


「……まぁいいか、それよりもそんなに急いで何処に行くんだよ」


「なんだい? 寂しいのかい?」


「……ちっげぇし」


 なんで俺がコイツと離れるだけで寂しくならなきゃならないんだよ……意味がわかんねぇ、ふざけんなよ? 俺のコークスクリューが火を吹くぜ! ……普通にいなされて顔面パンチ貰いそうだから絶対にしないけど。


「……お前が居ないと国の防衛が成り立たないんだけど!」


「おや、公女様はその事が心配で?」


「……その呼び方やめろ」


「それは失礼致しました​──フィーリア様」


「……様も付けんな、お前分かってやってんな?」


 コイツ……分かっててやってやがんな? 俺が興味本位でネカマプレイしようと女性キャラにするも下手くそ過ぎて誰も騙されず、かといって今さら普通にプレイするには戦闘スキルも生産スキルも育てる余地がないクソ雑魚リビルドで困っていたところをカメリア大公から『死んだ娘が生き返った!』なんて拉致られた俺の事をッ!! プレイヤーでありながら『重要NPC』の称号を得てしまった俺の事をッ!!


「国の防衛の事ならお気になさらず、もしもの時はフレンドメールで」


「……ちゃんと来てくれんのかよ? 『カルマ値が上がり過ぎてるから見捨てるね!』とか言わないか?」


「……………………言わない言わない」


「今の間はなんなんだよ?!」


 本当に信用ならねぇ! そしてそんな信用ならねぇ奴に頼らないと自国の防衛すらままならい立場を押し付けられた俺ってば超可哀想! 誰でも良いから美少女が癒してくれねぇかなぁ?!


「まぁ心配しなくても、自分の拠点を失うのはゲームをプレイする上で不味いからね……心配しなくても助けに来るって」


「けっ、どうだか……」


「ふむ……そうだね、じゃあこれを預けるよ」


「? なんだこれ……?」


 エルの奴から家紋? のような物を渡される……植物に詳しくないから分かんねぇけど、なんか植物の葉が円の形になっているような? なんかそんな感じの紋章が入った物で……なんだこれ?


「それはリアルの僕の​──九条家の家紋だよ」


「……は?」


「それを預けるって事は家の名に誓うっ事だから……ちゃんと約束を果たすまで持っててね? あ、あと悪用も厳禁だからね?」


「……お前お金持ちだったのかよ」


 俺らが苦しんでる時に自分達は悠々自適な暮らしをしてる奴らじゃねぇか……しかも九条家ってアホでも知ってるくらいの有名な華族じゃないかよ。


「華族がみんなお金持ちって訳でもないけど、まぁ暮らしに困ってはないかな……なに? お金持ちは嫌い?」


「……嫌いだけど、仕方ねぇから預かっててやるよ」


「それは良かった……じゃあ行くね」


「ふん! 行っちまえ!」


 普通の速度で歩き去る奴の背を眺めながらお父様​──じゃなくて大公の野郎になんて説明するかを悩む……普通に帝国が攻めて来たら詰むからな、泡吹いて倒れるかも知れんな。


「うーん、『エルマーニュ王国』に使者でも送るべきか……てか何で俺だけ内政ゲームしてんだか」


 全ては自分の甘い見通しと運の悪さが原因だけど……まぁエルの奴と知り合えたのは幸運と言えなくもない、かな?


「まぁ暫くは絶対不可侵領域って名前を出せば大抵の国は黙るだろ……それでも攻めて来るのは噂のジェノサイダーくらいだろうしな」


 ……………………フラグじゃないよな?


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