第197話第二回公式イベント・collapsing kingdomその28
「今のは危なかったな」
「……あら、もう大丈夫なんですか?」
マリアさんのあの攻撃を凌ぐにしても、ある程度の欠損は覚悟していたのですが……気が付いたら岩や大地で出来たような小さいドームの様な空間の中でハンネスさんに抱き抱えられていました。……なんていうか、全体的に暖色の鉱石などが光って綺麗ですね。
……というか、まだ青ざめて口を抑えているではありませんか……本当に大丈夫なんでしょうか?
「あんだけドッカンドッカン殺り合われてたらな……それにポン子、だったか? アイツが連れて来てくれたぞ。……もちろん安全運転で」
「ちなみにこのドームは?」
「……《大地神の抱擁》っていう、任意の攻撃を完全に遮断してくれるスキルだ」
「へぇ」
要はマリアさん達の妨害やらで私のスピードが思っていたよりも落ちていたのと、乗り物効果で追い付く事が出来たみたいですね……なぜわざわざ苦手に乗り物に乗って来たのかは分かりませんが、助かりましたね。
その分、ハンネスさんのステータスに《酩酊^2》のバッドステータスが付いてしまっていますが。
「……いずれ敵になるお前に教えるのは癪だけどな」
「ちなみに後何回使えますか?」
「…………リアル時間で一週間後」
「使えませんね」
「うるせぇ! どっちにしろ《神託》スキルの攻撃を無傷で防げるのはこのスキルくらいしかねぇんだぞ! …………う"っぷ」
「あらあら、大声を上げるからですよ」
ハンネスさんの胸を押して少し距離を離し、滑稽な彼の顔を見て微笑めば『……うるせぇよ』なんて返されてしまいましたね。……まぁ確かに通常の攻撃ならこちらも攻撃スキルを放つかして相殺したり、防御スキルを使用するなりで凌げますが……あれだけ強化されまくった《神託》スキルを無傷でなると無理ですし、生き残れる可能性もほぼありませんでしたからね。
なんにせよ、ハンネスさんが予定よりも十分程度早く来てくれて助かったと言えますね……これは後でポン子さんにもご褒美を考えないといけませんね。
「……それよりもこれからどうすんだ? 向こうは《神託》スキルのリキャストタイムを考えれば一発しか放てないのに対して、こっちは俺とお前で二発は放てるが?」
「確かに私とハンネスさんで同時に《神託》スキルを放つという手もありますね……」
そうすれば例えブロッサムさんに片方を相殺されたとしても、残りの一発が二人を殲滅するでしょう……向こうにもハンネスさんの《大地神の抱擁》の様なスキルがあったとしてもこれでイーブン……むしろこっちはハンネスさんが手助けしてくれるだけで先ほどよりも条件は良いです。
……ですがまぁ、ただ大技を放って終わりなのは少し味気ないですね。
「……ハンネスさん、これどうぞ」
「? なんだこれ?」
「毒です」
「オォイ?! 命の恩人を殺す気かぁ?!」
「失礼ですね……酔い止めは持っておりませんが、誤魔化す事はできますよ」
「……そうなのか?」
私自身が何かに酔うという事がないので酔い止め薬を作製しておりませんでしたが……《無感覚》という状態異常を付与する事で無理やり誤魔化す事はできます。……その際に色々な感覚も一緒に遮断されてしまいますが。
「酔いと一緒に身体の感覚が無くなってしまいますが、大丈夫ですか?」
「それくらいなら問題ねぇよ……ケリンが持って来たクソゲーの中にそんな感じのやつがあったしな」
「……ケリン?」
「……俺のパーティーメンバーの槍使いだよ」
「……………………あぁ」
そういえばそんな感じの名前だしたね……? ハンネスさん達のパーティーはハンネスさんしか覚えていませんでしたね……すっかり忘れておりました。……いけませんね、人の名前を忘れるのは私の悪い癖です。
まぁ、とりあえず今はマリアさん達をどうするのか? というのを解決するのが先ですけれど。
「とりあえず《神託》スキルを使って終わりはなしで……単純に詰まらないでしょう?」
「へっ! 言うじゃねぇか」
「じゃあそれ、グイッと飲んじゃってください」
「…………………………………………不味い」
いつもの顰め面の時よりも顔の中心に皺が寄ってますね……そんなに不味かったでしょうか? 薬の味なんて普段はあまり気にしませんので分かりませんね。これは改良の余地があるでしょうか?
……味を改良すれば簡単に毒殺できそうですね? これは美味しくするよりも無味無臭にする方向にしましょう。
「では解除しちゃってください」
「良いんだな?」
「えぇ、それに普段は敵対するばかりのハンネスさんとの共闘を楽しみたいですから……信頼してますからね?」
「…………ふんっ!」
──口をへの字にしたハンネスさんがスキルを解除すると同時に炎と氷の爆撃が殺到します。
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「やったか?!」
「……それ言わないとダメ?」
「いやどうせダメだし、ネタに走ろうかと……」
いくら罠に嵌め、弱体化させて、一撃のために威力を高め続け、満を持しての《神託》スキルを放ったけれど……どうせ多分生きてるんでしょ、レーナさんだし。
あの人の生存戦略スキル半端ないからね、異能生存体だからねもはや……どうやってキルするのって感じ。
「……まぁでも今回ばかりは五体満足ではないと思う」
「あれで無傷だったら逆に驚くわ」
まぁ確かにまったく無傷だったら今度はこっちが凹むし、しばらく自信は回復しないと思う……ぶっちゃけ倒せたのではないかとすら思う一撃とタイミングだったしね。
例え生き残ってても、《凍傷》なんかのバッドステータスもあるし、私の攻撃の後はだいたいが地面なんかが融解するから……そのダメージフィールドと化した場所でのスリップダメージも期待できる……要は時間差で仕留めた可能性も──
「──なにあのドームみたいなの」
「……シェルター?」
……なんかめっちゃキラキラした茶色っぽいドームのような、シェルターのような……なんか見覚えのない変なのが鎮座しててビックリなんですけど? なぁにあれぇ? 新しいスキルぅ?
……新しいスキルだとしても私の《神託》スキルによる攻撃を防がれるなんて、超ショックなんですけど……傷付くんですけど。
「……あれってさ」
「ハンネスでしょ、もう少し時間が掛かるかと思ったんだけれど……」
「やっぱりそうだよねぇ」
そうだよね、やっぱりハンネスさんだよね……情けなくレーナさんの背後で乗り物酔いしてたのに! ヒロインのピンチに颯爽と助けに入るとか、完全に主人公ムーヴじゃん! マジで嫉妬──ムカつくんですけどぉ?!
「……敵はユウだけでは無かったか?!」
「何を馬鹿な事を言ってるのよ? さっさと準備しなさい」
「わかってますぅー!」
ブロッサムにわざわざ言われなくてもわかってますぅー! あのドームの様な防御スキルが解除された瞬間に一斉に広範囲の魔術爆撃を喰らわせてあげるんだから!
とりあえず、レーナさんのガーディアンとしてユウの他にもハンネスさんを『要警戒対象』に加えなければ! ……これ以上増えないよね? ね?
「……レーナさんの友達が増える分には大歓迎だけど、ねっ!」
「アイツはぼっちの方が殺り易くて良い、わよっ!」
──目の前で崩れていくキラキラしたドームを、ブロッサムと一緒に広範囲魔術爆撃で押し潰す。
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