第96話宣戦布告

「あー、楽しかったですね!」


「……そうかい」


ユウさんとマリアさんの二人を鋼糸で首を絞め折って殺した後、私は清々しい気持ちで声を出すとエレンさんが暗い声で応えます。


「どうかしましたか?」


「なんでもっ……ヴォエ!」


「あー……」


そういえば糸でグルグルに巻き付けて雑に扱いましたね……視界を奪われていたものですから細かい配慮ができませんでした、反省です。


「王女様……も死んでますね」


「……ぅ」


小さく呻き声を発するのみで反応がありません、首を横に倒してぐったりしていますね? まぁ彼女は私の背に背負われていましたので激しい戦闘行動の影響をモロに受けたのでしょう。


「でも勝ちましたね」


でも勝てたので良かったです、嬉しい……嬉しい? ……そうですね、嬉しいです。楽しく戦えて、楽しく勝てて嬉しかったです。


「二人には感謝せねば」


「あ、そう……」


エレンさんがこちらをなんとも言えない目で見てくるのが少し気になりますが、本当に楽しかったので良しとしましょう! さて、後はゴミ掃除ですね。


「じゃあエレンさん、脱出しますよ」


「……マジですんのか?」


「? 当たり前じゃないですか?」


「……そうかい」


ちゃんと打ち合わせまでしたのに何を今さら……まぁ、いいですエレンさんと王女様を担いで崩れ落ちた壁から糸を近くの尖塔まで括り付け、その上を走りながら上空へと特大の花火を打ち上げます。


「合図が出たぞー!」

「退避ー!」

「撤退だ! 引けー!」


対抗薬を持っていないプレイヤーにしか効かない麻痺毒を屋敷中に上からばら撒き、時に糸に塗った物を直接付与し、行動を縛ります。


「……マジですんのかぁ〜」


「いい加減に諦めてくださいよ」


大体の領軍が退避したところで、地下室へと続く糸を手繰り寄せて引っ張り、仕込んでいた自分でも頭おかしいんじゃないかと思うレベルの量の爆薬を起爆します。


「……さらば、愛しのベッドよ」


「? 寝るのが好きなんですね?」


「……お陰様でな」


鍋を頭に被ってから殴られたような衝撃と爆音に身体を揺さぶられる……尖塔の屋根の上で身体に糸を巻き付けて落ちないようにしてその光景を眺めながらエレンさんと会話を交わす。


「おー、プレ……渡り人の皆さんが吹き飛んでいきますよー」


「……普通領主の屋敷ごと吹き飛ばすとは思わんだろうさ」


文字通り屋敷と一緒に木っ端微塵になるプレイヤーたちを眺める……麻痺で動けないままに爆発に巻き込まれていくプレイヤーたちはこちらに対して思い付く限りの罵声を浴びせているようですが……まったく聞こえませんね、雰囲気からなんとなく罵られていることはわかるのですが。


「でもあの短時間であの人数を壊滅させるのってこれぐらいしかなくないですか?」


「……普通は降伏って選択肢があんだよ」


「でもそれは面白くないです」


「……頭痛薬はどこにやったっけ」


おや、またお薬ですか? あまり飲みすぎると身体に良くないと思うのですが……そんなに具合が悪いのでしょうか?


「頭が悪いのですか?」


「……せめて頭が痛いのかと聞いてくれ」


「これは失礼しました」


確かに今の聞き方ではまるでエレンさんの頭が悪いかのようでバカにしているように聞こえますね……頭が悪いのは間違っていないのですが意味が違います。


「さて、準備はできていますか?」


「……部下を派遣した、ついて返事を貰い帰ってくるのに大体一週間ってとこか」


一週間ですか……ユウさんとマリアさんのお願いを聞いてあげるとして、残りの日数は……。


「その間なにしましょうかねぇ?」


「……こっちは屋敷を再建しなきゃならんのだから、これ以上の厄介事はやめてくれよ?」


「わかってますよ、今回も大変助かりました」


本当に面白くなりそうです、新しい戦い方は戦争で披露するとして……とても楽しみです。


《レベルが上がりました》

《カルマ値が大幅に下降しました》

《スキルレベルが上がりました》

《従魔たちのレベルが上がりました》


そんな通知を聞き流してその場をはなれます。


▼▼▼▼▼▼▼


「読み上げます」


ブルフォワーニ帝国の帝都にある皇城……そこの謁見の間にて俄に緊張を帯びたエルマーニュ王国第一王女の使いと名乗る者が書状を広げる。


「ブルフォワーニ帝国は領内のエルマーニュ人を不当に差別し迫害している、これを看過することはできない。エルマーニュ王国はフェーラ・ディン・エルマーニュ第一王女の名の下に自国民保護のため、貴国に宣戦布告をする」


一息に使者が言い切った後も謁見の間は静か……いや静か過ぎる。誰もが口を閉ざし黙って使者を睨み付け、皇帝の判断を待つ。


「……その使者の首を塩漬けにして送り返せ」


「御意に」


「お、お待ちを?!」


そう命令を下した皇帝は次に総動員を発令し、戦争準備を各諸侯へと通達……過激派の将軍や大臣が喜び勇んで戦準備へと走る。


「戦争はしたくなかったのだがな……」


謁見の間から離れた皇帝は独りごちる……領土拡大よりも国内の安定を求めた穏健派でもここまでキッパリと向こうから宣戦布告されてしまえば過激派の部下や家臣たちを抑えつけておくことなど、もはやできない……。


「部下たちが暴走するのは後数年は持つと思ったのだが、まさか向こうから……それも王女からとは誰が予想できようか……」


深々と疲労の色が濃ゆい溜め息を吐き出しながら自室のソファーへと身体を沈め、嘆く……やっと先帝が拡大した領土の支配が安定してきた矢先の出来事だ。


「抑止力であったアレクセイ殿も死んだというし、いったいなにが起きている?」


運営すら予想できない一人のプレイヤーの動きなど、自分たちが本当の人間ではないことすら知らないNPCたちにわかるはずも無かった。


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