第94話善悪攻守逆転その5

「ぬぅ……」


「そろそろ時間ですかね?」


そろそろ宣誓スキルのデメリットで死ぬでしょう、こちらはエレンさんと王女を庇いながら攻撃を躱していくだけですからね、とても簡単です。


「……相変わらず私の想いは届きませんか」


「そうですね、ではそろそろさよな──」


「──《エクストラ・ヒール》!!」


……あぁとうとう来ましたか、待ちわびましたよ? おそらくマリアさんのものでしょう、回復魔術が飛び変態紳士さんを全回復させます。


「そういえば協力するんでしたな?」


「そうですよ、勝手に死にそうにならないでくださいね?」


「やるぞ……僕はやるぞ……!」


やはりユウさんとマリアさんの二人でしたね、どうやら当初の予定では共闘するつもりが変態紳士さんが先行し過ぎたみたいですね……なにやら変な挙動をしているユウさんはいつも通りなので放っておきましょう。


「……よし! レーナさん、覚悟はいいですか? 僕はいいですよ」


「いち……レーナさんに勝って言うこと聞いてもらいますからね?」


そう言って二人はそれぞれ武器を構える……ユウさんが指示棒のような短い杖でマリアさんが自身の身長よりも少し高く、先が湾曲して引っ掛けやすい杖ですね。


「……『身体武器・杖身一体』!!」


「《放送事故》!!」


まずマリアさんが上級クラス専用の強化を使用し、ユウさんが走り出そうとしたこちらへ向かって魔術を発動する……相変わらず効果がわからな──


『ただいま映像に乱れが出ております』


──なるほど……視界がこの文字だけになりましたね、ほぼ目隠しされた状態で戦わないとダメですねこれは……彼ら三人を一度に相手するには本気を出すしか無いようです。


「『身体強化・虐殺器官』、『精神感応・魔統』、『自己改造・凶気薬』」


「《呼応共鳴・慈母献身》、《神意宣告・神敵討滅》、《付与全体化》、《炎熱攻勢》、《炎熱守護》、《ハイエンチャント・グローリープロミネンス》、《ハイエンチャント・ライトディヴォーション》」


「《圧倒的成長力》、《付与全体化》、《ハイエンチャント・フィジカルパワー》、《ハイエンチャント・フィジカルバリア》、《ハイエンチャント・アクセラレータ》、《ハイエンチャント・インテリジェンス》」


「《被虐体質》、《ハイエンチャント・セイクリッドオーシャン》、《ビルドアップ》」


お互いに情け容赦なくガンガン強化と付与によるバフを積み重ねていきます……変態紳士さんの殴打を井上さんから教えてもらいながら避け、三田さんが示す方向へ投擲しつつ、お互いに妨害しますがそれぞれの対抗手段で防ぎます。


「《熱線》!」


「《蒼黒五連》!」


三田さんに引かれるままに首を傾けマリアさんの魔術を躱し、井上さんに動かされるままに変態紳士さんのスキルに対して《爆炎四刃》で相殺して残りを《流水》で受け流す。


「ちょっとユウ! 本当に見えてないんだよね?!」


「そ、そのはず……」


「ハッハッハッ、いやはや愉快愉快!!」


自身に薬でドーピングを施し、王女を背中に背負う形に……エレンさんを糸でグルグルの簀巻きにして空中を絶えず移動させて庇いながら変態紳士さんの突き込まれる右拳を首を逸らして避けながら右手を手首に添え、左手で彼の肘を掴み引き回して壁にぶつける。


「《ハイヒール》、《赫灼天》!」


「《火に油を注ぐ》!」


相変わらずユウさんの魔術がわからない……ですがそれによりマリアさんの赤白い火球が一回り大きくなったイメージが従魔たちより伝わってきますね。


「か〜ら〜の〜?」


「《魔術憑依》!」


「来ましたな! 《水爆》!!」


「っ?!」


まさか魔術を憑依させるとは……本当にユウさんは予測がつきませんね?! 圧倒的破壊力を秘めた変態紳士さんの攻撃を現時点で使える全ての防御スキルで威力を弱めてから受け流す!


「……っう!」


物凄く痛いし熱いです……掠っただけで一気に皮膚が重度の火傷により破裂し、汁と一緒に血を飛び散らせるが、それすら蒸発する熱量……もしやマリアさんは色んな意味で火力特化なんですかね? 回復や補助もできるようですが……。


「やって……くれるじゃありませんか!」


屋敷中に鋼糸を張り巡らせ行動阻害と僅かな空気の振動から彼らの動きを読む。変態紳士さんの蹴りをしゃがんで避け、上を通過する時に立ち上がって脚を掴み取ってマリアさんの放った魔術へ向けて投げ飛ばす。ユウさんの意味のわからない魔術による全身タイツの頭のおかしな人たちを一人ずつ確実に処理していきます。


「ハッハッハッ、本当に愉しい御仁ですな?!」


「私も前に出る!」


「了解! 《税金投入》!!」


相変わらず視界が回復しないまま変態紳士さんとマリアさんの猛攻を捌いていく……放たれる右ストレートを前進しながら躱して短刀の柄で顎を殴り付けるカウンターをお見舞いした後は突き込まれる杖に刃を立てて逸らし、手首の返しで湾曲した部分に引っ掛けて引き寄せ、マリアさんの鳩尾につま先を埋め込む。


「ぬぅ!」


「ぐっ、げぼっ……!」


ユウさんに毒針を複数投擲しながら、変態紳士さんの足払いを跳んで躱し、空中で横薙ぎに振るわれる杖に短刀を添えて勢いを殺さずそのまま飛び距離を離して、ユウさんに再度牽制の毒針を投擲しながら鉄球を《流星・改》によって前の二人に向けて投げ飛ばす。


「ゼェイア!!」


それを相殺するべく掛かりきりになった変態紳士さんを捨て置いてマリアさんへと吶喊します。振り下ろされる杖を腕を交差して手の甲と手首の間で受け止め、それを斜め下に引っ張り前のめりになった彼女の顎を蹴り上げ首を短刀で狙いますが……ユウさんからの魔術であろうと思われる、床から勢いよく噴く熱湯をバックステップで避けます。


「ぬぅあ!!」


ユウさんとマリアさんへと毒針を投擲しながら変態紳士さんの回し蹴りをしゃがんで避け、それによって崩れる壁を横目に予備の短剣で膝裏を貫き固定します。


「しまっ──」


そのまま変態紳士さんの首を短刀の一撃で刎ね飛ばし、落ちた首を蹴り上げてこちらへと向かってくるマリアさんへと飛ばし、胴体へと爆薬を詰めてユウさんへと投擲します。


「わわっ、ごめんなさい!」


「《世間との壁》!」


マリアさんは謝罪をしながら変態紳士さんの首を杖で弾き飛ばし、ユウさんは魔術で爆発を凌ぎましたね?


「……さて、後はお二人さんだけですよ」


「あちゃ〜」


「マジか〜」


二人とも落胆してみせますがその顔は笑っています……ふふ、私も楽しいですよ? 次はどうしますか?


「……まぁでも、負けないけどね?」


「最後まで諦めませんよ?」


あぁ、本当に楽しい……お二人にはたとえ私に負けても特別にお願いを聞いてあげましょう。


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