第51話父と娘

「お嬢様、旦那様がお呼びでございます」


「…………わかりました」


学校から帰ってきて早々に山本さんに呼び止められる。……あの男が自分から私を呼ぶ? 今日は雷雨でも来ますかね…………。


▼▼▼▼▼▼▼


「来たか……」


…………しばらくはこの男の顔など見たくなかったんですけどね。


「お前の顔など見たくもなかったが話がある」


同じことを考えているのならばわざわざ呼び出さないでくださいよ。


「……話とは? 」


「…………分家の一条子爵家から養子を取る」


「理由を聞いても? 」


少し話の流れが読めませんね、養子を取るほどのことはなかったはずですが?


「分家にお前と違って優秀な男児が居る、そいつを跡継ぎとして据える」


「…………この際私については何も言いませんが、弟が居たのでは? 」


あれだけ溺愛していたはずです、それこそ私や死に際の母にも見せない笑顔を見せるほどに…………。


「……親としてと一条公爵としては別だ、アイツは人間性には問題ないが凡人過ぎる」


「そうですか……」


まぁ、弟も妹も未だに顔を合わせたことすらないので別にどうなろうと構いませんが。


「養子にとる者はお前の五つ上で人間的にも良くできており優秀だ…………お前と違ってな」


「……」


この男は私がこれまで模試全国一位を取り続けたことなど認めないでしょうから今さらこんな言葉では動揺しませんが、少なくともその養子になる方は私と同程度の成績はあるのでしょう。


「今度そいつがこの屋敷に挨拶に来る、くれぐれも別邸から出てくれるな? 」


「出ませんよ」


「ふん、その時関係者も一緒に来るのでな、化け物を飼っているとは思われたくない」


……………………その目ですよ、私が嫌いなのは…………魂の底にこびり付く汚れを無理やりこそぎ落とされているかのような不快感が生まれるんですよ………………。


「…………化け物がそんな目で私を見るんじゃない、不快だ」


「……………………申し訳ございません」


「こんな化け物を産むなど…………」


………………母の死に目にアノオンナとアッテイタクセニ? ナゼオトシメルノカ。


「……何か言いたげだな? 」


「いいえ、何も……ゴザイマセントモ」


あぁ、ダメです……母との最後の約束です。この男にもあの女にも、ましてや弟や妹にも手を出してはダメです。


「だったら今すぐ私の視界から消えろ、お前の義兄になる者にも私たちにも極力関わってくれるな? 」


「……………………失礼します」


溢れる殺意を抑えて一礼し、部屋を出ます。


「ふぅ……」


「お嬢様…………」


「……なんですか? 山本さん」


部屋を出ると山本さんが待っていました、まだ何か用事があるのでしょうか?


「あまりお気になさらぬよう、身体に毒でございます」


「ありがとう存じます、私は大丈夫です」


あら、少し心配させてしまいましたか……いけませんね、今は無表情が保てなくなっているようです。


「それと奥様とお子様方がそろそろ顔を見たいと…………」


「断っておいてくださいませ」


「…………かしこまりました、ではこれで」


そう言って山本さんは去っていく。今顔を合わせたら母との約束を守れそうにありませんからね…………そもそも会いたくもありません。


「…………母から父を奪ったアノオンナは特に……………………」


人目を避けるようにして別邸の自室へと戻りベッドへと倒れ込みます。


「母様……」


少しだけ、ほんの少しだけ母の香りのする気がする枕に顔を沈め深呼吸します。


「…………あの男と会うと感情が乱されて疲れてしまいますね」


この恨みはゲームで晴らしましょう、丁度公式イベントも開催されることですしね…………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る