第44話クレブスクルム解放戦線・破軍その4
「はっ……はっ……」
「ごめんね、もう少しだけ頑張ろうね」
そう言って僕は助け出した奴隷だった小さな女の子の手を握り走る。女の子は体力の限界だろうが仕方ない。もうすぐそこまで追っ手が迫ってきている。
「待て! 」
「っ! 追い付かれたか! 」
レーナさんに一発腹に貰って少し悶絶してから、僕は混乱に乗じて助け出された元奴隷たちをその時一番近い地下通路の出入口へと送り届けていた…………が、この女の子はロリコン貴族の所から助け出された。幸いまだ奴隷になってから日が浅く酷いことはされてないようだが、その貴族の屋敷はどの出入口にも遠かったために未だ走り続けている。
「ごめんね、男の僕に触れられるのは嫌だろうけど我慢してね? 」
「っ! ……(コクっ」
一言断りを入れ、女の子が頷いたのを確認してから、なるべく負担の掛からないように腕を椅子にするようにして担ぎ上げる。
「追え! 」
「この不良品共め! 」
迫る追っ手の剣閃を頭を下げ、飛び上がり、身を捩り回避するがそろそろキツイな……。
「《草》」
なのでここで『ネット魔術』で追っ手の足元に草を生やして足を絡め取り、そのまま全身に纏わりつかせる。…………どこから汚い笑い声が聞こえてくるがいつものことなので無視する。
「《炎上》」
すぐさま同じく『ネット魔術』による炎上により草ごと燃やし、継続ダメージを与えつつ後続の足止めをする。…………どこからか尊師ネタやふざけた画像の応酬が演出として宙に浮かぶが無視だ!
「《凍結》」
そのまま草が燃えて発生した煙を隠れ蓑にして水路をこれまた『ネット魔術』で凍らせてからそこを渡り逃げる。…………副垢で謝罪になっていない言い訳を垂れ流す声と映像が流れるが無視ったら無視!
「っ! 」
「いたぞ! 」
「道を塞げ! 」
なんとか撒いたと思ったら、運が悪いことに目の前の通りを衛兵が塞ぐ。予め回り込まれていたのだろう、ショートカットをしたとはいえ地元民には勝てないか…………仕方ない。
「『DQN魔術』…………《法定速度違反》!! 」
短時間だけだが一瞬のうちに爆発的な加速をして衛兵たちを追い抜…………いや、轢いていく。…………どこからか『キキッー! ドンッ! ウゥー、ウゥー、ソコノクルマトマリナサイ』と恐らく事故の音とサイレン音、そして警察の呼びかけらしきものが流れるが絶対に無視し続けてやる!!
「やろう! 」
「待ちやがれ!! 」
「《クソリプ》!」
衛兵たちを轢いて駆け抜けながらさらに足止めとして『ネット魔術』を発動する。
するとどこからかアニメアイコンを顔に貼り付けた全身白タイツの集団が衛兵たちを取り囲み『そんなことしていいと思ってるんですか? 』『走れない人もいるんですよ! 』『ポ〇モンゲットだぜ! 』『衛兵よりも事務職の方が給料もいいし命の危険も少ないと思います、勉強したらどうですか? 』『この子可愛くないですか? 』などと延々と相手のことなど考えず捲し立てる…………おぞましいから無視しろ、俺!!
「ねぇ、あの人たち……」
「見てはいけません! 」
自分で出しておいてアレだが小さい子には猛毒だと思う。女の子の視界に入らないようにしながら逃げ続ける。
「あそこだ! 」
「絶対に逃がすな! 」
クソっ! 本当に敵の数が多い、確かにここは貴族街だがそんなに湧いて出てこなくてもいいじゃないか!
「くっ! この子の前で使いたくなかったけど………ええぃ! 《メスガキ》! 」
『オタク魔術』……一時期オタクの間で流行った物を召喚したりする魔術により生意気な表情をした女の子が現れて衛兵たちに──
「ざ〜こっ! 恥ずかしくないの? ♡」
「っこのガキ! 」
「大人を舐めるなよ?! 」
「きゃ〜、こわ〜い! 」
「絶対負かす! 」
──見事に引っかかりヘイトを稼ぐことに成功するが…………。
「…………」
女の子の視線が痛い! 無表情でジッとこちらを見てくる! いっそなんか罵って!!
「うぅ……《圧倒的成長力》《エンチャント・アクセラレータ》!! 」
『リア充魔術』を発動し、『自分を追い込み圧倒的成長』『フィジカルシンキングを発揮してパートナーシップを』『バーベキューなう』『お客様目線のカスタマーサイドに』『頼れる上司、優しい先輩、可愛い後輩』などと意識高い系──ツイ〇ターではなくフ〇イスブックを使っているような奴ら──が現れ、こちらに人生の楽しさをひたすら布教する…………無視したいがそれによって次の強化や付与の効果が2倍になり、AGIの強化をした後に一気に駆け抜ける…………!!
「……なんで泣いてるの? 」
「なんでもないよ…………」
その調子で街を駆け続けやっと出入口に到着する。…………ここまで本当に長かった、自分のスキルでダメージ負うってなんなんだ……取得したのは自分だけどさ…………。
「ほら、あとはこの人たちについていけばいいからね? 」
「……」
「すまない、助かります」
「いえいえ、では僕は次の──」
場所へ行こうとすると服の裾を女の子に掴まれる、どうかしたのかな?
「……どうしたの? 」
「あ、あの……助けてくれてありがとう、私の名前リナって言うの…………だから、その……今度お礼させてください! 」
「もちろん構わないよ、その時を楽しみにしてるね? 」
「っ! う、うん! 」
どうだ! 僕だって役に立つんだよ! 見たかレーナさん!
「それでは僕はこれで、その子のこと頼みますね? 」
「あぁ、任せてくれ」
「またね! 」
女の子……リナちゃんを解放員の人に任せて僕はまた街を走る、僕にラノベ的展開は望むべくもないけど少しでも……たとえゲームでも人助けが出来るのなら全力を出そう!
《カルマ値が上昇しました》
そんなアナウンスを聞き流しながら僕は次の場所へ向かっていく。
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