第41話クレブスクルム解放戦線・破軍

会議では前々から計画はしていたのでしょう、ほぼ最終確認のようなもので、要の一つである混乱の起こし方などの詳細はあくまで協力者に過ぎず部外者である私たちには詳しく語られませんでした。

まぁ、私の役目は相手の実力者を二人屠るだけの単純なものですから知らされなくてもいいですけどね。


「では解散じゃ! 」


ロン老師のその宣言と共に、ゾロゾロ集まっていた人が会議室を出ていく。

この会議では『統率』スキルや『鼓舞』スキルを持っている私が演説? をすることが追加されましたが……このスキルたちは味方を強化するだけでなく、文字通りの技能としてNPCたちやクエストにもある程度効果を及ぼすようですね、面白いです。


「うーん、どうしましょう? 」


「? レーナさんどうかしましたか? 」


「いえ、演説頼まれたじゃないですか? ですが私は街中に声を届けられるような声量が無くてですね……」


思わず漏らした声にユウさんが反応しましたので答えておきます。


「あぁ、それでしたら僕が使えますよ! 運営のネタ枠の一つである宴会魔術の《マイク》ってのがありまして」


「…………なんでそんなものが使えるか聞いても? 」


本当になんでそんなスキル持っているんですか? 私、存在すら知りませんでしたよ?


「いや、その……検証したくて……」


「あぁ……」


忘れてましたけど、たしかユウさんは検証班とかいう人種の方でしたね。こういった謎スキルや人気のないスキルの有用性も検証していくのでしょうか? なんというかお疲れ様です……。


「そんなスキル群で、よく途中までとはいえ最前線をソロで行けましたね? 」


「いや〜、主力の付与を自分に掛けまくったり、それにこんなネタスキルでも運用と組み合わせ次第では使えるのでそれでゴリ押ししたというか…………」


……なるほど、検証しているだけあってその特性を熟知していると。……まぁ、なんにせよ今回はそれで助かりましたね。


「では明日は支援よろしくお願いしますね」


「はい! 任せてください! 今度こそ役に立ってみせます! 」


なにやら気迫が籠っていますね? 別に役立たずだとは思ったことはないのですが……何かありましたのでしょうか?

まぁ、どうでもいいので明日に備えますか。


▼▼▼▼▼▼▼


たった今先遣隊が衛兵の詰め所や奴隷商館を複数同時襲撃したところですね。今私が居る場所は外門と中央広場の間にある公園です。驚いたことに、地下に街の中に通じる隠し通路や出入口がたくさんあったんですよね。聞いたところによると領主が代わる前、それこそ何代にも渡って造られたとかで、それを使って武装した元奴隷たちが集まってきています…………ふふ、ワクワクしてきてしまいますね?


まぁ、これから私は台の上に立って色々話すわけですが……こういうのあまり慣れてないんですよね…………。

まぁ、今朝に『行かないで……』と渋るニアさんと『あなたたちのために精一杯頑張ってきます』と約束して出てきたのでできる限りのことはやりましょう、約束は守るものですからね。


「ではユウさん、お願いします」


「えぇ、任せてください。宴会魔術の《マイク》とDQN魔術の《騒音》で街中にレーナさんの声を届けます」


…………本当に謎のラインナップですね? まぁ、いいです。それよりも何を話しましょう……周りを見回しても左頬に印のある武装した集団​──街中の至る所からいきなり出てきたので素直に驚いた​──とそんな彼らを怯えた目で見る住民しか…………これですね。

喋る事を決め私は台に立ち、奴隷……いや、元奴隷たちと見つめ合います。


「​──皆さん、周りを見なさい」


こういうのは慣れてないので、勢いとスキルでゴリ押ししましょう。


「​──今、同胞の働きにより街は混乱しています」


演説? なんて中高の新入生代表挨拶くらいしか経験ありませんからね、仕方ないです。


「​──もう一度言います、見なさい周りを、あなたたちは今、どんな目で見られていますか? 」


おや? 初日に船で飴をくれたおじいさんが居ますね? こちらを驚愕の表情で見ています。


「​──物として、道具として見られていますか? 未だ人として見られていませんか? ……否、彼らの恐怖の眼差しを、驚愕の表情を見なさい! 」


先遣隊の急襲と、どこからか湧いて出た左頬に印を持つ者たち​​──つまり奴隷​──の大規模な反乱に、住民たちはそれこそ自分たちを脅かす者として見ています。


「彼らはそれを道具の反乱ではなく自分たちを脅かす者……人として、脅威として見ているではありませんか!! 」


おじいさんには悪いですが利用させてもらいましょう…………あの飴クソ不味かったですし。


「​──そこに居るおじいさんは初めてこの街に来た私たちにも優しく接してくれましたが、その方ですら奴隷は物という認識でした。それがどうです? 今はそんな眼差しではないではありませんか! 」


そんな下を向かないでくださいよおじいさん、こっちを見て目に焼き付けるのです…………ただの道具に噛みつかれる瞬間を……! ふふ、なんだかゾクゾクしますね……!!


「​──あなたたちは人です! 」


とりあえず綺麗な言葉を叫んで、大げさな動作をしとけばいいんですよね?


「​──住民たちですらそれを無意識に認めてしまっています! 」


あぁ、なんだかどんどん辛くなってきました。


「この戦いは戦争でも反乱でも、ましてや復讐でもありません! 人としての尊厳を取り戻す戦いです!! 」


いや、ぶっちゃけ公式HPも読み込んでませんし、ユウさんみたくマニア知識も無ければこの街の文化と歴史を知り尽くしているわけではないので、こんな大げさなこと叫んでる自分に笑いが込み上げて辛いです、本当に……。


「​──いいですか皆さん」


そろそろ本気で辛いので締めに入りましょう、彼らの虐げられてきた歴史を思えば短いんでしょうけど持ちません、無理やり畳みます。

そのために私は腰から短刀を抜き去り自身の左頬に自ら奴隷の印​──だった物を刻み込みます。


「『っ! 』」


途端にその場にいる全員が驚愕の表情を浮かべ、中には口開けたままアホ面を晒す者も​​──なんで貴方が悲鳴を上げてるんですかユウさん?


「​──この印は隷属ではなく海をかける自由の!」


ここで手を広げる。


「​──この印は早さではなくどんな嵐でも妨げられない速さの!」


ここで胸の前で両拳を握る。


「そして解放の象徴です​──!! 」


あぁ、とうとう泣き出した人たちがいますね? 私の『偽装』スキルが進化した『演技』スキルが『鼓舞』スキルなどと一緒に良い仕事をしているようでなによりです…………これ、大分恥ずかしいんですからね?


「今、あなたたちの同胞が既に自由のために血を流しています! 我らが自由を手にするには、それに続き短時間で決めねばなりません!! 」


今も自分たちの同胞が血を流してることを思い出し、それまで驚いていた者や泣いていた者たちが覚悟の決まった顔になる。


「時は今! 決戦はこの今です! 」


いよいよクライマックスですよ。


「さぁ、駆けるのです! その左頬の​​──」


この後のセリフ、最初はダッタン人​──現代でいうモンゴル人でしたか​──の矢よりも速く! と言おうとしましたが、NPCに通じるかどうかわかりませんでしたので止めておきました。それになによりお誂え向きのがありますからね​──


「​──クレブスクルムのように速く!! 」


ここで顔の横に握った右拳を持っていき、左手をお腹の前に添える。


​──ウオォォォオオォォォオオオ!!!!!!!


その時溢れんばかりの雄叫びが街中に響き、私の耳が痛くなり一瞬だけ殺意が湧きました……いや、しむけたの私なんですけどね?


一応クレブスクルムは信仰の対象でもあったらしいですから、『……よりも速く』と言うより『……のように』と変えましたが、その効果はあったようですね……というかあったことにしてくれないと困ります、何気に恥ずかしかったんですから………………。


「あれ、レーナさん耳が赤​──」


台から降りたところで野暮なことを言いかけたユウさんの水月に拳を叩き込んでから、広場に駆け抜けます。

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