貧乏少女のカクヨム奮闘記 ~バイトできない中学生の女の子を全力で応援する男子高校生の物語~

あさかん

プロローグ「貧乏少女とバイト探し」

 俺の名前は宮野康太みやのこうた、現在は高校2年。


 入学と同時に両親が共に海外へ転勤してしまった俺は、母親の妹、つまり叔母さんなんだけど、その美香みか叔母さんが管理人を勤めているという理由でそのボロアパートの一室に放り込まれてしまい、仕方なく一人暮らしで学校に通っている。


「康太お兄ちゃ~ん、お邪魔するねっ」


 インターホンも鳴らさずに玄関のドアを開けて入って来たのは柊美也ひいらぎみやといって、去年シングルマザーの母親と共にアパートの隣の部屋に引っ越してきた中学1年の女の子。


 引っ越してきたときは美也ちゃんがまだ小学生だったこともあって、自分の仕事が終わるまで一人で部屋にいさせるのが心配だった彼女のお母さんの真理子まりこさんが管理人の美香叔母さんに相談したみたいなんだよね。


 三十路の美香叔母さんは顔は怖いし口もキツイけど、凄く人情味が厚い人だから即答で『学校から帰った後は私が預かってやる』と言ったらしい。美香叔母さんも良い人なんだから、もうちょっと外見と口調を優しくしたら結婚相手もすぐ見つかると思うんだけどなあ。


 それで普段の美也ちゃんは美香叔母さんの管理人室にいたんだけど、叔母さんも色々と用事があるからそんなときは甥っ子の僕の部屋に連れて来て『美也を見てやれ、手は出すなよ』って置いていくわけさ。いやいや、いくら彼女のいない高校生だからって小学生の女の子に手は出さないってば。


 最初は本当に美香叔母さんの用事があるときたまに来るだけだった美也ちゃんも、やっぱり管理人室より僕のアパートの部屋の方が漫画とかもあって楽しいのか、学校帰りに直接僕のところへ遊びに来るようになっていた。


 今は中学生になったこともあって流石に自分の部屋で留守番できるんだけど、暇なときや何かあると今みたいにちょくちょく僕の部屋にやってくるんだ。まあ美也ちゃんとは兄に懐く妹みたいなそんな間柄。


「それで美也ちゃん。今日は何の用事? 漫画の新刊なら配信日は明日だから今はまだ読めないよ」


「違う、違うよ。今日はね相談に来たの……あのね、中学生でもできるバイトとかってないかなあ」


 僕は美也ちゃんの呟きにハッとする。美也ちゃんは真理子さんの給料が少ないこともあって多分お小遣いとかも余り貰ってないんだろうなって思ってたんけど、やっぱり年頃だから友達とかと遊びにいくお金が欲しいのかもしれない。


 美香叔母さんもおもちゃとかゲーム機とか買ってもらえない美也ちゃんに自分の使い古しのタブレットをあげたり、僕もこっそり自分が使っているネットの電波を隣の美也ちゃんの部屋に届くようにして退屈しないようにしてあげてたけど、もう中学生なんだお洒落とかもしたいよね。


「うーん、ひと昔前なら中学生でも新聞配達とかで雇ってくれてたってお父さんが言ってたけど……」


 ついでに言うと、中学生の頃のお父さんは自転車をモリ漕ぎして新聞を配ってたって自慢してたんだけど。今はそんな人全然見かけないしなあ。


「やっぱそうだよね。中学生じゃ無理かあ……一応、他の人にも聞いてみようかな―――」


「ちょっと待って!」


 いやいやいや、美也ちゃんちょっと待って欲しい。他の人に聞いたからってまず中学生でも出来るバイトなんて簡単には見つからないと思うけど……そんなのがあった場合が問題だ。


 如何わしい仕事かも知れないし、変なトラブルに巻き込まれるかも知れない。


 もしそうなったりしたら『美也に相談を受けておきながら何故お前はそれを放置したのか!』と美香叔母さんにぶん殴られる。それに何より僕自身が嫌だ! 僕に懐いてくれている可愛い美也ちゃんが普通じゃないバイト先で悪い人に悪戯されるかもって思うと心配で夜も眠れないよ。


 考えろ僕、考えろ康太、考えろ考えろ、何か安全で中学生でもお金が稼げることはないだろうか!?


 何か、何か……


 左右に顔を振りながら必死で考えていると、本棚に入っていた一冊のラノベが僕の目に入った。


『異世界旅人~幼女とのんびりスローライフ~ 作:ミヤタ』


 ―――あ。これだ。


 バイトと違って確実に稼げる保証はないけれど、これなら中学生の美也ちゃんだって安全にお金を手にすることが出来るかも知れない。


「あのさ、美也ちゃん。カクヨムって知ってる?」


「うん、小説サイトだよね。学校でも人気だし、タダで読めるから私もしょっちゅう見てるよ。それに最近アニメ化した作品なんてめっちゃ面白いよねっ」


 目をキラキラさせている美也ちゃんは余程ラノベが好きなんだろう。


「それと美也ちゃんは小学校のとき、童話コンクールで金賞をもらったことがあるよね?」


「うんっ! 確かそのときのご褒美で管理人の美香お姉さんからタブレットを貰ったんだよ」


 そう、受賞しても表彰状がもらえるだけの小学生を対象とした県主催の小さなコンクールだったけど、美也ちゃんは小学生とは思えないほどの文章力で見事に金賞を得たんだ。


「じゃあカクヨムで小説を書いてみたら?」


「ん? ……小説? それとバイトと何か関係があるの? 康太お兄ちゃん」


「カクヨムで来月からロイヤリティプログラムってのが始まるんだよ」


「あー、うん。お知らせでそんな難しそうな言葉が書いてあった気がする」


「収益化って意味なんだけど……あれって実は保護者の承諾があれば小学生が書いた小説でも読まれた分だけ広告料とかのお金が貰えるのさ」


 僕がそう言った瞬間―――美也ちゃんの動きがピタリと止まって、その後まるで彼女の中で何かスイッチの入るような音が聞こえた気がした。


「本とかにならなくてもいいの!? それやりたい! 私も小説書いてお金を貰いたいっ! 康太お兄ちゃん私にそのやり方を教えてっ!!」



 結局、美也ちゃんからはどうしてお金が欲しいのか聞くことが出来なかったけど……


 野康高校2年生。10月初旬、書籍化も果たしたWeb小説作家である現役高校生の僕は、隣のアパートに住むバイトの出来ない中学生の女の子の貧乏少女がカクヨムという小説サイトで自力でお金を稼げるようになるまで全力で応援することを決意した。

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