第18話 外交後 リナとキースとフランシスの最後のお話

 私は退出後、扉から少し離れた……近衛騎士の警備の邪魔にならないくらいの所で、壁を背に寄り掛かって待っていた。

 まぁ、邪魔になってもとやかくは言わないのだろうけど、一応。


 その内に扉が開き、ぞろぞろと人が出てくる。

 キースが目ざとく私を見付けてやって来る。

 他のグルタニカ王国の人達は、部屋へ戻って行くようだけど。

 アボット侯爵は、何か言いたげにこちらを見たけれど、ジークフリート殿下に促されて行ってしまった。


「お疲れ!」

 日本の職場でしていたように、片手を上げて気安い挨拶をした。

「軍の礼服を着ると、可愛くなるんだな。どこの子どもが迷い込んできたのかと思ったぞ」

「なんですって?」

 誰が子どもよ。誰が。

 って、自分でも少しは思っていたけど。


「そんな顔をしていると、本当にさらってしまうよ。リナ」

「フランシス殿下まで」

 私は、ぷぅっと頬を膨らませる。リリアーナ姫だったら、絶対しない表情だ。

「君はこの国ではずいぶん子どもでいるんだね」

 フランシス殿下が、私の頭を撫でてくれる。気持ち良い。

 兄妹なのに、向こうの国ではこんな触れ合いは無かった。

 

「まぁ、冗談はさておいて。君はまた、すごい肩書を付けているんだねぇ。連れて行けない理由が出来て、助かるけど」

 なんだか、懐かしまれている。

「本当は、僕としては君だけでも連れて帰りたいのだけどね。君だけでも」

 私だけでも? 


「それより良かったの? 君の発言。うちの公式の記録にも残るけど」

「今更でしょう? 今回の使節団のメンバーからして」

「それはね」

 気付かれていたかという感じで、フランシス殿下は苦笑いしているけど。

「動いてくれるかな? マリユス・ニコラ」

「動くだろう。お前が生きていて困るのは、王太子側だ。向こうとしても連れ帰るのが、ベストだろうけど。無理だという事が分かっただろうし」

 キースが、口をはさんできた。


「これをやるよ」

 どこに持っていたのか、ぶよぶよの袋をキースがくれた。

「胴体に巻いてな」

 ふ~ん。血のりが入った袋ね。

「こういうの作るの好きだよね。悠人って」

「本当に殺されるわけにもいかないだろ?」

「ありがたく貰っておく。もう、こんな風に話せるのも最後だろうし」

「そうだねぇ」

 離れがたいという感じで、言ってくれたのはフランシス殿下だった。

 こういう時のキース……いや、悠人は意外とそっけない。

 内心はどうだか知らないけど。


 私の向こうでの立場は、第一王女リリアーナ・グルタニカ姫。

 第二王子が暗殺されてしまった今、王太子に次ぐ王位継承権を持っている第三王子フランシス殿下。


 グルタニカ王国は、王位継承者を男性と定めていない。

 リリアーナ姫が、自分の兄であるフランシスに忠誠を誓ったのは、フランシスと争わない為。


「どちらにいても、国のトップになる事は、変わらないのだろうにね」

 そんな、フランシス殿下のつぶやきが聞こえる。

 私は、振り返らずに自分の職場に戻って行った。

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