第109話サイラス・ホールデン団長のリナ嬢 考察 2 108話サイラス側

「俺、二度目は無いって言ったよな。リナ嬢?」

 前回、忠告してやった。今回は、分かって来てるんだよな。

 ーったく、ただでさえ親父のことでイラついてるってのに、なんでガキの相手までしないといけないんだ? いや、ただのガキじゃ無いのは分かってるけど。くそっ。


「このまま放置していたら、内乱まで発展してしまいます。サイラス様も、このままでは不味いと思って、みずからここにいらっしゃるのでは無いですか? 貴方が動けば、騎士団が動いたと否応なく判断されてしまいますから」

 ああ、そうだよ。それに、ここにいたら何かあった時に、探す手間が省けるだろう? 俺がここにいる理由なんてそんなもんだ。


「だから俺に王太子側で動けというのか?」

「私は王太子側の人間ではありません」

 ほう?

 そういえばポートフェン子爵は中立だったか……。

 でも、こいつは王太子殿下の側室候補になってなかったか?


「最初から、私の肩書きは『国王代理』です。だから、宰相様ですら私の意見を尊重してるでしょう?」

 『国王代理』

 何でまた、そんな大層な……、まぁ俺には関係ないか。


「それで? 俺にも礼を尽くせ……と?」

「そんなこと……今更でしょう? サイラス様は私が司令官という肩書きを貰っても、部下扱いして庇ってくれたじゃないですか」

 まぁ、確かにあんたは最初から俺より上の肩書き持ってたからな。


「私は、最初から国王陛下の依頼めいれいで動いてます。王太子殿下と第二王子の身の安全の保証をしてくれと」

 は?

 バカなのか? うちの国王は。それとも、娘に依頼めいれいしたら親父が動くとでも思ったか……。

「なんで、デビュタントしたばかりの小娘にそんな依頼めいれいが来るんだ? ポートフェン子爵家当主ならまだしも……」

「国家機密なので教えられないです。まぁ、いずれ分かるかも知れませんが」


 国家機密ねぇ。

 なんか納得いかねぇよなぁ。

 リナが国王の命令書の説明をしている。

 要は、国王の意向通り動けって事だ。それ自体は、かまわない。

 第二王子派だろうが、なんだろうが俺たちが忠誠を誓っているのは、間違いなく国王陛下だ。


 だけどなぁ、リナ嬢よ。その命令書は誰が国王に依頼したんだ?

 現国王は、そんな温情に満ちた命令書など出さないだろうが。

 自分の息子達にですら、愛情をかけない。だた、国王として接するのみだというのに。


 国王陛下の意向で無ければ、俺に従う義務はないな。

 俺は、ちゃんと二度目は無いと言った。

 それ以前に、何度も忠告をした。自分の親兄弟以外の男を信用するな……と。

 俺への命令書の確認をしているリナ嬢に大股で近付いた。

 きょとんとしているリナ嬢の手首を乱暴につかんで、命令書をひったくった。


「ご存じだと思いますが、国庫に同じものが保管されてるので…」

 んなこと、分かってる。

「従わなかったらどうするんだ? 何度も警告してるよな、俺は」

 だからなんで怯えるどころか、警戒すらしないんだよ。

 俺はまだ、安全なお兄様だと思われているのか?

 これだけ、イラついてるのを隠してないのに。


「クランベリー公との交渉の時も同じセリフ言ったのですが……」

 と前置きをして、目の前のクソガキは、突然、完璧な令嬢にかわった。

 この状況で、そんなに柔らかく女の顔して笑うか?


「そうですわね。でも、そうなったら、わたくしに見る目が無かった、と思うだけですわ」

 そう言って笑って、抵抗することも無く目を閉じた。


 なんて、女だ。

「これだから女は怖い……」

 耳元でそういうのが精一杯だった。


 そうか、リナ嬢の俺への信頼は多分セドリックへのそれと同じ。

 本人に自覚は無いだろうけど、いや、自覚が無いからこそ。

「俺に対するリナ嬢の信頼とはそういうことなんだな。どおりで、セドリックが俺を敵視してくる訳だぜ」

 アラン王子と一緒にうちの夜会に現れたときに、俺が言った社交辞令が本当になりそうだ。


『あっという間に、私たちの手の届かない存在になるのでしょうね』


 まぁ……兄として妹を抱っこするくらいは許してくれ。

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