第93話 今は剣の練習よりダンスの練習だろ?

 セドリックはクランベリー公の指導の下、近衛騎士団副団長の仕事を日々こなしていた。

 私はと言えば、どうせ司令官の仕事なんて出来ないので、いつも通り新人騎士として剣の練習に励んでいた。


 セドリックとサイラスの間で、何らかの交渉が行われたようだが、私には教えてくれないので、聞かなくても良いことだろう。正直、あの辺の考えはよく分からん。


「司令官なんていうから、すげーって思ってたら全然変わんないなぁ」

 って、いろんな人から言われた。

 今のところ、仕事出来無い子なんだから、変わりようが無い。

 剣は軽量にして特注したものに変えて貰った。

 前からセドリックが注文を出していたものが、やっと仕上がって来たらしい。

 ちなみに、殺傷能力も軽減されてる。

 剣は意外と重い。多少体幹を鍛えても筋トレしても、剣の重さに私の身体が振り回されているように見えて、周りが怖がるらしい。

 なんで? 私、そんなに危なそう? 周りで訓練できないほど?


「もう、怪我させたくないからなぁ」

 フィルは、そんなこと言ってた。

 訓練しながら、他の騎士とも雑談する。

 なんか、前の事件の作戦はどうだったとか、最近の小競り合いがどうだとか。

 団長が、何か言ってくれたのかな?

 部隊ごとに、色々雑談に混ぜて話してくれるので、色々勉強になってた。

 最近は、持ってきたお菓子とかも食べてくれるようになったしね。



「ところでリナ嬢は、剣の訓練にかまけてて良いのかな?」

 訓練場にきていたサイラスから、いきなりそんな風に声をかけられた。

 ん?

「特に、やること無いですし。皆さんの話は勉強になりますよ?」

「ふ~ん。以前、クリフォードに出来無いところ庇って貰ってたダンス、出来るようになったんだ」

「へ?」

「未来の公爵夫人が出来無いなんて、許されないよ? 社交界で何と言われることやら……」

 マジですか。

「セドリックが恥をかくどころか、公爵家がいい笑いものになる」

「え……と、団長?」

 剣の訓練場にいるのに、サイラスの雰囲気が団長のそれじゃない。


「あいつさぁ。あんた守るためだったら本当、何でもやるよな。俺に頭下げてきたんだぜ。心底イヤだったろうに……敵方の俺に借りまで作って。多分、クリフォードのところにも行ってるぜ」

 セドリックが?


「半分は俺の所為だけど。いい加減自覚持ってくれ。宰相とうちの親父の推薦で司令官になって、セドリックの婚約者だろ? 今のあんたは、王太子派、第二王子派の両方の庇護を受けてるように見えるんだぜ。悪い言い方すれば、、だからな。貴族社会だったら、羨望より嫉妬の対象だろうが」

「そう……なんだ」

 そんな風に思われるんだ。知らなかった。


「あいつに、あそこまでさせてるんだ。自分のすべきこと、分かるよな。夜会で俺らが張り付いてても、ダンスや礼儀作法のフォローまでは出来無いからな」

 ポンポンと私の頭叩いて、サイラスは行ってしまった。


 世界を超えても、苦手分野を放っておくとロクな事にならないらしい。

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