第81話 近衛騎士見習いリナ 誰も死なせたくなくて頑張ってるのに……

「ジークフリート様には、必ず国王になって貰わなければならないんです。史実からも分かると思うのですが、王太子の国王就任率は低いです。本当に何か呪いでもかかっているかのように……」

 リーン・ポートの事を言えない以上、理由はぼかして言うしかない。


「そして、それに伴って争いやひどいときは内乱にまで発展し、騎士や貴族が大勢亡くなってます。海外からの船が紛れ込んでいるのは、ご存じだと思いますが」

「ああ。私の方にも、報告が上がって来ているよ」

 ジークフリートは、自分の執務室に上がってきている報告書を思い浮かべているようだった。


「今後、本格的にこういうことが増えてきたときに、王位継承時のゴタゴタで国力を減らしていたら、国の存続が危ぶまれます。ですから、代々王太子がスムーズに就任出来るようにしていきたいのです」

 王子たちは黙って聞いてくれている。それぞれの心の内はわからないが。


「リナは、派閥を1つにまとめたいって言ってるんだね」

 ジークフリートが私に訊いてきた。

「いいえ。派閥を潰したいと思っているわけではありません」

 独裁国家を作りたいわけじゃ無い。


「それって、ケンカ売る必要あるの?」

 アランが訊いてくる。

「ホールデン侯爵家は、今、この国で一番の勢力だと聞いてます」

「そうだね」

「そのような強い勢力の当主が、弱い立場の人間の話をきいてくれるでしょうか? 私で無くとも、他の派閥の人間トップの話でも……」

「聞かないだろうね。というか、聞いてたら第二王子派は二分にぶんしてない」

ジークフリートは溜息交じりにそう言ってきた。


「そこまで言うのなら勝算はあると思うけど。失敗したら、リナが一番危ないんじゃない?」

 アランが、少し不安げに訊いてくる。

 まぁ、それはそうだけど……。

「僕のいのち使う?」

 唐突にアランが言った。まるで、道具を使うかのように……。 

 え?


「だって、僕が死んだらホールデンはジークを狙う必要無くなるよ」

 何言ってんの? アランは。

「ダメです。それじゃ意味が無い。20年前の恨みで生きている人間にそれやっちゃぁ、ダメで……」

 いや……ちがう。そういうことを言いたいんじゃない。

 私はそんなことのために、頑張って来たんじゃない。

 パタパタパタ……こぼれ落ちる水滴が見える。私……泣いてる?

「リ……リナ?」

「リナ嬢?」

 2人が慌ててるのが見える。アランからふんわり抱きしめられた。


「違う。私、誰も死なせたくなくて。2人とも助ける為に」

 助けたくて頑張ってるのに。死なせるために動いてるわけじゃ無いのに

「なんで……そんな、簡単に……た……立場とか……身分とか……」

 そんなものに縛られて……。

「死ぬのが、怖くないはず……ないでしょう? 嫌です。死なせたくない、もう誰も……。何のためにこんな……死なせるつもりなら、最初から……動いて……ません」

 なんか……一番泣いたらいけない人たちの前で、わぁわぁ泣いてしまった。


 だって、クランベリー公はやっぱり怖かったし、剣の訓練はしんどかった。

 これからのことだって、怖くて考えないようにしてるのに。

 その前のトラウマは自分の所為だけど……それでも、やっぱり辛くて……。

 それなのに、それなのに……。

 王子たちはオロオロしてる。謝ってる声なんか聞いてやらない。

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