第73話 リナちゃんは下町に行きたい 団長の提案とセドリックの嫉妬?

「……で、リナ嬢は市場調査をしたいんだったな」

 団長は咳払いをして、本題に戻った。

「はい。でも、同行して貰うための適任者が思い当たらなくて」

 セドリックの前じゃ、庶民に感覚が近い騎士の話なんかできないものね。

 団長も無かったことにしてくれてるし。


「こっちで言うより、宰相のところに持っていた方が良くないか? その話。騎士団の方からは、護衛を出すとして。クリフォードとかの方が、情報持ってそうだしな。こっちから、話を持って行こうか?」

「あ……それは、こっちでします。って言うか、付き合いあるんですか? 団長。クリフォード様、王太子派なのに」

「仕事に派閥は関係無いだろう。ああ。リナ嬢は、根本が分かってないのだな。確かに騎士団内は部隊ごとに派閥が決まっている。これは、内乱が起きた時、派閥間の争いになることが多いから、混乱を避けるために決めたことだ。どうしても、俺たちが直接戦う事になるからな」

 なるほど、さっきまで笑い合ってた仲間と戦うのは、嫌だものね。

 部隊違ってても、嫌だろうけど。


「つまりは、派閥にこだわって仕事してるのは、近衛も含めた騎士団だけって事ですね」

「そういうことだ。宰相のところで話し合ったら、護衛の依頼をしてくれ。下がって良いぞ、二人とも」





 騎士団長のところを辞して二人で……私が前で護衛のセドリックは一歩下がってって感じで……王宮内の廊下歩いているんだけれど。


 なんで、不機嫌モードなんだよ、セドリックさま?

「言いたいことがあるならハッキリ言って下さい」

 私は、前を向いたまま歩きながら言う。

「いや、仕事に関係無いから」

「仕事に支障をきたしそうだから言ってるのですが。不機嫌モードで付いてこられたら迷惑です」

 時々、こいつ壊れるな。

 まぁ、21歳だったら仕方ないのかも知れないけど。


「さっき、団長と何があったんだ?」

「ああ、警告されたんですよ。そろそろ、子どものふりは通用しなくなるので、親兄弟以外の男を信用するなって。庶民感覚に近い騎士を同行者に混ぜたいっていったら、叱られました。それだけです。団長に聞いても同じ事を言いますよ」

「それで、四六時中張り付いとけって言ってたのか……で、何されたの?」

 それ……言わないといけないですかね。溜息が出る。


 セドリックの前に、手のひらを出す。

「ここの、マメのところに口付けられただけです。それ以上のことは、何もありません」

 そっと、セドリックが私の手を取り。団長と同じところに口付けた。さっきのような、嫌悪感は無いけど……。

 そして手を握りこんで手の甲の側、手首にも口づけを落とす。

 そのまま、まっすぐ私を見た。


「まだ発表してないだけで、リナちゃんは俺の婚約者じゃなかったけ?」

 そう……なんだけど、あれ? 怒るんだ。

「そうでした。ごめんなさい」

 なんか、これじゃセドリックも私のこと好きみたい……って、勘違いしちゃう。

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