第49話 宰相様の執務室 セドリックとの交渉

 宰相と雑談すること、小1時間。騎士団の制服を着たセドリックがやってきた。


「失礼します。お呼びでしょうか」

 セドリックは私に気づいたようだけど、無視された。

「任務です。本日付けで通常任務を外れ、リナ・ポートフェン様の護衛につくこと。ただし、私からの命令では無く、あくまでもリナ様からのお願いなので、拒否権があります」

「拒否権……ですか。質問してもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「私が拒否したら、どのようになりますか?」

「リナ様のことですか?」

「はい」


「安全な場所での、保護。と言う形になりますね」

 どうやら宰相は味方じゃ無いらしい。仕方ないけど。

 だけどさ、交渉をマイナスから始めさせなくても言いと思う。

 ただでさえ気まずいのに。


「どちらにしろ、私がいたら返事はしにくいでしょう。人払いして席を外しますので、リナ様と話し合って下さい。リナ様、私は1時間ほど執務室をあけます。その間に交渉なさって下さい。失礼します」

 痴話ゲンカは聞きたくないとばかりに、サッサと出て行った。

 いや、違うからね。

 宰相が出て行き、人の気配が完全に無くなってから、セドリックがこっちを見た。


「リナちゃん。さすがの俺も、ちょっとばかりムカついてるんだけど?」

 いや、ちょっとどころか、かなり怒ってるよね。今までがまんしてきた分が一気に来てるよね。

「でしょうね。男なら殴ってるってことですか。良いですよ、別に殴っても」

 はぁ? って顔してる。さすがにその発想は無かった?

「交渉の材料に使おうって?」

 ありゃ、そっち方向にとられたか。セドリック、本音モードになってる。珍しい。


「いや、無理でしょう。この状態でセドリック様相手に交渉できるのなら、こんな事態になってません」

「で、何? やっぱり俺に守って欲しいの?」

「それは、昨夜言った通りです」

 セドリックは、大げさに溜息をつく。

「正直言うとさ、宰相が安全なところに保護してくれるのなら、それが1番良いと思うんだけど。でも、その宰相が俺に仕事として持ってくるって事は、リナちゃんの意思を尊重するって事だろ?」

 セドリックは、この意味分かるよねって言ってくる。


「そうですね。交渉条件なのですが、私が知っていることと宰相様が知っていることは、ほぼ同じです。受けて下されば、セドリック様に話して良いことなら宰相様が話して下さると思います。先日、私が言った守秘義務とは、そういうことなので」

 ダメだ、提示できる交渉カードがこれしか無い。私が持っているものは、全て守秘義務に引っかかってしまう。

 これは、もう失敗かなぁ。


「宰相が話せないって言うんなら、国家機密だよな。仕方ない……か。いいぜ、それで」

 え? ウソ。

「受けてくれるんですか?」

「まぁ、リナちゃんの護衛受けるんなら動かせる組織増えるから、メリットはあるよ。元々、そっち方面で動いてるし。たいした負担じゃないしな。ってか、なにビックリ顔で固まってんだよ」

「だって、怒ってたんじゃないですか?」

「まぁ、引っかかるところはあるけど、国家機密じゃね。言わなかったリナちゃんの方が正しいだろ?」

「いえ……そうではなくて……。なんで? 危ないのに」

 セドリックの手が頭に伸びてきて、髪の毛ぐしゃぐしゃって乱暴に撫でた。子どもみたいなことをする。


「なんでだろうなぁ」

 完全にいたずらっ子の顔だ。ゲームで見たことあるなぁ、この顔。

「ああ、それから仕事として受けてるんだから、俺に何かあっても俺の所為。これだけは、覚えとくように」

 チョイチョイっと、手で乱れた髪の毛を直してくれながら言ってきた。

「えっと」

「俺に限らず皆、貴族社会そういうせかいで生きてるんだから。その覚悟が無いのなら。この仕事は受けれない」

「わかりました。善処します」

 私は、そんな覚悟を持てないまま返事をしていた。

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