第36話 学園の様子 セドリックとの対峙

 学園に戻るとすぐに噂を確認したけれど、あの事件の事を噂する人はいなかった。王室が動いたのだろう。

 元々、下位貴族は上位貴族の方がいなくなっても気にしない。

 しかも社交シーズンもあと1ヶ月半なので、どちらかというと婚活の話で盛り上がっているようだ。



「よう、やっと出てきたな。リナちゃん」

 廊下で待ち伏せするのが好きなのだろうか、セドリックは。

「このたびは、庇って頂きましてありがとうございました。セドリック様」

「それ、見舞いに行った時も聞いたけど」

「そうですか。すみません、自宅に帰った当初の記憶がすっぽり抜けてるので……」

 セドリックが怪訝そうな顔をする。


「お前、何かおかしくないか?」

「そうですか?」

 記憶が抜けてる事だろうか? 上手く笑えてないとか……。

「なんか、表情が無いって言うか……う~ん」

「ああ……今、感情封印してるので……理性だけで動いてるからですかね」

 こんなこと、言うつもりじゃなかったのに、口が勝手にしゃべってる。

 なんだろう……。気を抜いて良い相手じゃ無いのに。


「大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ」

 大丈夫にならざるを得ない。

「感情からは、逃げない方がいいぜ。リナちゃん」

 え?

「じゃ、な」

「セドリック様?」

「今のリナちゃんと一緒に何かする気にはなれないからな」

 そのまま振り向きもせずセドリックは足早に去って行く。


 見捨てられた? 身体が、震えているのが分かる。

 なんか、足の力が抜けて立ってられなくなった。

 誰もいない廊下にぺたんと座り込む。


 仕方ない。今回、私が勝手に動いたせいで命落としかけたんだもの。

 勝手に巻き込んで、責任まで負わせて……。その上、このていたらく。

 見捨てられて当然だ。

 ぽたぽたと涙が落ちた。これだから女はって言われそう。

 セドリックに見られなくて良かった。こんなみっともない涙。



「やれやれ。やっと泣いたか」

 セドリック?

 セドリックが、廊下にしゃがんでこっちを見てる。なんで?

「泣くことも出来なかったんだって? アルフレッドが心配してたぞ。見てられないって」

 頭をなでてくれる。

 だめだ、涙が止まらない。どうしよう。

 なんか、セドリックに抱き寄せられた。

「無理に止めなくて良いんじゃ無い? 泣きなよ、気が済むまで」

「だ……って……」

 上手く声が出ない。

「しゃべるなって」

 あきれたような声がする。


「見捨てたりしないから」

 どうしよう、本当に涙が止まらない。

 結局、人払いされたその廊下で、私はずっとセドリックにすがって泣き続けた。

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