第20話 ジークフリート殿下の説得

「怯えさせてごめんね。でも、本当に危ないんだ。アルフレッド……お兄さんには私から伝えるから、お兄さんと一緒に自宅から通ってくれないか」

「伝えないでください」

 必死に懇願した。マジ勘弁。やめて下さい。

 誘拐されるより、そっちの方が怖いです。いろんな意味で。

「兄に伝えたら、家族に伝わってしまいます。そんな憶測で、心配かけたくないのです」

 口に手をやり、うつむき加減でいう。家族に心配かけたくない、けなげな令嬢って奴だ。……言ってて空しくなるけど。


「憶測じゃない。リナ嬢」

「私を利用しても意味が無いのではないのでしょうか? 私は所詮、子爵家の娘。ここでは身分のことを言うのは禁止されているとはいえ、クラスの皆様方を見ていると、とても公爵家の令嬢と仲良くなれるとは思いません」

「エイリーンはリナ嬢の問いかけを無視したか? しなかったろう。例えこれが王宮でも無視したりしない。これまでも、話しかけたそうにしている人たちを使用人といえど、一度たりとも無視したことはない」

 それは……また……。


「俺たちは、幼い頃から一緒にいた。セドリックもそういうエイリーンをよく知ってる」

 セドリックとも幼なじみでしたか。

 まぁ、あいつも公爵家だっけか。でも……。

「お優しいんですね」

「ああ。そういう女性だから、私は……」

 ハッと、自分の口を押さえた。心なしか顔が赤い。青春だなぁ~。


 温かい目でみてたら、誤魔化すように咳払いした。

 うん。時間のあるときにゆっくり聞かせてもらおう。


「話を戻そう」

「私を誘拐して、得するお方などいるのでしょうか?」

 実際、私を誘拐して得する人たちはどちらの派閥にも大勢いるだろう。私自身のことを知らなくとも。

 王様は父を王宮に呼び戻したがっていた。


「それは…どちらの派閥にもいるだろう。少なくともアルフレッドや君の家は動くだろうからね。リナ嬢は知らされて無いようだから、私の口からは言えないが、ポートフェン家の現当主の価値を、皆まだ忘れてないから……」

 見解は同じか。父の価値……ねぇ。

 本当は、まだ聞きたいことがあるのだが、立場上言えないことは、どうやっても言わないだろうな。


 夕飯タイムの時間リミットも近いし。

「自重します」

「ああ、そうしてくれ。さて、そろそろ戻るか。紅茶、ごちそうさま」

 お互い、にっこり笑って別れた。

 ごめんね、王太子殿下。


 多分、無理です。エイリーンの思惑もあるだろうし。

 ……っていうか、エイリーンの思惑って何だろう?

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