第11話 リナのデビュタント 謁見の間

 事前にたたき込まれた作法通り謁見の間の中央に進み出て、令嬢としての礼をとる。


 玉座に王様、すぐ横に王妃様が座っている。

 少し後ろに下がって側室の方々か……。両横の壁には側近だろう貴族たちが立っている。各扉の近くには騎士団の方々、謁見の間の後方に使用人たちが控えている。

 目だけで見渡して、配置を確認するのは前世からの習慣だね。


 後は、お言葉を待つばかり。

 すると王様の口から

「リナ・ポートフェン。近くに……」

 と言うお言葉が……。

 は? 今、なんておっしゃりました?

 案の定、側室の方々がざわついてる。


 他が冷静なのは、知っていてからなのか、不敬に当たるからスルーしてるのか。

 私もスルーして「お言葉、有り難く頂戴いたします」って言って退出して良いかなぁ。って、何のギャグだよ。


「リナ・ポートフェン。余の近くに参られよ」

 聞き違いじゃなかったか……。

「国王陛下。発言をお許し頂けるでしょうか?」

 礼をとったまま訊いた。

「うむ……許す」

「恐れながら申し上げます。わたくしは、子爵令嬢としての礼儀しかわきまえておらず。身も凍る思いで、身動き一つ取れません。どうか、お許し願えないでしょうか」


「学園や家庭での教育か」

 国王陛下は、ゆっくりと不穏なことを言い出す。まずい。このままじゃ、学園の教師や家に迷惑がかかる。

「とんでもございません。一重にわたくしの勉強不足に存じます」

「そうか……。それでは、この時限り、無礼、不作法な振る舞いがあっても許す。こちらへ……」

 伯爵家令嬢と間違えている訳では無いらしい。諦めて、そばに寄る。

 もう一度礼を執った。


「顔を上げよ」

 ゆっくりと顔を上げ、微笑む。もうやけだ。

「宰相……これへ」

 王様が指図すると宰相様が、私の横に立った。

 黒髪長身の少し冷たい感じのする男性だ。


「ご相談したいことが、ございます。こちらに一緒に来て頂けますか?」

 嫌です。拒否権下さい。

「わたくしのような、礼儀もままならぬ子どもに……で、ごさいますか?」

 大変無礼だ。普通なら、顔を見ることも、しゃべることも無いだろう宰相様に、口答えしてるよ。

 でも、無礼でも良いって言質とってるもんね。

 宰相様は、さすがに一瞬も表情を崩さなかった。嫌な顔した貴族もいるのにね。


「ずいぶんと、頭の良い方だ」

 と、ため息交じりに言う。この声の大きさなら、周りには聞こえてないだろう。

 ん? 頭の良いやりとりを交わしたつもりは無いけど?

「ポートフェン家当主も呼んでおります。支度が済み次第、こちらに向かうはずです」

 ふぅん、色っぽい方の話じゃなさそうだ。

 デビュタントの謁見もまだ後がつかえているので、これ以上、ごねずに宰相様の後に付いてった。


 何なんだろうな。付いてった先が王様の寝室だったりしたら、笑えんな。ハハハ…。


 ロリ趣味じゃ無いことを祈ろう。

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