第9話 私の実家 リナ・ポートフェンとしての15年

「お帰りなさいませ。お嬢様」

 使用人の皆が出迎えてくれる。ゲームには無かったシーンだ。

 実家って言っても初めてのお屋敷で、見ず知らずの人たちに囲まれるのかと、思ってたけど。ちゃんと覚えてる。


 私、確かにここに住んでた。1年の内、数ヶ月しか使わないこのお屋敷ですら懐かしく思うのだから、領地に戻ったら心底ホッとするだろうな。

 帰っちゃダメかな。クスン。


 中に入ると、上の兄が出迎えてくれた。

「お帰り、リナ。久しぶりだね。よく顔を見せて」

 両手を広げておいでってしてくれる。

「ルイス兄様」

 駆け寄って抱きしめてもらった。上の兄は、父親似で栗色の髪をしている。アル兄よりも少し背が高く、がっしりしている。大人の体型だ。


「お兄様こそお元気でしたか? 領地でのお話をして下さるんでしょ?」

「ああ。でも、まずは父様に挨拶しておいで……書斎でそわそわしてるよ」

 会わなくても、父親の様子が浮かんだ。

「着替えなくても良いかしら」

「そのままでいいよ。早く行っておあげ」


 促されるまま、書斎に向かう。

 軽くノックすると

「お入り」

 と、優しい声がする。

「失礼します、お父様。ただいま戻りました」

 と挨拶すると、兄と同じように両手を広げておいでって感じだったので、ためらわず抱きついた。


「お帰り。学園の方はどうだい。なじめそうかい?」

「はい。クラスの皆様がよくして下さって。お勉強もがんばれました」

 お父様は、心配そうに訊いてきたが、私は、元気よく答えた。

「そうか……それは、良かった」

「はい」

 それから、久しぶりの家族団らんで……アルフレッドは寮に残っているけど……私は心から楽しむことが出来た。


 アルフレッドに会ったときも感じたけど……私の中の実感として、この世界で育った15年間が、確かにある。


 この世界に生まれ変わって、前世の記憶を思い出したんだ。

 死んだときの状態を想像すると、のたうち回りそうになるけど。

 乙女ゲームをしてたゲーム機を握りしめた状態で……って、ねぇ。


 それからは、デビュタントの支度や、マナーレッスンで忙しくなった。

 なんたって、1人ずつ王様、王妃様他側室の皆様方、主立った貴族の方々がそろった謁見の間に入り、王様と王妃様に礼をとるんだ。


 王族の方々がいる前方に近寄れるのは、伯爵家以上の令嬢で、私のような子爵令嬢は謁見の間の中央付近で礼をとり、お言葉を頂くのを待つ。

 お言葉を頂いたら「お言葉、有り難く頂戴いたします」と言って速やかに退出。


 簡単そうに見えて、この短い時間が大変なんだ。

 学園生の間は、多少の失敗は大目に見てもらえるというけど。

 あまりひどいと、親は処罰対象になるかもしれないという噂もある。


 噂を信じる訳じゃないけど、レッスンは完璧にしておこう。

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