魔法少女に倒されたい!

白星 敦士

魔法少女が大好きだから、僕はラスボスになることにした。

突然だが、僕は転生者だ。


元の世界ではどこにでもいるような極々平凡な……ちょっと人より魔法少女モノの作品が大好きなオタクであるが、それ以外は極々平凡な男子高校生だった。


ある日、中学位から疎遠になっていた幼馴染がトラックにひかれそうになり、それを助けて代わりにひかれてしまったのだが……



『あ、やっべ、間違えた』



ひかれた瞬間にそんな言葉が聞こえた気がして……気付いた時には、僕はベッドの上で目覚めていた。


病院じゃなくてベットの上で、それ以外は何も変わらない……あ、夢か。


そう思っていたのだが……ここは異世界なのだと、その日のうちに気が付いた。



無いのだ。



全く無いのだ。



――この世界に、魔法少女という“概念”が、全くないのだ!!


その日、僕は発狂した。


あれほど大好きな、愛していたとすら言っても良い魔法少女の文化が、この世界には無かった。


そんな現実が信じられなくて、僕はネットを、本屋を、レンタルビデオを、とにかく考えられるものすべてを徹底的に調べたのだが……魔法少女モノの作品をたったの一つすら見つけられなかった。


この世界には、魔法少女がまったく認知されていない。


あまりの出来事に絶望した僕は、フラフラと深夜の街を徘徊していたのだが……



――そこで僕は、怪物に襲われた。



何を言っているのかよくわからないかもしれないが、僕だってその時はわからなかった。


そしてすぐ後に、そう言えば僕ってトラックにひかれたんだと思い出す。


魔法少女の概念が消えたのではなく、魔法少女の概念がない世界に転生して来てしまったのだと、目の前の二足歩行のトカゲっぽい異形を前に自覚した。



つまり、これか?



魔法少女が消えた代わりに、こんな怪物が栄えてる世界だと、そう言いたいのか?



ふざけんなと思った。



――気付いた時には僕はその異形を殴り殺していた。



何を言っている、僕にもよくわからない。


でも事実だ。


これは……もしやいわゆる“転生特典”というのものか?


魔法少女モノのネット小説をあさる過程で、何度か見た覚えがある。


現実世界から異世界に転生した際にもらえる特別な力とかだ。


僕の場合は……これ?


この怪物を一撃で殴り殺せる力が?



呆然とした僕だったが、はっと我に返る。


場所は街中、そして目の前には怪物の死体


まき散らされた血液や臓物はグロ指定確定。


そんなところにいる僕は、一体どういう立ち位置になるのか?


暴行罪……いや、器物破損?


動物虐待か? いやでも、正当防衛……駄目だ、混乱して頭が追い付かない。


そう思ったとき、誰かがこちらに近づいてくる足音が聞こえた。


咄嗟のことだったので、思わず近くにあったゴミ箱の中身をぶちまけて中に隠れる。



メッチャ臭ぇ!!



でも隠れちゃったものはしかたがない。



「こ、これって一体……!」


「もう倒されてるポム?」



……ん?


ポリスメンが来ると思ったのだが、聞こえてきたのは少女らしい声と、幼い声が聞こえてきた。


ゴミ箱の蓋をそっと開けて様子を見て…………



――僕は、理想を目にした。



いたのだ、魔法少女が。


魔法少女の概念がないこの世界には、魔法少女の実像が、本物が、そこにいた。


現実では到底ありえない明るいピンク色の髪


フリフリの私生活では絶対に着ないような衣装


そしてその手にあるのはハートの形にカットされた宝石らしきものがはめられたステッキ


そしてすぐ近くに浮いているのは、魔法少女のマスコットらしき、犬だか猫だか判別に困るやわらかそうな毛皮に覆われた謎の生物。



「一体誰がこんなことをしたんだろ……?」


「魔力は感じないポム」


「じゃあ、どうやってこんな……うぅ」



少女は周囲に広がる異形の臓物を見て顔を青くしてしまっている。


グロ耐性はないらしい。


まぁ、魔法少女にグロ耐性があるのはそれはそれでどうかと思うけど。



「この場の情報は記録したポム。


ひとまず人目につかないように浄化するポム」


「わ、わかった」



魔法少女はステッキを構え……そして……



「えいっ」



ステッキを軽く振ると、異形の死体やら臓物やらが光になって消えた。


あきらかに超常の力――魔法だ。



「ひとまず帰って、みんなに相談ポム」


「そうだね、夜も遅いし、明日も学校だもん」



そんなことを話しながら去っていく魔法少女と


そして……僕はゴミ箱の中で、去っていく魔法少女を見送った。


魔法少女を現実で見たという事実の余韻に呆けつつ、僕はゴミ箱からゆっくり出て空を見上げる。



魔法少女モノの作品にもう会えないと思って絶望したが…………そうか、この世界は、僕の理想郷だったんだ。



――魔法少女が実在する世界。



そこに僕は今、この転生特典らしき奇妙な力と共にやってきた。



夢心地のまま、僕は一人夜道を歩く。



そして先ほどの魔法少女の姿を頭の中で何度も思い浮かべながら、ふとあることを思い出して足を止めた。



「……僕は今後、どうするのが正しいんだ?」



そもそもどうしてこの世界に転生したのか、転生した割には普通に家族は変わらず、僕の記憶の通りだったし……


そしてあの異形はそもそもなんだったのか、謎はまだまだたくさんあるが……



「いや、一番大事なのはそうじゃない……僕にとって一番大事なのは……どうすれば合法的に、あの魔法少女の姿を近くで毎日見られるか、だ」



そうだ、他の問題など些末なことだ。


この世界にとっての唯一の魔法少女である彼女以外にはもう僕には心のよりどころが存在しない。


だからもう、最低でも一日に一回はその姿を拝まなくてはならない。


そうでなければ死ぬ。僕の心が。


だが……ここで魔法少女モノ作品を愛するオタクとして一つの問題点が生じる。



――魔法少女モノに男の存在不要論



ちなみに僕の場合、モブや、魔法少女複数人いる場合の憧れの先輩がいる、までならセーフとするが……カップルになるとか、無駄に距離の誓い幼馴染とか絶対に無理。


魔法少女モノなら、仲良くなるならやっぱり同じ魔法少女同士でなければいけないんだ!!


さっきの魔法少女……仮に魔法少女Aと仮称しよう……が言うには、他にも仲間がいるっぽい。


つまり、魔法少女同士のキャッキャウフフは見られる可能性は高い。


だが、そこに僕が加わるのはどうなんだ?


いや、論外。


花は見て愛でる者で、迂闊に手で触れて手折ってしまっては元も子もない。


つまり、僕が求めるのはあくまで部外者。


第三者的な目線で、魔法少女同士のキャッキャウフフが見たい。


しかし、それだけで満足かというとちょっと違う。


やっぱり魔法少女は変身しているところも込み。切っても切り離せないのだ。


魔法少女Aもマスコットも、人目を気にしていたあたり、やっぱり他人にあの変身してる姿は見せたくないということ。


つまり、単なる一般人では変身している姿を合法的に拝めない。


じゃあ僕の異形を殴り殺したこの力で仲間にしてもらう?


――いやいやいや、それじゃ最初の却下した項目に矛盾する。



「ぐ、ぐぬぅ……!」



思わず頭を抱え込む。


くっ……魔法少女のことを観察するためには身近で、かつ、親密にならない状態で、周囲には隠している変身してる姿を見られるポジションでなければならない。


だが、そんな都合のいいポジションなんて……



「――妙な気配がすると思いきや……私の僕を倒したのはあなたね」


「っ!!」



可愛らしい声がして振り返る。


そこには、先ほどの魔法少女Aとはまた違った、なんかヒールっぽい暗い色合いで尖った感じの意匠のコスチュームを着た、少女がいた。


――まるで序盤は敵として現れるが、中盤から魔法少女の仲間入りするような感じである。



「はっ……!」



その時、僕に天啓が舞い降りた。



あるじゃないか、最高のポジション



魔法少女をすぐ近くで見られて、親しくならず、その上変身してる姿も見られる!


――そう、敵役!


魔法少女の敵になれば、魔法少女としての理想的な姿をばっちり観察できる!!



「一体あなたが何者か」「どうかあなたのしもべにしてください!!!!」「喋って…………はい?」



鞭っぽい武器を取り出した目の前の少女に、僕は即効で土下座したのであった。


色々と大変なことをしてしまったような気がしないでもないが……いいや、もう気にしない。


魔法少女はあらゆることすべてに優先される!


っていうか、もうすでに一回死んでるんだから今さらこの程度のことでグダグダ悩んでいられるか!





そして……怒涛の時が過ぎていく。


転生特典である異常な身体能力によって無事に魔法少女(予定)Bのいる悪の組織的なところの下っ端に就職できたのだ。


なんか普段は魔法少女も悪の組織も魔法の力で認識を誤魔化してるので一般人には認識されてないらしい。


でも僕にはそれが利かないようだ。


そういう体質の人間も、稀にいるらしい。まぁ、体質って言うか転生特典の影響だろうけどさ。



「さぁ、キリキリ働きなさい!」

「イエスマム!!」



学校があろうと朝だろうと夜だろうと関係なく呼び出され、ひとまず力任せに街中を大暴れ。


あ、人は傷つけないよ。でも違法駐車してる自動車とか自転車は全力で破壊する。


たまに信号無視する車も見かけたら破壊します。でも運転手は傷つけません。



「えぇい!」

「あぎゃあああああああああ!」



魔法少女がやってきてこちらに攻撃してきて、とりあえず上司である魔法少女(予定)の肉壁くらいになる。


魔法少女を攻撃? いや、駄目でしょ。そんなの論外だわ。(真剣)




「なんで攻撃しないのよ!」

「ぎゃああああああああああ!」



そして魔法少女を攻撃しないことで毎度毎度上司にボコられる。


魔法少女にボコられて上司にもボコられるが、一時間くらい経てば回復するくらいに慣れてしまったので、同僚の異形や怪人から化け物を見るような目で見られる。解せぬ。


明らかにそっちの方が化け物の外見なのに。


で、そんなこんなで……



「あんたも、こっちに来なさい。


どうせ役立たないだろうけど……今度は……わ、私が守ってあげるわよっ」



上司、組織を裏切るの巻(歓喜)


いや、まぁ、僕は普通にその誘い断りましたけどね。


僕って頻繁に現場で魔法少女と接触するけどこれまで一度も攻撃してこないし上司の肉壁になってたから何故か好感度が高かった。


あ、今更だけど魔法少女は今回上司を加えて五人になった。


上司をBとして……魔法少女C、D、Eは、僕がここで上司の言葉を拒否したことに驚いた様子だ。



「ど、どうしてですか?


あなたは……あなたは、優しい心を持ってるのに、どうして……!」



魔法少女Aが悲し気な顔を見せる。


その姿にちょっと胸が痛むが……違う。違うのだよ。


僕には優しい心などなく、ただただ私情を持ち出しているだけなのだ。



「僕はただ、僕の欲望のために動いているだけさ。


そしてこれからもそれは変わらない。


君たちの前に敵として現れるだけだよ」



そう言い残し、僕はその場から去った。



――さて、上司がいなくなったことだし……



「組織改革と行こうか」



「や、やめ――!」

「馬鹿な、なぜこんな力が――!?」

「ひ、ひぃいいいい!!」



逃げ惑う異形に怪人


そう言った存在をすべて力で黙らせた。


今まで上司にパワハラセクハラ三昧だった連中は特に念入りに潰し、そしてその諸悪の根源である組織のボスもぶっ潰した。



「――さぁ、これで今日から僕がこの組織のトップだ」



上司と共に、何度も現場で魔法少女たちと相対してきて……僕は考えを少し変わった。


敵役であることこそ、魔法少女の理想的な姿を一番近くで見られる。


それは変わらないが…………だが、今までの僕は果たして本当にそれを果たせていたのだろうか、と。


いいや、NOだ。


だって、彼女たちは僕を味方に引き入れようとした。


それじゃ駄目だ。


駄目駄目だ。


違うんだよ、僕はそういうのがしたいわけじゃないんだ。


――魔法少女の真に愛する者として、僕が見たいのはそんななぁなぁで終わらせたようなことじゃない。


絶対的な不条理を前にして、それでもなお、自信の信じる幼い正義を押し通す健気ながらも勇ましく強い姿!


それこそ、僕が見たい。


それが、僕が一番に憧れ、欲し、心から好きになった魔法少女なのだから!


故に、そんな魔法少女を見るためにはどうすればいいのか、上司と一緒に行動している間ずっと考えた。


考えて考えて……天啓が再び舞い降りた。



――最終回を演出すればええねん。



そう、最終回、そのラストバトル。


魔法少女モノに限らず、あらゆるフィクションにおいて決して逃れられない呪縛であり、福音。


胸を抉るような痛みを伴いつつも、魔法少女たちの雄姿、これまでの苦悩や楽しかった思い出、そのすべてを集約した感動のフィナーレ。


――この魔法少女が実在する世界でも、悲しいかな時間は普通に流れていく。


あの魔法少女たちも、いずれは大人の女性となり……老いていく。


それは自然なことであり、決して悪いことではないのだが……魔法少女を愛する者として、どうしてもそんな彼女たちを見ることは耐えられない。


故に……僕は考えた。



僕の、僕により、僕のための最終回!



魔法少女の全力を、最高の雄姿をこの目で見て、魂に刻んでこの世界から消滅――もとい卒業する!



「さぁ、終わりの始まりを、始めるんだ!!!!」



一回こんなセリフ、使ったみたかった。


……後で恥ずかしさに悶えたのは言うまでもない。





主人公


旧世界:魔法少女好きのオタク高校生

新世界:筋力ヤベェ上に物理魔力共に耐久値ヤベェ奴



一見するとちょっと陰キャの入ってる地味目な男子高校生


しかし、一度死んでしまったことと、現実に魔法少女がいる世界に来てしまったことで頭のネジがぶっ飛んでしまっており、魔法少女が絡まない限りはまともなので日常でそのヤバさに気付けた人はいない。


魔法少女を大好きというか、愛しており、実は変身前の魔法少女たちをちょくちょくストーキングし、困っていたらつい手助けなどしており、好感度が上がっていたが、自覚はない。


今の世界と前の世界は完全に別と考えており、今一緒に生活している家族については別人だと割り切っていて、表面上は態度を変えないが他人だと思ってしまっている。


今の世界の生活を大事に思わないと、人格破綻してる一面があるが、擬態が上手いし、他人と無理に距離を詰めたり詰めさせようともしないので、気付かれない。


目的のためなら手段を択ばない。過剰に魔法少女をいたぶった、もしくはそうする可能性のある異形や怪人を裏で間引いたり殺害したりしていた。


最高の魔法少女を見るために、自分の命すら利用しようとするサイコパス。





魔法少女A


色:ピンク

属性:太陽


主人公が最初に出会った魔法少女

街中で暴れはしても人を傷つけない主人公のことを優しい人と思っている。

違うよ、その人基本的に君の見てないところで結構えげつないことやってるよ!




魔法少女B


色:黒→紫

属性:闇→月


主人公の元上司で、組織を裏切って魔法少女に

主人公がスカウトを断ったことに実はかなりショックを受けている。

ツンデレ

基本的に彼女の知ってる主人公は鈍くさいが優しいという感じ。

裏で色々とやらかして他の異形や怪人から怖がられていたのだが、その対象は自分だと思っていたので気付いてない。



魔法少女C


色:青

属性:水



魔法少女D


色:赤

属性:火



魔法少女E


色:緑

属性:風



マスコット


説明:マスコット

…………え、他になんか語ることある?

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