世界を救った二人のその後

皐月 朔

龍を屠った天空で

 どうしてこうなってしまったんだろう、と地上を遥かな高みから見下ろしながら、これまで自分が全力を出していたかを振り返る。

「イヴ、よくがんばったな」

 頭の上から、好きな人の声が響く。首筋に感じる小さな暖かさは、おそらくジュラールが首筋を撫でてくれているのだろう、と推測する。

『うん。がんばったよね』

 褒めてくれる言葉に、自分の頑張りを認めるように、同意の言葉を返すが、いま自分の首筋にまたがっているジュラールが、この結果に満足していないことは、簡単に推測できる。

 龍となり、太陽龍を打ち倒さなければいけないとわかった時も、その結果イヴが不死となることがわかった時だって、ジュラールの顔に浮かんでいたのは、それまでの彼自身の研究が、事態の解決の直接の手段にならないという絶望だったからだ。

 内なる母に問いかけてみる。

 が、太陽龍を討伐したことで満足したのか、それまでうるさいほどだった母は、何も答えてくれなかった。最も、母の記憶を垣間見るに、目的を達成し、やることがなくなってしまえば、山奥か、地中か、あるいは溶岩の中かはわからないが、とにかく人の来ないところで眠り続けるのだろうな、ということは我が事のようにわかる。

 ともかく、どうにかして、この体質を改善しないといけない。

 これからの活動方針は体質改善だな、と龍の体でため息を吐いた。

「これからベルのとこ行って事態収束の報告だな。色々と面倒になるから、体質の事は秘密。その後は大陸の祭壇まわって協力してくれた人たちに挨拶だな」

『どこから回る?』

「そうなぁ。金の国で降りて、人の体に戻ってからだから、土の国から左回りでいいんじゃないか」

『このまま飛んで行った方が早いと思うけど?』

「お前をそんな長い間龍の体で居させるわけにはいかない。その体の時間が長いほど人の体に戻った時の負担が大きいんだから」

 人の体に戻ることを当然と考えているジュラールに、思わず龍の体で苦笑する。

『地上歩いて行くのも辛いんだけど』

 何しろ、飛んでいけば月の色が変わる前に終わるような旅路だが、歩いていけば色が変わるどころか、色が一巡して元の色に戻るまでかかるかもしれない。

「それだけ長く二人旅が出来るんだ。巡る場所も決まってるし、楽なもんだろ」

 確かに、また二人で大陸を一周するのは悪く無いかもしれない。ただ、素直にその意見を受け入れるのもなんだか気に入らない。

『人魚たちにも会えるしね』

 自分の気持ちを自覚した途端、ジュラールが水の国で人魚達に誘惑されたことを引き合いに出す。

「まだ根に持ってるのか……」

 ジュラール自身、あの時のことは苦々しく思っているのか、その声に力がなくなる。そのことで少し気分を良くしたイヴは、眼下を見下ろす。

 そこでは、精霊達が思うままに漂い、戯れ、楽しそうに過ごしている。本来ならばとても上って来られないような場所まで無理矢理集められ、あとはただ地上に落ちていくだけの精霊達だ。しかし、いつも以上に月の光が近いため、彼らが発する光はいつも以上に明るい。頭上を見上げれば、この体にならなければ見ることができないほど大きな月が、圧迫感すら感じさせるほどの迫力でそこにある。

 今後のことは、もう少しここで月の光を浴びながら話し合おう、と決める。

 話が長引くよう、あえて関係の無い話を持ち出し、天空の誰も邪魔が入らない場所で久しぶりの穏やかな時間を満喫する。

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